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仮面博士の愉快な日常  作者: 凍々
14/15

■■の定義とは

 「さて!漸く家族が集まった!実に喜ばしい日だ!歓迎の宴を始めようじゃないか!」

 父は皆の注目を集めるように、大声で叫んだ。皆が口々に騒ぎ出す。

 歓迎って誰のことだろう。回りの雰囲気に付いて行けず、一人おろおろしていると目の前にフールが現れた。

 「あ?決まってんだろ?ワンズ、お前のさ!」

 ニヤリと笑いながらそう言って、フールはわたしをまた抱き上げた。その様子を見て父がむぅと唸った。

 「フールよ……、主賓のエスコートは家主たる私の役目ではないかね?」

 「そんな固い事言うなよ親父殿……、新しいきょうだいを迎えたんだ、長男の俺が連れて行っても問題ないだろ?」

 静かに向かい合う二人。その間にバチバチと火花が散っているように見えたのは幻覚だったのだろうか。

 ――あ、あの、わたし、自分で、歩けます……。

 間に挟まれたわたし。居たたまれなくなり、伝えた気持ちは届かず、変わらず二人は睨みあっている。間に漂うのはもはや火花ではなく、殺気に近い。わたしは震えるばかりだ。アニマ兄にもらった石が赤に色を変えている。早速役立っています。

 「……旦那様、フール様。ワンズ様ガ、オ困リデス」

 マザーさんが二人の間に割って入り、助け船を出してくれた。そこで二人ははっと我に帰ったようだ。

 「私とした事が……、何と大人気ない事を!紳士としてはあるまじき行為であった……!」

 「俺も大人げなかったな……、つい熱くなっちまったぜ……」

 彼女のお陰で身の危険は去ったようだ。安心した。手の中で徐々に色は返っていくのも見えた。

 「パパとフール兄はいつも仲がいいね、アー?」

 「パパとフール兄はいつも仲がいいね、ゼタ?」

 二人の様子を見て、双子はクスクス笑いながらそう呟いているのが聞こえた。こちらとしてはいつ殺し合いに発展するかヒヤヒヤしていたのだが。とりあえず心臓に悪い事この上ない。

 「ふむ、今回はフールにエスコートを任せよう!くれぐれも、丁寧に、レディを扱うのだよ!」

 紳士的にね!と父はフール兄を指差しながら、命じていた。

 「おう、任せとけ!」

 と、兄は上機嫌な様子で答えていた。悪いようにはされないだろう、多分。


 「さて、ここでは少々手狭だね!」

 父はそう言うと、パチリと一つ指を鳴らした。すると、部屋全体がまた揺れ始めた。また何か起こるようで、不安になったわたしは反射的にフール兄の胸元にしがみつくと、直後に笑われた。

 「ハハハ!心配しなくても平気だぞ?親父殿が部屋を作り変えているだけだからな」

 兄の言葉通りで、父の立つ部分を中心にわたし達のいる部屋がまるで生き物のように姿を変え始めた。メキメキという音と共に床や天井、壁が波打つように広がり、柱は縦にぐんぐんと伸び、アニマ兄が現れた時に壊れてしまった食器や家具は時間を巻き戻しているかのように元の姿に直っていく。思考の間にも形がどんどん変わっていき、最終的には元の大きさの倍は優にある、元々広い部屋だとは思っていたが更に広い部屋へと生まれ変わった。天井のシャンデリアはより豪華に、テーブルにはなかったはずのケーキや丸鶏、高々とそびえるチョコレートファウンテン、色とりどりの果物やサラダなど、ご馳走と思われる料理が端から端まで用意されていた。

 恐らくは5分も掛からずに空間を拡大したはずだ。これも父の能力(ギフト)なんだろうか。わたしは瞬きすら忘れ、ただただ目の前の光景に魅入ってしまっていた。

 「ふふふふふ、おおお美味しそうな、りりり料理だね!」

 後ろは壁、だと思って振り返ると、そこにはアニマ兄がいた。料理を目の前に嬉しそうに笑い、体を揺らしていた。先程までは顔の半分までしか見えていなかったが、やはり全体もかなりの巨体だ。半分が人の形、もう半分は熊のぬいぐるみのような姿。床に直に座り込んだ姿はまるでお店に並んでいるそれだ。口元は包帯で覆われているため見えない。濃い藍色のデニム地のオーバーオールには様々な生地で当て布がしてあり、数々の修繕の後が見てとれる。

 「んんんん?ぼぼぼ僕の、かかか顔に、ななな何か、つつつ付いてる?」

 思ったより長く見てしまっていたらしく、アニマ兄は恥ずかしそうに頬を掻いている。

 ――お兄さんが、あまりに、大きい、人だった、ので、びっくり、して、いました。気を、悪く、したら、ごめんなさい。

 わたしは慌てて謝った。まじまじ見られたら誰だって嫌だろうから。すると、アニマ兄は急に笑い始めた。ワハハと豪快に、周囲のものが吹き飛びそうな勢いだった。

 「ななな何だ、ぼぼぼ僕は、そそそそんな事で、おおお怒ったりしないよ?」

 怒られるより怒る方が僕は嫌いなんだ、と彼は言った。

 「そうだぜ?そんな小さい事で怒り出す奴なんかこの家にはいねえさ、なあアニマ?」

 フール兄の言葉を受けて、アニマ兄は大きく頷く。

 「作られて(クラフト)からまだ間もないから実感が沸かなくても仕方がない事だがな、間違いなくお前は俺達の家族だ。家族なら何を言ってもいい訳じゃないが、思った事を正直に話すのは悪い事じゃねぇ」

 お前は気にし過ぎだし、卑屈になり過ぎだ、とフール兄はわたしの頭を軽く叩いて言う。まるでわたしの気持ちを見透かしたようだった。

 兄達が言うように実際そうなんだろう。ただ接し方が未だに分からないのだ。好意をそのまま受け取っていいのか、何か裏があるんじゃないかとか、どうしてもまず考えてしまう。もっと単純に甘えられたらいいのにとは思う。悲しいかな、以前のわたしはそういった人の繋がりについて恵まれていなかったようだ。形が変わっても魂に染み付いたものは変わらないのだ、何と生き辛い事か。

 内心で自身への愚痴に近い事を考えていると、急に視線を感じた。驚いて顔を上げると、少々不機嫌そうな様子の父が顔を向けていた。仮面をしているから本当の所は想像でしかない。

 「ワンズよ、また何か良くない考え事をしていたね?」

 いつもより重い口調だ。良くない考えと言われてしまい、わたしは気まずい思いだった。

 「君の以前の出生については前に話した通りだがね、それはあくまで以前の君の話だ。今の君は私の新たな娘、新たな家族だ。思う所は多々あるだろうがね、もっと単純に考えていいのだよ!完璧な家族などいない!個々に色々と個性というピースを持っているんだ、当てはめてお互いを支えていけばいい、ジグソーパズルのようにね!私は常々そう思う事にしているよ!」

 父はそう言って私の頬をそっと撫でた。機嫌はいつも通りに戻ったようだ。相変わらず冷たい手。だけれど、安心できる温かさを感じていた。

 父の言葉を受けて、わたしの中で何かストンと落ちるものがあった。わたしは家族というものについて、何か妙な気負いがあったり、抱いていた理想が間違っていたのではないかと。一人では勿論家族は成り立たず、数がいれば家族かとそれも違う。重要なのは支え合えるか否かだ。歪なピースでもいい。足りない部分を補えるのが家族であり、きょうだいだと。時には上手くいかない場合もあるだろうけど、最後に纏まれば問題ない。綺麗に纏めようと難しく考えなくていい。駆け引きとか計算はいらないんだ。

 自然と伏していた顔を上げると、また父と視線が合った。父は分かっていると言わんばかりにゆっくりと頷いてみせた。

 「やはり君は賢いね、流石は私の愛しい子等だ!」

 両手を上げて喜ぶ父を兄達は少々呆れ顔で見た。

 「「ねぇ、パパ?そろそろ始めないの?」」

 どうやら飽きてしまったのだろうか、父の両側に立って双子がスーツの端を引きながら催促していた。

 「おやおや、失敬、待たせてしまったね!今度こそ宴を始めようか!」

 

 その後わたしの歓迎の宴とやらが開かれた。わたしの席は俗に言うお誕生日席と呼ばれるテーブルの端の席。父を対面に両サイドにきょうだいとマザーさんが座った。改めての自己紹介と他愛もない話をした。大した話ではなかったけれど、何だか嬉しかった。出された料理はどれも美味しかった。不思議な事にいくら食べても減らないのだ。アニマ兄がテーブルまで食べそうな物凄い勢いで平らげていくが瞬時に補充されていくのには驚いた。父はその様子を満足そうに眺めていた。

 わたしが初めて家族を知れた、大切な日になった。

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