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第三話 伯爵家三男坊と軍と騎士にまつわるエトセトラ

いつの間にか「2か月以上更新がありません」って表示されて驚きました。すみません。

 授業が午前中で終了した週末の昼下がり、わたくしが中庭の四阿で本を読んでいると、手元に影が射した。うららかな陽光を遮るように長身の影が傍らに立った所為だ。


「……本が読みづらいわ。エドアルド、少し避けてくださらない?」


 そう言ったのに微動だにしないエドアルドにわたくしは読みかけの本にしおりを挟んで閉じる。テーブルに置いていた扇をパラリと開いて彼へと向き直った。


「そのような怖い顔で女性を威圧するものじゃなくてよ? 仮にも騎士を目指そうというのなら」


 エドアルドはマーニュ伯爵家の三男だ。マーニュ伯爵と言えば我がロートレック家に格は劣るものの、代々優秀な騎士を輩出している名門中の名門。父親は王立軍の要職に就いているし、兄二人もそれぞれ軍部に仕官していると聞く。エドアルドもまた、騎士を目指して、この学園の魔法騎士科に所属していた。その中でも特に剣技に於いては右に出る物はないともっぱらの評判である。

 更に付け加えると、わたくしの婚約者でクリステル王国第二王子のミカエル殿下に幼い頃から忠誠を誓っている、そのため、わたくしとも幼い頃からの顔見知りだった。幼馴染と呼ばないのは、幼い頃からわたくしとエドアルドはウマが合ったためしがなく、その為出会った日から今日に至るまで、可能な限り互いを無視して過ごしてきたからだ。

 褐色の髪は軍人志望らしく短く整えられ、まるで炎の様に撥ねている、琥珀色の瞳は鋭く、見るものに緊張を抱かせる。生真面目さのにじみ出た眉間のしわは、私の記憶する限り、であったころには既に刻まれていたような気がする。おかげで同い年だとしばらく気付けなかった。


「……昨日、俺の父が突然に地方への巡察を要請された」

「マーニュ将軍の武勇は地方の民にも評判ですから、直々の巡察となれば民も喜ぶでしょうね」

「貴様の父親の差し金だろう?!」


 扇子の影でわたくしはもう何度目になるか分からない溜息をかみ殺した。

 あの中庭での断罪騒動以降、ミカエル殿下を除く、あの場でわたくしの断罪に加担した貴族子弟たちはそれぞれ実家に呼び出されるなどしてこっぴどく怒られたようだ。中には『家庭の事情により』自主的な休学を申し出た家もある。

 けれどそれはあくまでも事情を知った各家の当主が自ら行った事。わたくしの父はただの一言もそのような制裁措置は要求はしていない。もちろん、要求などされなくても、ロートレック伯爵家の令嬢を辱めて怪我を負わせたなどという醜聞中の醜聞の加害者が自分たちの息子であるという事実によって、彼らの王宮の中での肩身は狭くなっただろうし、社交界に於いてもそれぞれの家のご婦人方はわたくしの母が招かれているサロンへの出入りを断られたりしているという話は聞いている。

 とはいえ、あくまでもそれは加害者の親が勝手に動いたり、周囲が我が家を慮って自分たちで動いた結果であって、わたくしやわたくしの両親が直に命じたわけではない。もちろん、エドアルドの親の任務など、手を回すはずがなかった。マーニュ将軍に地方巡察の命が下ったのは、それが必要だと国王陛下やその他の大臣たちが判断したからだろう。王立軍は必要に応じて国境の警備などの地方部隊にも軍を派遣したり、戦になれば先陣を切って戦いに赴かなくてはならないのだからそういう任務が降ってわいてもおかしくはない。

 けれど、目の前のエドアルドにはそれが納得いかないらしかった。


「今上陛下の御代になって以降ずっとこの国は平和を保っている。こんな時期に突然の地方巡察など、国の中枢から父を遠ざけようという陰謀だ。貴様が先日の件の腹いせに仕組んだんだろう」

「……突然、といっても毎年この時期は地方の収穫を狙って国境付近の治安が乱れますから、巡察によって治安の維持を図ろうというのは妥当なように思いますけど?」

「だから! 言葉巧みに父親を使って俺の父にその任を押し付けたんだろう!! 例年ならば地方巡察などは父のいる王立軍中央師団ではなく第五師団あたりの役目の筈だ!」


 激昂するエドアルドの熱気にわたくしは思わず手にした扇子で自分を扇いでしまった。わたくしの扇子は表情を隠すための淑女の嗜みであって、涼風が欲しければ召使に専用の扇か団扇で扇がせるのが普通だ。しかし生憎この場にはわたくしを丁寧に扇いでくれる召使はいない。あの子には今日はちょっとしたお使いを頼んでいるのだ。

 あの断罪事件以降、わたくしの報復に怯えて体調を崩すものや、身に起きた不幸をわたくしの差し金によるものと言いがかりをつけてくるものが増えた。けれど、実際わたくしが直接手を下すようなことは……したな。そういえば。

 もはや会うこともないであろう某男爵家の『元』看板息子を思い浮かべる。最後に見た絵姿を思い出して、わたくしは改めて扇子で口元を隠した。


「……わたくしが貴方の父上を地方に送ったとして、わたくしに何の利益がありまして?」

「腹いせだろう。俺に対する」


 腹いせで国家の要人を地方に飛ばせるなら、目の前でわたくしに暑苦しい思いをさせている脳筋の熱血漢を飛ばした方がよっぽどわたくしにとって利となるだろう。いるだけでこちらの体感温度を三度は上げてくる男だ。北方の寒村にでも行かせたらさぞ重宝されるだろう。人力暖房器具として。


「万が一、わたくしの讒言によってマーニュ将軍が地方を巡ったとして、エドアルド様個人には何の関係もございませんでしょう? あなたはまだ王立軍に所属している訳でもないのですし。……確か志望は騎士団配属、でしたかしら?」

「あたりまえだ! 俺は王立軍など目指してはいない! 俺の目標はあくまでもミカエル殿下の御為に騎士になること。この剣の腕で近衛騎士団で昇り詰め、かならずやミカエル殿下の片腕としてこの国を支えるのだ!!」


 この暑苦しく、その場の気温を際限なく上げていきそうな熱血男の魔法適性が氷結属性だというのは何かの詐欺だと思う。エドアルドの剣は剣技のみの力はもちろん、魔法騎士として剣と魔法を相乗的に使った戦闘が得意なのだ。たしかに、その戦闘力だけで言えば、王立軍でも近衛騎士団でも、重用はされるだろう。


「……わたくし、以前からあなたにご忠告申し上げたかったのですけど、近衛騎士団はあなたには向かないと思いますわ」

「なんだと?!!」


 琥珀色の瞳が剣呑な光を帯びる。元々怖い顔でわたくしを睨み付けていたが、今は殺気すら漂う見事な形相だ。こんな顔は絶対にクローディアには見せられまい。わたくしは過去に何度も見ている顔だが。


「エドアルドの剣技がこの学園の魔法騎士科でも一番であるのはわたくしも認めるところですけれど、将来を考えるのでしたら、お父上やお兄様がたと同じ王立軍に入ることをお勧めしますわ。マーニュ将軍の息子という事で周囲からの扱いも違うでしょうし」

「俺が親の威光無しでは何もできないと愚弄する気か!??」

「そのようなつもりはありません。でも近衛騎士団に入ってもあなたは簡単には出世は望めませんし、仮に出世できたとしても、あなたが望むような『ミカエル殿下の片腕』にはなれませんわよ」


 近衛騎士団はその名の通り、王宮に勤め、王族を警護し、そのほか式典などでは華やかかつ勇壮な装いで王家の国威発揚の旗印となる。その為、実力はもちろん、容姿や家柄など様々な外面的要素が必要とされる。とはいえ、別にエドアルドの容姿も家柄も近衛騎士団として不足があるわけでは決してない。それどころか、きりりとした眉目や真っ直ぐに整った鼻梁は現在の近衛騎士たちと並べても遜色はあるまい。家柄も王立軍将軍の三男というのは充分な箔になるだろう。

 だからこそ、近衛騎士団の候補生としてあの集団に入ればエドアルドは頭一つは抜きんでてしまうだろう。しかし、外敵と戦う危険を伴う王立軍と違い、近衛騎士団は平和な王宮という箱庭に飾られる装飾品のようなものだ。そこにあるのは戦闘能力と言った実力よりも、いかに周囲と軋轢を生まず、要領よく人脈を繋いでいくかといった、まさに貴族社会の縮図のような場所だ。そのような場所で、エドアルドのように目立ち、かつ融通が利かない石頭など、嫌厭されるのが目に見えている。その上彼の性格では団内でつま弾きにされても自分の実力だけでどうにかしようとつまらない意地を張るだろう。周囲の者は親の権力を要領よく利用して自分の不利になることは躊躇いなくもみ消し、エドアルドに不利な事を声高に主張するだろうというのに。エドアルドが近衛騎士団に入るということは、自ら孤立無援の戦場に棒切れ一本で飛び込めというようなものだ。

 それに、エドアルドは盲目的なミカエル殿下信者だ。そのエドアルドがミカエル殿下以外に膝をつき、時には顎で使われるという環境に耐えられるとは思えない。


「近衛騎士団は陛下直属の王宮守護の要です。エドアルドがミカエル殿下個人に忠誠を尽くしたいのであれば、殿下の私兵にでもなるしかありませんわねぇ」

「俺に傭兵に成り下がれと?」

「殿下が王ではない以上、殿下に仕えることと近衛騎士団となることには矛盾が生じますわ」


 エドアルドの眉間のしわが更に深くなる。この表情さえなければもっと女性にもてただろうに、もったいない事だ。……まあ、クローディアが現れる前はそれでも果敢にアタックして玉砕する女子は何人もいたわけだが。


「ミカエル殿下は優秀かつ人柄もよく民にも優しい素晴らしいお方だ! あの方ならこの国の王位に最も…むぐっ!?」


 熱弁をふるうあまりいらぬ事を言いだしたエドアルドの口を扇で塞いだ。周りを見渡したが、幸い人気は遠く、こちらのやり取りには気づかれていないらしい。ホッと息をつく。吹き出した冷や汗をハンカチで拭っていると、唸るようなうめき声が聞こえた。見れば扇を唇に押し付けられたエドアルドが怒りに顔を赤く染めている。扇を離せばよほど強い力で押し付けてしまったのか、唇にくっきりと線が残ってしまっていた。

 いやだわ、この扇、もう捨てないと……。思わず指先で摘まんだ扇をプラプラさせていると、唇を解放されたエドアルドが怒りを爆発させてきた。


「いきなり何をする!?」

「不用意な発言は己の身だけでなく仕えるべき主の身も滅ぼすと知った方がよろしいですわ。……現在、この国の王太子は第一王子のギュスターヴ様です。叛意ありと見なされればあなたも殿下もただではすみませんわよ」


 懇切丁寧に説明してやると、やっと理解したのか、エドアルドの勢いは少しおさまった。それでも不満そうな表情は崩さなかったが。何を考えているかは丸わかりだ。おそらくは自分の仕えるミカエル殿下を支持する貴族も少なからずいるとでも言いたいのだろう。しかし、それでも表立って発言してもいい事と悪い事はある。特にミカエル殿下本人やそこに近しい立場の人間が既に決定された王位継承権の順位に異を唱えることは叛意ありと捉えられても文句は言えないのだ。


「ギュスターヴ殿下はお身体が弱いとはいえ、王太子としてすでに国政に携わり、当たり障りなく国を動かしていらっしゃいます」

「……しかし、その政務への姿勢は弱腰で、佞臣や古参の官僚共の言いなりだと聞くぞ」


 流石に状況を理解したのか、声を潜め、長身を屈めるようにして囁きかけてきたエドアルドに、こちらも声を抑えて応える。


「政務についていきなり古参貴族をないがしろにすればいらぬ反発を招きます。太子であるうちに地固めをしているのだとすれば妥当な判断ですわ」

「お前は……ミカエル殿下よりもギュスターヴ殿下の方が優れていると……? 仮にも婚約者だというのに、お前はどちらの味方なんだ?!」

「味方云々はこの場合関係ありませんわ。いずれにせよ次代の王位はギュスターヴ殿下、ミカエル殿下は公爵位を得て臣籍に下ることになるでしょうから、あなたが近衛騎士団で昇り詰める頃にはミカエル殿下は王宮住まいではなくなりますわ。王都に邸を構え、王室管理だった公爵領をどこか譲り受け、ギュスターヴ殿下の治世を臣下として支える立場になられるのですから」


 そこまで一気に言ってしまってからエドアルドの様子を窺えば、彼はぽかんとした表情でこちらを見ていた。いつもの眉間のしわも消えて、年相応の幼さが垣間見える。なかなか見られない表情だ。再び開いた扇で口元を隠し、限界まで声を潜めて問いかける。


「あなた、ミカエル殿下が一生王宮で生きていくと思っていたの?」

「それは……しかし……」

「それとも、本気でミカエル殿下が王位を奪うと思っていたの? 殿下がそれを望んでいるとでも?」


 ミカエル殿下はどちらかというと素直でお人好しな性格だ。兄を押しのけて自分が王位に立とうなど微塵も考えてはいないだろう。それに今はクローディアの問題もある。流石の殿下も平民のあの少女を王妃にしようなどとは思うまい。殿下が王位に近しい所に居ればいるほど、あの少女との間には越えられない壁がそびえ立つことになるのだから。


「ミカエル殿下が王族として華々しくあれば……クローディアもいつかは身の程を知って、諦めてあなたを選んでくれるかもしれませんわね」

「そんなことは考えていない!! 彼女はそんな……」

「……冗談ですわよ。クローディアは誰ともまだ恋仲ではない。……殿下は立場を考えて決定的な告白はできずにいらっしゃるし、当の本人は『みんな大好きなお友達よ』などと言っているそうね」

「彼女は純粋無垢で、そう言ったことにはまだ疎いだけだ。とはいえ、おそらく彼女も殿下の事を……俺は二人の幸せをお守りできればそれでいい」


 純粋無垢って何だったかしらと一瞬本気で考え込みそうになった。どういうわけか分からないが、ミカエル殿下にも、この脳筋男にもクローディアという少女は純粋無垢で嘘や汚い事を知らず、弱きものに優しく、悪事には凛として立ち向かう清廉な魂の持ち主であるように見えているらしい。

 え~、それ誰の事~? と思わず脳内でラファエルの物真似をしてしまった……。我ながらきっついわ~……。


「まあ、政局がどう転ぶにせよ、殿下とクローディアが結ばれることはあり得ないのですから、お互いに清らかなうちに距離を置いた方がよろしいとは思いますけれど」

「お前はどうしてそのような酷い事が言えるんだ? 愛し合う者を引き裂いて何が楽しいんだ?!」


 熱風でも吹きつけてくるかのようなエドアルドの熱弁に、わたくしは扇で己を仰ぎつつ応じる。その声が冷たく冷えていくのが自分でもわかったが、取り繕う気にはなれなかった。脳裏には何を考えているのかわからない卑しき庶民の娘の作り物めいた笑顔。


「国王陛下に認められ、周囲が祝福していた婚約者同士を引き裂く庶民の娘は何が楽しくてそのような事をなさっているのかしらね?」


 わざと小馬鹿にしたように言えば、エドアルドの頬が怒りの所為か朱に染まる。その手が一瞬振り上がったが、流石にその手をわたくしに向かって振り下ろす様な愚かな真似はしなかった。上げた手は結局そのまま降ろされ、腰のあたりでギリ、と音がしそうなほどに硬く握りしめられた。おそらく掌には爪が深く食い込んでいるだろう。


「彼女を侮辱するな!! 彼女はそのようなつもりなど!!」

「ないと仰るのならどうして彼女は殿下の傍を離れないのでしょうね? これまでもわたくしだけではなく何人もの人間が彼女に忠告をしてきたはず。それなのに、立場を弁えるどころか婚約者のいる貴族の子弟を何人も侍らせ、その中の誰一人として真剣に愛することもなく、適当に弄んでいる……」

「黙れ!! それ以上彼女を貶めるなら許さんぞ!!」


 激昂するエドアルドに冷めた視線を送る。


「許さなければどうなさるの? あの時のようにわたくしを突き飛ばして地べたに転がすのかしら?」


 笑顔で言い放った言葉は思いのほかエドアルドを傷つけたらしい。その顔が目に見えて青褪め、手も肩も小刻みに震えている。

 いくら正当性があると思い込んでいたとはいえ、女性を力で捩じ伏せ、怪我をさせたという事実は、騎士を目指す彼にとってもはや拭い去ることのできない汚点となっている。例えそれが心の底から嫌いな相手であっても、騎士がその感情に振り回され騎士道を外れることがあってはならない、と戒められ、教えられてきた男にとって、わたくしは唯一その経歴に泥を塗った女ということになるのだろう。


「俺は……もう二度と……そのような…………」

「騎士になってもない方から騎士道の誓いなどいりませんわ。それよりも、話を戻しますけれど、わたくしはあなたのお父様の人事については口出しはしていない。それこそわたくしは騎士ではないけれど、家名と母なる慈母神の名に誓いますわ。それともあなたはわたくしに父君を巡察から外してもらうよう口利きでもして欲しいの?」


 エドアルドの決意など知った事ではないと切り捨て、強引に話を戻す。そもそもこの男が父親の人事の事で文句を言いに来たのが始まりなのだ。これ以上不愉快な会話に時間を割きたくはなかった。エドアルドが父親の地方巡察に不満があってここに来たというなら、目的はその撤回だろう。

 そもそもわたくしは何もしていないので、人事の撤回に尽力する義務はないのだけれど。実際やろうと思えば不可能ではないだろうけれど、国王陛下の決定を覆すのは結構大変だ。何より、わざわざマーニュ将軍に地方巡察の命が下されたということは何か地方に不穏な動きがあるのかもしれない。だとすればここはマーニュ将軍には頑張ってもらった方がいいのではないか……。


「親愛なる幼馴染のエドアルドがお父様がいない都では不安で夜も眠れないと泣いていますって奏上してもいいのでしたら引き受けてあげてもよろしくてよ」

「誰がそんなことを言うものか!! 俺はただ、父に圧力をかけ、嫌がらせをしても俺は決してお前なぞには屈しないぞと宣言しに来たんだ!!」


 掛けてもいない圧力に勝手に屈されても困るけれど、わざわざそんな宣言をしに来られてもへーとかふーんとかしか浮かばない。


「そうですの~。それはそれは、せいぜい頑張って(勝手に)耐え抜いてくださいませ~」


 投げやりな気分で返事を返すと、言うだけいって満足したのかエドアルドは軍隊の歩行訓練の様な機敏な動きで踵を返し、歩き去っていった。その背が校舎の中へ消えるまで、適当な笑みを浮かべたまま見送ったわたくしはなんて我慢強いんでしょう。誰か褒めてくださらないかしら。

 エドアルドが立ち去るのと入れ替わるように、ラファエルがお使いから戻ってきた。


「ただいま戻りました~。……あれ? お嬢様なんだか疲れていらっしゃいますね」

「ちょっとね……。ラフィー、頼みがあるのだけれど、何か暑苦しさが吹き飛ぶような冷たい飲み物をお願い。それと……」


 指先に摘まんだ扇子(エドアルド菌汚染済)を差し出す。


「この扇子は捨ててしまって、部屋から新しい扇子を取ってきて頂戴」


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