Close battle.(接戦)
ピーー。
ホイッスルが鳴り、セット終了。
真晃のスパイクが決まり、聖葉は4セット目を落とした。これで2対2のタイ。取ったり取られたりを繰り返しているうちに勝敗は最終セットまでもつれ込んだ。
さすがは伝統の一戦? とにかく両チームの実力はかなり拮抗しているみたいだ。でもこの接戦には陽菜ちゃんの守備がかなり大きいと思う。わたしのひいき目じゃなく。
「あ~あ。取られちゃった」
残念そうにうなだれる緒方さん。試合が進むにつれてだんだん真剣になってるみたい。
「惜しかったですけどね」
試合は少し止まっている。
前セットの最後のプレイで聖葉の選手が足首をくじいてしまったらしい。その治療が終わるまで長めのインターバル。肩を借りて退場していたけど笑顔は見せていたからひとまず安心かな。
公式戦なら選手を交代してすぐに続行させるのかもしれない。でも練習試合だから。というか、両チームとも見るからにバテちゃってる。インターバルの本当の理由はこっちかもしれない。聖葉も真晃も強豪校というわけじゃないから、こうした長い試合に慣れていないんだろうな。
でもその点、うちの陽菜ちゃんは――
「あれ?」
膝に手をついてじっとしてる。前のインターバルにはストレッチしたりジャンプしたり、ひとり元気だったのに。なんだかあごも上がってる気がする。明らかにいつもの陽菜ちゃんじゃない。
いや、当たり前か。毎日のように助っ人をしてきたんだから……
「いや、ありゃただのガス欠」
ぱたぱたと手を振る緒方さん。
「お腹空いてるだけ。あいつ燃費悪いでしょ。今日は普段より動き回ってるし」
「え?」
壁の時計を見る。
「ああ! おやつの時間!」
「こんな長引くとは思ってなかっただろうしね」
そうか、だったら。
「あの! わたし、行ってきます!」
床からバッグを掴み上げる。
「へ、どこへ?」
ぽかんとする緒方さんを残して、わたしはバルコニーの観客をかき分けてコートに降りる階段へと向かう。