10 社員旅行1
うちの会社の社員旅行は、特別なことがない限りは1泊2日のプチ旅行だ。
行き帰りはもちろん社員全員で集団移動だが、到着したら基本的には自由行動だ。そして、夜の宴会だけまたみんなで集まって行われる。2日目は午前だけ自由行動で、夕方前には帰りのフライトだ。
今年の行き先は沖縄で、社員みんなテンションが上っている様子だ。
ちなみに俺か? 俺は正直に言うと、少々気が重い。
なぜなら、部長に昇進してからの初の社員旅行だ。部下に気を遣わせない配慮と、旅行とは名ばかりの幹部陣の接待、それをいかにうまくできるかが、この先に少なからず関わってくると思っていたからだ。
……俺は真面目すぎるんだろうか、恐らく今の話を智佳にすると「もっと気楽に自由にしたらいいんじゃないですか」とか言われそうだな。
結局、行きの飛行機では、同じ部署の部下に気を遣わせないようにするためと、他部署の人と交流を深めるために、智佳とは離れた場所に座ることになった。
他部署の人と交流……とは言っても、基本的にお互い何を話したらいいかわからないので、早期に部長昇進を果たした俺に対しての質問タイムになることが多かった。
そんな他愛のない話をするうちに、飛行機は沖縄に到着しようとしていた。
◆
「部長と座席、離れちゃったなあ……」
私は周囲に聞こえない程度の独り言をつぶやく。部長の近くに誰が座っているかも見えない。
行きの飛行機の中でも部長とお話して、あわよくば、ちょっとイチャイチャする妄想を繰り広げていたわけではないんだけど、全くしてないと言えば嘘になるんだけど、そうだったらいいのになってちょっとは思ったり……
私は期待外れだったことに少し落ち込みながらも、まあ仕方ない、と割り切って、女子話に花を咲かせることにした。
私の隣に座っていたのは、隣の部署の女性社員、1つ下の後輩だ。
今日が初対面ではなく、前に何度か話をしたことがある。
「そういえば、栗田係長って、片桐部長とお付き合いされてるんですか?」
「へ!!?!」
いきなり後輩が思いがけない言葉を発してくるのに対して、私は思わず、すっとんきょうな声を上げてしまった。
「いやいや、そういうんじゃないよ」
「え~だって、なんかよく会議室で密会してるような話を聞きますし、この前も一緒に帰ってたって噂になってますよ?」
「そうなの!?」
そんな噂がたっているとは知らなかった。私はどうリアクションしたらいいんだろう。嘘ではないから否定するのもおかしいし、肯定するのも、そういう関係じゃないし……
私が回答に戸惑っていると、後輩がグイッと身を乗り出してきた。
「で、実際、係長的にはどうなんですか? 部長のこと好きなんですか?」
「す……!?」
ボッと顔が熱くなるのが自分でも分かる。
あーもう、私わかりやすすぎる。恥ずかしすぎて、今すぐ逃げ出したい……
「係長、顔真っ赤ですよ! 可愛い♪」
「あなた……実はいじわるでしょ」
「係長ほどではありませんよ」
得意げになるわけでもなく当然のように言い放つ後輩に、ため息をつく。
普段の部長の気持ちがほんの少しだけわかったような気がする。
「でも、片桐部長ってやっぱり、かっこいいですよね。周りの女子の間でも人気高いんですよ。あんなに若いのに部長クラスだし、優しいし謙虚だし、たまに抜けてそうなところもそれはそれでいいし……」
部長が褒められるのを聞くのは悪い気はしない。というか、ほぼ同意見だし。
「そんな部長とお近づきになれるなんて、さすが係長ですね~ 私ももっと頑張らないと」
「え!?」
思わず声に出てしまった。
頑張るってことは、この人も狙っているってことか。部長のモテ期の話は噂で知っていたが、ここまでとは……
「って言ったら、係長、焦りますか?」
「……」
私は黙って頭を抱えてしまった。調子が狂う……
「あ~ たのしい♪ 係長って案外かわいいですね!」
ほくほくとした笑みを浮かべる後輩に、完全に弄り倒されてしまっている。屈辱的だが、相手のほうが何枚か上手らしい。
私は顔が赤くなるのを抑えることができず、恥ずかしさで半分涙目になりながら後輩を睨んだ。
「……あなた、やっぱり意地悪だわ」
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