Whistle.(試合開始)
「うわぁ、小さいなぁ」
緒方さんが肩をすくめる。たしかにチームに混じると陽菜ちゃんの小柄さはひときわ目立つ。
「ていうか相手チームはさらにでかいし。同じ学生か?」
「はい。真晃学園のチームですね」
真晃は同じ市内の学校でランクも同じくらいだったけど、制服のかわいさでわたしは聖葉を選んでしまった。
「聖葉と真晃のバレー部とはずっとライバルで、この練習試合は年に一度の伝統の一戦なんだとか」
「それにしちゃ(観客)少なくない? 伝統の一戦でしょ?」
「えっと……そう思ってるのはお互いの部同士だけなんだそうです」
「納得。聖葉の運動部に期待するのが間違いだった」
「こ、こら……聞こえますよ」
慌てて小声でたしなめる。バルコニーに並んでる人たちみんな運動部なのに。
ちなみに陽菜ちゃんが助っ人した部の人たちが陽菜ちゃんの応援に来てくれてる。
「あんな小っちゃいのが活躍出来んのかなぁ」
確かにバレーは身長がものを言うスポーツだけど。でも――
「活躍するって、陽菜ちゃんは言ってました!」
「陽菜は点を入れるの?」
「陽菜ちゃんは“リベロ”なので守備専門です」
「え、守備なの? 地味だな」
ふだん物知りな緒方さんだけど、バレーボールのルールについてはわたしのほうが詳しい。
ユニフォームを畳みながら陽菜ちゃんから教えてもらったから。
「スパイクを決めたときよりも、スーパーレシーブを決めた方が湧くって言ってました」
「ふうん」
緒方さんの生返事と同時にホイッスルが鳴り、試合が始まった。
向こうのサービスから。
バシーン!
音からして強いサーブだ。陽菜ちゃんと逆サイドへ一直線に飛んでくる。
ビムッ!
正面で受けたのにレシーバーは体勢を崩してしまう。その後の連携も乱れて相手コートへ返すのが精いっぱい。
つまり相手にはチャンスボール。備える聖葉ブロッカー。
「あっ」
時間差だ。ブロッカーはきれいにおとりに釣られてしまう。半テンポ空けて飛んだ本命のアタッカーがスパイク。
そしてボールは誰もいないスペースに突き刺さ――らない!
「陽菜ちゃんっ!」
陽菜ちゃんは惑わされてない。ボールよりも速くスペースに飛び込んできた。
「え? あれ? 陽菜こっちにいなかった?」
陽菜ちゃんの動きについていけてない緒方さん。
「上がったーー!!」
レシーブした陽菜ちゃんが声を上げる。
そして歓声!!
「ほらあっ!!」
うれしくて緒方さんを振り返ってしまう。
「ドヤ顔」
苦笑される。
陽菜ちゃんのレシーブを起点にして今度はこっちのチャンスボール。
で、バシン。
聖葉のスパイクが決まる。
チームメイトとハイタッチする陽菜ちゃん。
「陽菜ちゃーん!!」
ああ……こんなにかっこいい子がわたしの恋人でいいのかなぁ!