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08 差し入れ

「ふう……」


 溜まっていた仕事が一段落して、軽く休憩を入れる。

 部長職になってから業務量が半端なく増えた。なにより会議が多い。

 それもわかってのことか、今週は智佳からの呼び出しもない。


 もともと今の仕事は好きだし、プレッシャーはあるものの盛大なストレスは感じてはいなかった。

 ただ、来客が1日じゅう続いたりすると、さすがの俺も帰宅するときにはヘロヘロになっている。


 今日はそこまで予定が詰まっているわけではないが、少し忙しい。


 コーヒーを取りに行くついでに、なんとはなしに智佳の方を伺う。集中して仕事しているようだ。普段の会議室ではアレだが、普段は真面目だし、優秀なんだよなあ……


「部長、お客様がいらっしゃいました」

「あれ、もうそんな時間だっけ? ありがとう、すぐ行くよ」


 同じ部署の人が俺に声をかける。この取引先の人はいつも時間を早く来ることを失念していた。急いで準備しなければ。


 智佳が一瞬、こっちの方をみて視線があったような気もするけど、気のせいだろう。


 ◆


 接客が終わり俺はデスクに戻ってきた。

 思った以上に取引が難航して、ドッと疲れたような感じがする。


「今日は結構大変でしたね」


 今日、接客に同伴した山田君がそう声をかけてくる。


「まあ、そんなときもあるよ。次の面会に向けて、今日伝わりきらなかったところも含めて資料修正よろしくな」

「了解でーす」


 そんなやりとりを山田君としながらデスクに戻ると、紗々が置いてあった。


 紗々とは、あのセミビターチョコレートとホワイトチョコレートの2種類の細い線状のチョコレートを編み上げた個包装のお菓子だ。口の中でパリパリほろほろとほどけて、溶けていく独特な食感が俺は好きでたまらない。


 でも誰が置いてくれたのだろう。と、思ったが箱を開けた瞬間犯人がわかった。


 箱を開けると蓋の裏側の部分にマッキーペンでかわいらしい猫の絵が描かれていた。


 その猫から『お疲れ様です』と吹き出しが出ている。その絵と文字には見覚えがある。

 智佳の仕業だ。

 なんの意図があっての差し入れかはわからないが、ありがたく俺の好物を口に運ぶ。


 口の中でチョコのほろける感じがたまらない。仕事をしながらチョコを食べる手が止まらなかった。

 残り3つくらいになった時にふと、箱になにか書いてあるのに気がついた。


『ちゃんと食べてえらい!』


「~~~~~~っ」

 思わず頭を抱えてうつ伏せる。


 チョコを食べると見えるように箱の内側にわざわざ書いたのだろう。

 ずいぶんと手の込んでいるなと感心もしたが、それ以上にそのメッセージが素直に嬉しかった。


「……今夜はちゃんと調理作るか」


 なんとなくだが、チョコだけではなく、ご飯をしっかり食べたほうが良いと思った。

 きっと智佳も、この間の会議室での会話を思い出して差し入れしているのだろう。


 そう考えると、智佳は俺を少なからず心配して差し入れしてくれたのか。


 差し入れをもらうことも珍しく、しかもメッセージ付きとなると、感慨深くなってしまう。

 今度、ちゃんとお礼しなきゃな。


 ニヤけそうになる顔を律して、業務に取りかかった。

 糖分の補給が完了したお陰か、集中して取り組めそうだ。


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