表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏目、部活やめるってよ  作者: うつろあくた
5/10

Fuel supply.(燃料補給)

「陽菜ちゃん!」


 わたしはコートサイドから陽菜ちゃんに声をかけた。


「あれ、文ちゃん?」


 コートの中できょとんとした顔。


「ちょっとこっちに来てください」


 素直にこちらに駆けて来てくれる陽菜ちゃん。わたしはバッグの中から巾着袋を取り出し、口を留めていた飾りリボンを引き抜く。


「なあに? あ、かわいい袋――」


「お腹、空いてますよね?」


「え? あ、うん、そうだね」


 ぺたんこのお腹に手を当てる陽菜ちゃん。


「これ、食べてください。本当はおにぎりとかゼリーの方がいいのかもしれないけど」


 袋から出した箱の包装紙をめくる、というより破り取る。


「わ、もったいない」


「これ、食べてください!」


 ふたを開けて差し出したのはホワイトデーのアソート。試合が終わった後のデートで渡そうと思っていた。


「こんなきれいなの、雑に食べちゃうのもったいないよ」


「いいんです! お腹が空いてたら活躍できませんよ?」


「う~ん。そうだね!」


 陽菜ちゃんは少し考えてからにっこりと笑った。そしてお菓子に手を伸ばして勢いよく頬張る。


「おいしい!」


 いつもの陽菜ちゃんだ!


 次々とつまんでは口に運びガリガリと噛み砕く。あっという間に箱は空っぽになる。


 なんて、最高な食べてもらい方!


「あはは、ほんとにお腹が空いてたんですね」


「うん、すごく!」


 はにかむ口の端にチョコが付いてる。


「…………?」


 気が付いたら手を伸ばして頬に触れてた。


「えっと、チョコがついてたので」


 そう言って、わたしは指先でチョコを拭った。


「んっ」「あっ」


 チョコ付きのわたしの指先を、陽菜ちゃんがぱくんと咥えてチョコを舐め取った。


「えへへ。よし、補給完了!」


 満面の笑顔からの真剣な顔。


「……………」


 うっとりするわたしを残して陽菜ちゃんはコートへと駆け出した。


 ……………………


 …………


「おかえり」


 ずっと指を唇に当てながらふらふらとバルコニーに戻ってきたわたしを緒方さんが迎える。


「さっき、チューしかけたでしょ?」


 図星!


「……が、がまんしましたよ!」


 ピーー!


 試合再開のホイッスルが響く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ