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仮面博士の愉快な日常  作者: 凍々
12/15

双子

 わたしの、名前が決まったようだ。

 新しい名前は、ワンズ。

 意味はまだ聞いていないので良く分からない。

 何者でもなかった、わたし。偶然生まれただけのそれだった、わたし。

 漸く、地に足がついたような、家族の一員になれた感じがする。これが兄が言っていた、世界に自分を示せた、という事だろうか。

 そして、この胸の高鳴りは、喜びだろうか。口元が緩んでいる気がするのもきっと嬉しいからだ。

 「お?どうしたどうした?笑ってるじゃないか」

 隣にいた兄がわたしを茶化すように言う。

 口元に手をやれば、確かに口角が上がっているようだ。

 「何だ、笑えるじゃねえか。その方がいいぜ」

 わたしの顔をまじまじと見る兄。恥ずかしくなって不意に顔を背けた。

コホンとわざとらしい咳を一つして、父は仕切り直すように話し始めた。

 「……数多くの命を、(ワン)を集めて新たな(ワン)になった。だから君達にワンズの名を贈ろう!」

 ある意味安直な命名だと思った。けれど、父から贈られたこの名前は凄くしっくりくるものがあった。

 気に入ってくれたかね?と父の問いにゆっくりと頷いた。

 「オ名前ガ、決マッタ様デ。宜シュウ御座イマシタネ、オ嬢様方、……イエ、コレカラハ、ワンズ様、デスネ」

 「ワンズか、まぁまぁの名前だなぁ。とりあえず宜しくな」

 後ろに控えていたマザーさんが静かにそう言って、続けて兄が言った。呼んで貰えて嬉しかった。

 「さて、名前も決まった所で、皆席に着きたまえ!」

 父がそう声を掛けると、促されるように皆動き出す。

 わたしも立ち上がったが、不意に体勢を崩してしまった。その直後父が受け止めてくれた。こんな何もない所で転んでしまうなんて、と若干恥ずかしかった。

 「おや、待ちくたびれてしまったかね?」

 「「うん」」

 そんなことは、と思う前にわたし以外の返事があった。しかも二人分だった。

 驚いて辺りを見回すと、丁度わたしの左右に誰かが立っていた。一体どこから現れたのか。全く気配はなかったはずなのに。

 立っていたのはわたしより少し背の高い細身の二人だった。双子なのだろうか、二人とも若草色の髪だが、一人はお下げに、もう一人は短めになっている。顔には白地の布を下げていて、覆われている表情は見れない。病院で患者の人が着ているような薄い水色の上下の長袖の服を着ているが、大人用なのかだぶだぶで袖もズボンも余っている。足元には動物のスリッパを履いていて、お下げの子はパンダ、短めの子はペンギンだった。首元から覗く青白い肌に患者服がある意味良く似合っている。 

 二人は何も言わず、両面から動かない。もしかして観察でもされているのだろうか。少しの沈黙が続いた。

 「おや、来てくれたのかね、アーとゼタよ!」

 沈黙を破るような父の嬉しそうな声。

 アーとゼタと呼ばれたその二人組は同時に頷いた。

 「呼ばれたから来たよ、パパ」

 「呼ばれたから来たの、パパ」

 初めに短めの髪の子が答え、次にお下げ髪の子が答えた。

 父は二人の頭をそれぞれ撫でていた。二人は同じようにふふふと薄笑いをしていた。

 少々高めの声は全く同じ、口調が少し違うだけ。わたしにはどちらがアーでゼタか見分けが付きそうになかった。

 「アーとゼタよ、この子等が君達の新しいきょうだい、ワンズだよ!良ければ自己紹介をお願い出来るかね?」

 その声に二人は頷いて、父の後ろに隠れた。

 それから、まずお下げ髪の子がひょっこり顔を出した。

 「はじめまして、新しいきょうだい、私はアーよ」

 逆側からまたひょっこりと顔を出したのは短めの髪の子だ。

 「はじめまして、新しいきょうだい、僕はゼタだよ」

 お下げ髪の子がアー、短めの髪の子はゼタ。

 「「宜しくね、ワンズ」」

 二人で同時に言いながら、父の背から飛び出し、わたしに向けてそれぞれ片手を差し出した。

 どうやら握手を求められているようだったので、おずおずと両手を差し出す。二人はその手をそれぞれ握って軽く揺らした。

 アーとゼタは顔を見合わせて、

 「良い子そうな妹で良かったね、ゼタ」

 「良い子そうな妹で良かったね、アー」

 お互いに言って小さく笑っていた。

 「「新しいきょうだいをありがとう、パパ」」

 「礼には及ばないよ!何故なら私は全能なる父だからね!」

 振り返った双子の言葉に父は胸を張ってそう言った。

 「紹介にあった通り、この子等はアーとゼタ、訳あって顔は隠しているがね、とても良い子達だ!君の姉と兄になるが、仲良くは出来そうかね?」

 多分、の意味を込めて一つ頷くと、父は手を叩いて喜んだ。続けて双子が嬉しそうに左右に揺れた。

 「それは重畳だね!」

 「「重畳、重畳、だね」」

 父の言葉を双子が繰り返す。何だか不思議な兄と姉だと思った。

 ややあってテーブルに向かっていたはずのフール兄が戻ってきていた。

 「何だ何だ、随分楽しそうじゃないか!俺も混ぜろ……」

 フール兄が言い切るその直後に部屋全体がドンと突き上げるように大きく揺れた。

 地震でも起きたのだろうか?

 あまりの揺れに耐えられず、皆その場に倒れてしまった。何が起きたのか分からず、動揺から体勢が戻せない。

 「……あー、アイツが来たな?」

 「ソウデスネ、アニマ様がご到着のヨウデス」

 どうやらまた新しいきょうだいが来たらしい。

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