妖怪の町
「つまんな…。」
そう呟き、宮崎歩美はホコリが被った本を閉じた。
今日は正月の元旦だったため、家族で大掃除をしていた。
歩美は屋根裏部屋を親に任されたので、掃除をしていたのだが、ホコリが被った、いかにも古そうな本に何故か吸い込まれるように、手に取り読んでいた。
「つーか、いつの本だよこれ。」
本の表紙には漢字が書いてあるが、読めない。
中の文章も漢字や、よく分からない文字だったため、解読不可能だったが、中に描いてある絵を見る限り、妖怪について書かれた本とは理解出来た。
「ったく、いつの時代の本だか…。」
そう言い、いらない本と括りつけようとしたが、手が止まった。
「これくらいなら、残しても大した邪魔にならないでしょ。」
歩美はホコリが被った本を、元あった引き出しにしまった。
「歩美!
ご飯!」
下から親が呼ぶ声がし、歩美は急ぐように、屋根裏部屋から降りてった。
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「屋根裏部屋の掃除、終わった?」
母は、お餅を口で伸ばしながら問いかける。
「うん、まぁ、終わったかな。」
私は曖昧に返事を返す。
「そう言えば、テスト大丈夫なの?」
「別に、
大丈夫だよ。」
私は素っ気なく返す。
斜め前を見ると、仏頂面で食べている父を見た。
相変わらず、何も喋らない。
食器と箸が擦れ合う音が大きく聞こえたような気がした。
「ご馳走様。」
私は逃げるようにスマホに手を取り、自分の部屋に向かった。
部屋に向かう途中、スマホが聞きなれない通知音と共に振動した。
友達からなにか来たのかと思ったが、画面を見て違うことがハッキリとわかった。
「メール…?」
普段は全く使わないメールからだった。
今ではスマホのアプリで連絡するのでメールなんて今どき、全くと言っていいほど使わない。
不審に思いつつメールを開く。
『八木崎神社
14時、来、、、。』
内容も意味がわからず、メールの差出人をみた。
「空白…?」
迷惑メールだと思ったが好奇心には逆らえず、スマホのマップで、八木崎神社と調べた。
どうやら、ここから徒歩3分にあるみたいだった。
「こんな近くに…神社なんてあったっけ?」
迷惑メールの類だと思ったが、好奇心を抑えきれずに、あいつに電話した。
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「珍しいな、お前から呼ぶなんて。」
隣にいる池谷愛美は同じクラスのよくわからない仲の奴。
友達ってわけでもなく、嫌いの仲でもない。
「別に、さっさと行こ。」
「あぁ。」
何故愛美を呼んだというかと言うと、友達を巻き込みたくないからと言うのは口実で、実際は愛美が頼りがいがあるからだろう。
愛美は姉御肌でよくクラスの人から慕われている。
愛美は、人からの頼みが断れないタイプで、了承してくれるのは目に見えたからだ。
案の定、八木崎神社の道は森で、昼間なのに薄暗く、今にも何か出てきそうな雰囲気を醸し出していた。
「道、暗いから足元に気をつけろよ。」
「え?
って、うわっ!」
落ちていた木の枝に引っかかり、倒れそうになる。
「よっと、大丈夫か?」
愛美が体を支えてくれたおかげで倒れずにすんだ。
「ありがとう…。」
「お前も礼を言うんだな。」
愛美はからかうように私の頭をポンポンと叩く。
「うっさい!」
正直じゃない、行動には自分でも呆れる。
ふと、スマホを見て気づいた。
「あれ?もう着いているはずなんだけど…?」
スマホのマップには、八木崎神社と自分のアイコンが重なっている。
「ほんとだな…。
森だから接続悪いのか…?」
そんな中、茂みがガサッと揺れた。
「ヒッ!」
恐怖で愛美に近づく。
「…ケテ…。」
茂みの中から微かに声が聞こえた気がした。
「え!?
愛美!?」
「違うけど…。
帰ろうか?」
「うん!
早く帰ろ…。」
後ろを向いた瞬間驚いた。
そこには見るに耐えない姿をした男がいた。
皮膚は青ざめておりとても生きているとは思えなかった。
「愛…美。」
やっとの事で口を開く。
「走れるか?」
今は恐怖で足が動かなくなっていた。
目の前の状況を消したくて目をつぶってしまった。
「何してんだよてめぇ!!」
気の所為だろうか…。
愛美の声ではない、若い男性の声だ。
恐る恐る目を開ける。
「チッ!
消えやがった!
あいつがちんたらしなかったら退治出来たのによ!」
20代くらいの青年が地団駄を踏んでいるのが目に映った。
青年は黒髪短髪で、赤いジャージをしていた。
「なんですかー?
人生ゆっくり行きましょうよー。」
奥の方から声がし、こちらに歩いてきた子は、金髪のロングで巫女のような服装をしている。
「愛美、何があったの?」
「あぁ、なんかアイツが追い払ってくれた。」
流石の愛美を額から汗が滲み出ており、謎の安心感があった。
「で?
こいつらか?」
青年がこちらに目を向ける。
猫背だが、顔はどストライクだ。
視線が合い鼓動が高まる。
「多分そちらの方だと思いますがー。」
突然、青年が私に近づく。
「何の用ですか?
よくわかんないの追い払ってくれたのは感謝しますが…。」
愛美は前に出て青年と睨み合う。
「まぁまぁ、落ち着いてー。」
「ガキ共はしゃしゃり出てくるんじゃねぇよ。
別にお前らに用があるわけじゃねぇよ。」
「ちょっとクロくんー?
ガキ’共’って私含んでないよねー?」
「あぁ、うるせぇな!
狐野郎!!
俺のことは黒田って呼べって言ってるよな!
その名前呼んでもいいのはあのお方だけなんだから。」
青年は少女に怒鳴るが、当の本人はぽかんとした顔をしている。
「どうする?
隙をついて逃げる?」
愛美が小声で話しかけてきた。
正直言って私も変な事に巻き込まれたくないので賛同した。
私たちは青年と少女が言い争ってる…いや、正確に言うと青年が一方的に喋っている間に逃げようとした瞬間、
「おい!
どこに行くんだよ!」
と青年が大きな声で呼び止める。
「あー、えーっと…。」
私は言葉が詰まってしまう。
「もうこっちには時間が無いんだ。
手短に話すから聞いてくれ。」
急に、青年の目に影がさしたように見えた。
愛美を見ると、どうやら聞くことにしたようだ。
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「まぁ、まずはさっき出たやつの話でしますわ。
アイツのようなものを俺たちは、影ものって呼んでいる。
要するに、お前たちが居る浮世から出た悲しみや憂い、憎しみから出た悪霊ってわけだ。」
悪霊?
ゲームとかアニメに出てくる話かと思い耳を疑った。
「っでそいつらがたどり着くのがここの常世。」
「は?
常世ってことは私たち死んだってこと!?」
血の気が去るのを感じた。
「話の腰をおらないでくれ。
後でちゃんと説明するから。」
何か言いたかったが、愛美が私を制したおかげでとりあえず落ち着くことが出来た。
「常世では悪霊を払う巫女がいるんだよ、それがこいつ。」
青年が指さしたのは先程言い争いをしていた少女だった。
「ご覧の通り、こいつが立派に育つ前に先代が死んじまってねぇ…。
しかも最近は現世で何があったのか知らんが、悪霊がそりゃあたくさん。」
青年が困ったように頭をかく。
「ある程度の払い術はわかるんだが、これからの事を考えて払い術につい書かれた本を探してたってわけ。」
「…それで私たちになんの用が?」
すると、青年が私に詰寄る。
「お前だよ。
お前、持ってるだろ?」
「え?
知らない…けど?」
青年は面倒くさそうにため息をつく。
「まさか、持ってこなかったのか?」
「え?
メールだったらこれしか書いてなかったですけど?」
あまりにも上から目線だったため、イラッとし、メールを開いたスマホを見せつけた。
青年は目を見開き、スマホの画面を見た。
「クロくーん。
ここから浮世に送るのはやっぱ無理だと思うんだよねー。
むしろこの場所の名前とスマホをハッキング出来ただけマシだと思いなよー。」
「は!?
ハッキング!?
普通に犯罪犯してるじゃんこの人!」
「なんか、聞きづらいんだけどさ、浮世と常世ってなに?」
「あーもううるせぇな!
しっかり説明するから待ってろ!」
青年がしびれを切らし、怒号を飛ばす。
その瞬間みんなが口を閉じたため、青年はやれやれと言いながらまた口を開いた。
「まず、この金髪が言ってた浮世と常世の意味は、浮世はお前たちが住んでいる世界、常世は死後の世界ってわけだ。」
愛美は納得したようで、話を促した。
「んで、次は、ハッキングなんだが、もともと八木崎神社なんて存在しねぇ。
もちろん存在しないからスマホで探しても出てこないってわけだ。
それじゃあ困るから、まー、色々したのよ。」
肝心なところを話さなかったが、これ以上話が進まなくなるのは困るからツッコミはしないでおいた。
「はぁー。」
青年は溜息をつきながら目をふせた。
「まぁまぁ、黒田くん。
もう1回戻ればいいじゃないですかー。」
少女が子供を諭すような声で言う。
「バカじゃないすか!?
浮世と常世行き来できるのは1年って言ってるだろ!」
「は?
1年??
待って私たち帰れないの!?」
「それは確かにやばいな。」
愛美も焦りが出てきたのを感じた。
私たちの不安を感じたのか、少女が口を開いた。
「うーんとね、浮世と常世って、なんてゆーかな…。
浮世に比べて常世って時間が長いんだよねー。」
私たちが理解出来てないのを感じると少女はコホンと咳払いをし、気を取り直したのかまた話し始めた。
「簡単に言うと、ここでの1年は、浮世の1日だからあんしんしてー。
それに、体だって浮世の一日分しか歳を取らないしね。」
1日程度ならさほど問題は無いだろう。
私は安心したが、さっきの出来事を思い出してしまう。
「あのさ…。
常世って、さっきみたいなのうじゃうじゃいるの?」
「場所によるねー。
まぁ、安心して、安全な場所案内してあげるからー。」
少女は年相応の笑顔を見せながら歩いていった。
青年は「お人好しめ。」と吐き捨てた後、少女の背中を追う。
私たちは顔を合わせ、行くあてもないからついて行くことにした。