星空と黒渦
次に視界に入ったのは星空だった、夢でも見ていたかのように体は全て無事であった、星の光に思えた光は、一点に向かって進んでいく、その一点が気になり、僕はそこへ足を進めた。
「なりません、修二よ。」
どこからか聞こえるその声に僕は歩みを止めた。
「あなたは誰ですか?」
最初は聞き間違いかとも思ったが、何度も声が僕を呼ぶので、その声に答えることにした。
「その話はこちらに来てからしましょう、その輪から飛び降りて黒い渦へと参ってください。」
そこで、僕はこの空間をようやく把握した。輪の最後は数々の光が目指す一点の光なのだ。その光は温かく、包んでくれそうな優しい光、けれども声が示したのは自分がいる輪という道から外れた、さながらブラックホールのような黒い渦なのだ。見ているだけでも、吸い込まれそうな程の闇。ここに飛び込むのは随分と勇気がいる、というよりも踏み出すことが出来ない、高層ビルの頂上から黒い渦に飛び込めと言われているようなものだ。僕はただただ立ち尽くしていた。突然、僕の体は宙へ投げ出されていた。無風の空間で立っていただけなのに、僕の体は頭から落ちている。この状況に理解の出来ぬまま僕は闇の渦へと吸い込まれた。
「ようこそ、神の世界へ。それでは、この状況を説明させてもらおうかな。」
この声の主、改め金の長髪を持つ女性が言うには、自分は神テミスで、あなたの行動に感動したので、輪廻の輪から外してその記憶を持ったまま異世界へと転移さしてくれるということだった。あまりにも非現実的な話なのだが、自分の置かれている状況が既に非現実的な為受け入れるしか無かった。なんて冷静ぶってはいるが、今も心臓の鼓動は速く理解するのに一時間くらいは要しただろうか。
「異世界に行くからといって、何かをしてもらおうというわけではありません。勇者になって魔王を倒すだとか、戦争に入って欲しいなんてことはまるでなく、ただただ自由に暮らしてもらって結構ですよ。」
との言質まで貰っている、話だけ聞いてたら僕は向こうの世界でただ生きればいいらしい、勇者や魔王とか憧れはあるので少し悲しい気分にはなったが、痛みはもう前世の通り魔で充分だ。
「分かりました、引き受けましょう。本当に何もしなくていいんですよね?」
「ええ、何もしなくて大丈夫ですよ。特に問題が無ければ今すぐにでも転移させますけどどうされます?」
「では、お願いします。」
「それでは、あなたに向こうの言葉が分かるように翻訳能力をつけておきました。それでは良い人生を。」
僕の体は光に包まれて、空へと昇っていく、これから僕の第二の人生が始まるのだ。とりあえず職業を見つけないとだな。そんな思いを胸に僕は異世界へと旅立つのだった。