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ホットワインを呑みながら

酔っぱらいの回想から始まります。

クローゼットの隠れ家で酒を呑む

 忘年会でそれなりに呑んだあとに

 寒い日の夜に呑むホットワインは

 寒さに震える身体を

 心まで温めてくれるかのように

 沁みわたる美味しさで包んでくれる

 

 近くのベッドで聴こえる寝息に

 私は心をくすがられ

 思わず顔をほころんでしまう

 私のベッドで寝ているのは

 職場の同僚で忘年会で酔い眠ってしまった

 片思い相手の少女

 

 初めての忘年会で酔い眠ってしまった彼女のことが

 放っておくことができず

 また、彼女の家から会場は離れており

 私の家から近かったため

 防寒と暴漢から守るために

 私の自宅へと彼女を連れ帰った

 

 下心があると言えばあっただろう

 しかし、酔い眠っている彼女を襲う気など

 私には絶無に等しいのだ

 酔いの中の彼女の歩みを支えるために

 彼女の身体に触れたこと以外に

 眠っている彼女をベッドの中へ横たえるために

 彼女の身体を持ち上げ触れたこと以外に

 必要以上に温もりを感じたいとは思わなかったから

 

 安らかに眠っている彼女の寝顔は美しかった

 時折見せる苦悶に歪む顔に心を悼めたが

 夢に干渉する力など私にはないため

 私には見ているだけしかできない

 

 彼女の人生、彼女の歩み、彼女の願い、彼女の夢

 それらは、彼女が語りたいと思った時に知るもの

 夢の中に干渉し覗き見るということは

 彼女の思いを踏みにじることになる

 そんなこと、他ならぬ私自身が許さないことだ

 自らを八つ裂きにし尽くしたいほど嫌悪を抱く

 ……酔いの身で思い出したが、私は自殺衝動保持者だった

 今では霞の一欠片ほどしかないが

 それでも、何らかのきっかけで膨れ上がる恐怖がある

 だからこそ、霞の状態で霧散にさせなければならない

 爆弾にしないためにも

  

 私は何を考えている?

 かぶりを降って、ネガティブな考えを振り払う

 よし、幾らか気は紛れたようだ

 マグカップに残っていたホットワインを呑み干す

 酔いの身であるゆえに思い出したのか

 今の私には分からない

 

 飲酒をしたゆえに思いが揺らいでいるのかは分からない 

 眠ってしまったほうが良いかもな

 しかし、ベッドには彼女が眠っている

 なら、仕方ない

 隠れ家で眠ってしまおう

 

 酔いから目覚めた彼女が見つけやすいように

 フロアランプの明かりは点けておいて

 スマホを操作して、安眠アプリのピアノの音色を

 穏やかに響かせる

 長時間設定されたピアノの優しい音調が

 私を眠りへと誘う

 

 ああ、願わくは

 願わくは、どうか

 いばら姫が百年の眠りから覚めたように

 酔いの眠りから覚めた彼女が

 クローゼットの隠れ家にいる私を

 明かりと音色を頼りに見つけ出してくださいますように、と

 

 酔いのなかで

 私は願いながら

 眠りについた――

 

次は翌朝の彼女のシーンです。

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