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奴とあいつの話 後編

なんだあの服。


いつもできるだけ早く教室に来て、黙々と課題を進めているやつが珍しく遅刻スレスレで滑り込んできたと思えば、更に珍しいことに普通の女子大生みたいな服を着て来た。


授業後、女友達に囲まれたそいつの話が途切れ途切れに聞こえてきた。

別の大学に通う姉の家に泊まったら、着ていた服を勝手に洗濯され、これしか貸してもらえなかったと。恥ずかしいし動き難いし、もう絶対着ないと。


その後、俺は学内にあるカフェに来ていた。普段は全く来ないが、課題のためだ。

このカフェが、夏休み中に改装し後期にリニューアルオープンするようで、そのためのポスター案を再来週に提出するよう言われている。

アイスコーヒー片手に店内をぼーっと眺める。客はほとんど女子学生だ。ボックス席ででかい声でケラケラ笑いあっているグループもいれば、カウンター席で熱心にレポートなどを書いている人もいる。誰もかれもずいぶん寛いで、ここは奴等の縄張りか?

資料として配られた完成予想図とコンセプトを見る。店の規模はさほど変えないようだが、男子学生の利用数を増やすことと、学生間の交流、発信の場にしたいだの云々。

これは別の店と比較するのが手っ取り早いと思い、何パターンか店内をざっくりスケッチした後、街の別のカフェに行こうと席を立った。

そこで、少し離れたソファー席にあいつが座っているのが見えた。普段と雰囲気が違いすぎて気付かなかった。

「おい。」

何を話そうかなんて考える前に声をかけていた。どうしよう。

「あれ、珍しい奴がいる。あんたも課題?」

「そうだ。…お前、ここよく来るのか?」

「うん。ここお昼になると焼きたてパンがあるんだよ。リニューアルしても無くならないといいなぁ。人も少ないし割と静かだし、読書とか考え事するのによく来てた。飲み食いしながらできるし。」

確かに図書館ではこうはいかない。テーブルには、大きいサイズのコーヒーとパンが2つ、何冊かの本と白無地のノート。こいつもスケッチでもしていたんだろう。

「ずいぶん居座る気満々だな。」

「いいでしょタダで居るんじゃないんだし。…でもずっと、ここはこういう静かなお店なんだと思ってたから、急に利用率上げるとか交流拠点にするとか言われてもピンとこなくてさ…」

「服装が変わると性格も変わるのか?歯切れ悪いな。」

「まだ案がまとまってないだけですぅ。途中経過聞かせてやったんだからあんたも話しなさいよ。」

ソファーの空いてるスペースをポスポス叩く。隣座っていいのか?

「俺は別の店と比較して考えようと思って。成功例見たほうが早いだろ。」

そう言ってそそくさと立ち去る。今日のあいつと同席したら、俺の場違い感が増す。


そして街に来たはいいものの、なんだか集中できない。

別に今日はバイトも無いし、あのままちょっと話し込んだって良かったんじゃないか。一緒に来るかって言えたら、うちの学生よりもっとキラキラした女性が多い店内にも怖気付かなかったんじゃないか。いやでもあそこに居座る準備してたし、やっぱり誘っても無理だったはずだ…。

いやいや俺は何を考えているんだ。課題だ課題。

無理矢理意識を戻そうと頑張ってみたが、今日は無理そうだ。食糧調達して、部屋にこもろう。


缶ビールを開け、唐揚げを頬張り、資料片手に寝転がる。

学生間の交流か。交流ねぇ…。

交流するにはまず、双方が交流したいと思わなければ。それには、お互いに興味を持たないときっかけすら生まれない。お互いに興味を持つには…相手のちょっと意外な一面がわかると、もっと話したくなるのか…?そして、もっと話したいということを相手に伝えないと、深い話はできない…。

あれ、なんか浮かんだかも。

急いで言葉を書きとめ、次はデザインを考える。

今日店内で目に付いたのは寛いでいる女性たち。服装はどんなんだったか、あぁそうそうこんな感じ。ソファーに座ってコーヒー飲んで…って、これじゃああいつの記憶スケッチじゃないか!

缶ビールをちびちび飲みながら思い出す。似合ってたな、今日の服。もう本当に着て来ないのか。一度言ったら覆さないからなぁ。もう一回見たいな。できれば違うのも。

気が付けば、何枚もスケッチができていた。


二週間後、学部の掲示板に、選考に残った3枚のポスターが貼られていた。

俺の案は他の2案に比べ、コンセプトと若干ズレてしまった気もするが、後悔はなかった。


午後の授業が休講になったため、E棟前のベンチで読書する。校内で一番奥まった場所だから、滅多に人は通らない。半地下だから夏でも涼しい。

パタパタパタと足音が聞こえてきた。休講を知らないやつが来たんだろう。チラッと横目で見れば、あいつが早歩きで通り過ぎるところだった。

「おい!」

また今日も考え無しに呼び止めてしまった。



…言うつもりはなかったんだが。

『なんであんなポスター描いたの?』

と聞かれ、あの日のお前が可愛かったんだと正直に話し出したら勢いが止まらず、自分でもはっきり意識してなかった言葉まで伝えてしまった。

顔から火が出る程恥ずかしかったけど、でも後悔はしてない。

表現者として、一人の人間として、この照れやら恥ずかしさやらは克服していかないと、伝わるものも伝わらない、きっと。


二人での帰り道、たまにはああいう可愛い服着てほしいと言ってみたら、ふたりきりのときなら、とボソボソ了承してくれた。ニヤニヤが顔中に溢れそうになるのを必死に抑える。

彼女はまだ自分から好きだと言っていない、その事を気にしてるみたいだけど、もう十分態度に出してくれてると思う。

強がっている彼女も可愛いが、部屋でドロッドロに甘やかして可愛がって白状させるつもりの俺は、早く帰ろう、という気持ちを込めてぎゅーっと手を握った。


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