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第二十五話 王の話とエトセトラ

そういや来週後輩の誕生日だったわ(さっき思い出した)

 国王陛下は何から話し始めようか、と逡巡なされておられるようだった。

 わたくしはそっと隣に座っているお父様に扇の影で問いかける。


「お父様、アンリお兄様は? こちらにいらっしゃると伺っていたのですけれど……」

「ああ、いま少し現場で魔力痕を調べてくると言って春宮の林に行っている。護衛も付けているから大丈夫だ」


 確かにアンリお兄様ならばあの現場に残された魔導師の魔力の痕跡から何かわかるかもしれない。


「……マリアベルよ。お前は今から陛下が話そうとなさっておられる内容、見当がついているのではないか?」


 お父様が探るような目でこちらを見下ろしてくる。

 わたくしがお兄様の出生についてラファエルから聞いたことをエヴァから報告されているのだろう。

 そっと無言で頷く。

 6年前の事件での仮面の魔導師の狙いは国王陛下のご落胤であったお兄様の排除。

 結果としてあの魔導師がわたくしとの『ゲーム』を始めたことで、命までは奪われずに済んだものの、お兄様は今も深い眠りの底に沈んでいる。

 今回あの者が現れたのは聖女暗殺の阻止。

 あの仮面の魔導師は何者かに雇われているような発言をしていたから、今回のことも誰かの依頼によるものなのかもしれないけれど、それが6年前の事件の時と同じ人物によるものなのか、あるいは……。


「……やはり事の始まりから詳らかにせねばなるまい。ミカエルよ、今宵の晩餐で聖女が謳った建国譚の裏詩を覚えておるか?」

「はい、魔導帝国最後の皇帝とクリステル建国の祖たる騎士が友人であり、聖女と魔王は想い合う恋人同士であったと……」

「あの物語は一部は真実に近く、また一部は誤って伝えられている」

「と、言いますと?」


 溜息と共に国王陛下が語ったのは、正史として語り継がれた英雄ルキフェリスが王家の直系にのみ遺したという秘密の手記の話だった。


「ルキフェリスは騎士時代には聖女との接点はなく、聖女はドゥナテリウス支配下の神殿で幽閉に近い扱いを受け、ドゥナテリウス以外の者との面会を許されない状況下に置かれていたという……」

「しかしそれでは……」

「聖女とドゥナテリウスが恋人であった、というのは事実かもしれぬ。だが、ドゥナテリウス以外の異性との接触を禁じられ、生きていく術をドゥナテリウスに依存せざるを得ない環境下での恋が果たして正しく恋と呼べるものであったのかは誰にもわからん」


 陛下の話に耳を傾けながら、在りし日の騎士王と魔導皇帝、そして聖女を思い描いてみる。

 クリステル王家に伝わっている、ルキフェリス視点の聖女と魔王の物語。

 そして、ラ・クロワ地方の神殿に残されていたという、おそらくは聖女視点の魔王との悲恋の詩。

 見る者や光の当たり方で色を変える宝石の様だ。


「手記に寄れば、魔導皇帝の皇宮内部でも政治腐敗による内紛が激化し、一部の魔導師が神殿を襲撃、巫女や神官が多数死傷する事件が起きた。ルキフェリスは皇帝に聖女の避難を訴えたが却下された。そうこうするうちに国内の民の不満は膨れ上がり、もはや爆発寸前となっていった、とある」

「皇帝はどのような政策を? 聖女の話では佞臣を止めることができず傀儡となるしかなかった、とのことですが……?」


 オーギュストの指摘に陛下は黙って首を振る。


「手記に寄れば、何も。いや、魔導皇帝直下の魔導騎士団による暴動鎮圧は度々行われたが、ルキフェリスとその直属部隊は城に留め置かれ、出兵を許可されなかったそうだ」

「それは……よく言えば危険から遠ざけようとされていたとも取れますが……」

「反乱軍に合流されることを恐れていた、とも取れますな」


 お父様とマーニュ将軍が頷き合う。


「ルキフェリスは後者と取ったようだ。各地での暴動鎮圧という名の民衆虐殺の報告を受け、耐えきれなくなり、城を出奔。その際皇宮に保護されていた聖女を密かに連れ出した。手記には聖女は魔王を信じ切っていたため、やむなく魔王の指示と嘘をついて連れ出した、とあった」

「あの……なぜそこまでして聖女を連れ出さなくてはならなかったのでしょう? もちろん騎士王様が聖女を想うあまりのことだったのかもしれませんが、危険な逃亡の旅に連れ出す、というのは恋心故とは思えないのですが……」


 差し出口とは思いつつ、疑問を提示する。

 聖女が魔王に心酔してしまっていたのならなおのこと、逃亡の道連れとしては不向きだ。

 裏切り者を常に懐に抱え込んでいるようなものだからだ。


「それはな、聖女が生まれ持った光の神聖魔法の力のみが魔王の強大な魔力に対抗しうる鍵だったからだ」

「ということは城を守護していた結界を破る鍵というのは……」

「うむ、聖女自身ということになる。それゆえルキフェリスはたとえ騙してでも聖女を連れ出す必要があった。城を出てから聖女が魔王支配下の帝国の荒廃を見て何をどう考えたのかはわからぬ。だが、最終的にはルキフェリスと共に魔王を打ち滅ぼし、その魂を封じることを選んだ」


 以前ラファエルと話したことがあった。

 魔王にとって聖女は唯一の弱点。生かさず殺さず、傍に留め置くため幽閉状態にするのが最も効果的ではないかと。

 国王陛下の語るルキフェリスの手記に記された魔王はまさにそのように聖女を扱っていた。

 クローディアの話では聖女は最後まで魔王を信じ、魔王も聖女のためにその身を自ら投げ出したように語られていたが……。

 ルキフェリスの視点ではそれもまた違っていたのだろうか……。


「ルキフェリスの手記には、魔王封印の要となる5つの書と、5つの鍵は帝国崩壊後、クリステル王家と聖女のゆかりの神殿、そしていくつかの古代遺跡の奥深くに隠され、すべての封を解かれない限りは魔王の魂が復活することはない、と記されている。……だが」


 ここで陛下が一度言葉を区切られた。

 オーギュストが差し出した水差しの水を一口飲み、そっと息を吐く。


「魔王は死の間際にルキフェリスとその子々孫々へと連なる血筋への呪いを残した。いく世代か後にルキフェリスの血を引く王子が魔王の器としてその魂を甦らせるだろう、と」

「それは……」

「いつ、どの世代の王子がその器となるのかは明らかにはされていない。それゆえ、王家に生まれた男児はすべて神殿で浄化の儀式を受け、守護の血筋を持つものを傍近くに侍らせることが義務付けられた。表向きは乳母や乳兄弟、側近候補などと言う名目で各世代の貴族の中から年の近いものが選ばれる。ギュスターヴの傍仕えの騎士も奴の乳兄弟で、守護属性が強いセザンヌ侯爵家の子息だ」


 陛下の言葉が本当なら、わたくしが生まれてすぐにミカエル殿下の婚約者にされたのはもしかして……。

 殿下も同じことを考えられたのか、こちらをちらりとご覧になる。


「クリステル王家代々の王の子の中で、ただ一人、生まれる前に母親が王宮を出ていたがために儀式を受けられなかった者がいる。その者は平民として生を受け、育ち、ある令嬢の従者として王宮へと戻ってきた」


 ミカエル殿下とエドアルドの視線がわたくしへと集中した。

 わたくしは告げられた言葉の意味を噛みしめるように瞳を伏せた。


「エリザベス・ルデロ。かの娘が我が王妃の護衛騎士の一人になったのは偶然であった。王宮で出会い、一目で心を奪われた」


 ミカエル殿下はある程度覚悟していた様子で黙ってお話を聞かれていた。

 史務省の書庫で見つけたあの手紙はやはり国王陛下がエヴァの従姉のエリザベスへと宛てた恋文だったのだ。


「我が王妃への愛情が無くなったわけではない。だがあの時わしはどうしようもなくエリザに心惹かれ、その想いを抑えることができなかった。その結果、エリザは身籠り、王宮から姿を消した」


 そこから先はわたくしがラファエルから聞いていたのとほぼ同じ、エリザベスは故郷の従妹を頼り、従妹の出産と時を同じくして男児を産み落とした。

 生まれた子供はその従妹の子供として届けられ、平民として育った。


「わしのもとには『子供は死産だった』という出所不明の手紙だけが届いた。それゆえわしはその手紙の通り、エリザの子は死んだものと思っていた。……12年前までは」


 12年前……。わたくしが初めて殿下の婚約者として王宮に顔合わせに上がった年。


「魔法のかかった眼鏡で瞳の色を隠してはいたが、わしにはすぐにわかった。後日ロートレックを通じて密かに呼び寄せ、儀式を受けさせた。出生の真実については本人にも伏せ、儀式については王子の婚約者の従者として王宮に出入りするならば受ける義務があるものと説明した。……隠しおおせたかどうかはわからぬがな」


 わたくしの記憶にある限り、お兄様はご自身の出生にそのような秘密があるなどとは知らないでいたように思う。

 妹のルネを可愛がり、母親のエヴァを師として敬いつつも母として大事にし、アンリお兄様やわたくしに従い、従者として真摯に仕え、慈しんでくださった。

 時にはわたくしやアンリお兄様たちを厳しく諌めることもあったけれど、平民と、仕えるべき貴族の子女との一線は決して超えようとはなさらない方だった。

 もし、高貴の血が自身に流れていると知っていたなら……わたくしは……。

 益体もない妄想をそっと首を振って掃う。


「父上、その者には守護はお付けにならなかったのですか?」

「改めてつける必要はない、と判断した。その者は自らの意志で守護の血筋の娘の傍近くに仕えていたからな」


 再びミカエル殿下とエドアルドの視線がわたくしへと集中する。


「マリア、お前が昔ずっと連れ歩いていた従者……思い出したぞ。――――・ピサロ、あいつが……あの男が……俺の、兄、だと……?!」

「確かにいた。お前と諍いになるたびに人の事を射殺しそうな目で睨んできていた……だが、いつからか姿を見なくなった……」


 ミカエル殿下の唇が空虚を紡ぐのを見てそっと目を伏せる。

 お兄様の名前、聞きたいのに聞こえないその空白に胸が痛む。


「6年前、ミカエルの生誕を祝う為、この夏宮の中庭で盛大な宴が開かれていた。昼間はミカエルと同年代の子供たちを招いて、夜には本宮で晩餐会の予定だった。しかし……」


 あの仮面の魔導師が現れた。


「わしが王妃と共に夜の晩餐へ向けての準備の為本宮へ一度戻った隙のことだった。突如として夏宮全体が漆黒の結界で覆われてしまった。すぐさま魔法省から魔導騎士団が派遣されたが、結界は強固で、破ることができずにいた。時間にしてほんの四半刻、あの魔導師の力量を考えれば、絶望的な時間だった。だが、結果としてミカエルも、結界内に捕らわれていた者たちも誰一人として命を落とすことなく事態は収束した」

「それは……」

「あの時結界内で意識を奪われなかったのは、マリアベルただ一人だった。その身に宿る守護の血筋のなせる技なのか、ただ一人、襲撃者―今宵お前たちが見た仮面の魔導師と対峙し、退けた」

「陛下、お言葉を差し挟むようで申し訳ないのですが、退けた、というのは語弊がございますわ。あの場、あの状況下において、わたくしは無力そのものでした。あの魔導師は気まぐれにわたくしたちを生かして残したにすぎません」

「だが、そなたの反撃によって、ミカエルと――――は命を長らえた。感謝している」


 陛下のお言葉に益々いたたまれない気持ちになる。

 あの事件の時、わたくしはお兄様を守ることで手いっぱいで、ミカエル殿下のことは頭から消えていた。それなのに、恩義を感じられても困ってしまう。


「それでも……皆が皆、無事とは言い難い結果になったのは、わたくしの力不足ですわ」

「齢10やそこらの子供がそこまで気負う必要はない。そなたは充分に頑張った」


 けれど、お兄様はあの日以来眠り続け、わたくしは未だに解呪の糸口さえつかめずにいる。


「6年前、あの魔導師が狙っていたのが――――・ピサロであったとするならば、眠らせるだけでも十分に目的を果たしたと判断したのかもしれぬ。そして今回、再びあの魔導師が現れたのは、聖女暗殺を目論む一派の阻止であったと考えると、あの魔導師は神殿に関係がある者という可能性が出てくる」

「魔王の器になるかもしれない者を眠らせ、聖女暗殺を防ぐ。……確かに神殿側に都合がいい動きをしていますねぇ」

「だが証拠はない。あの魔導師の魔法や魔力は神殿の神官が使うものとも、我がクリステル王国の魔導師たちが使うものとも異なる魔法構成をしている」

「まあ、神殿側も影で動かす刺客に神聖魔法を使わせるほど馬鹿ではないでしょうしねぇ。しばらくは神殿への監視を強めるくらいしか手はありませんね」


 ノワール公爵と陛下の言葉を聞きながら、なぜあの魔導師は姿を現したのだろうか、と考える。

 6年前、突如現れ、わたくしとお兄様に呪いを残して消えた。それからこれまで一度としてその存在をうかがわせるような事件は起きていない。

 聖女暗殺の阻止だけならば、あの場でなくとも防ぐ手立てはあったのではないだろうか。

 それこそ、わたくしが攫われ、あの場から連れ出された後でも聖女を守るには充分な時間があった。

 もちろんただの偶然で、わたくしがあの場にいたこと自体、あの魔導師には想定外のことだったのかもしれないけれど。


「陛下、アンリ・ドゥ=トレーズ・フォン・ロートレック卿が、現場の解析のご報告にと」

「何か分かったのであれば良いが……通せ」


 陛下の許可の言葉が終わるか終わらないかのうちにドアを開けて小柄な影が飛び込んできた。

 そのまままっすぐわたくしの方へと突っ込んでくる。


「マリアちゃん! 無事でよかったぁ!!」


 勢いよく飛び込んできたアンリお兄様を抱き止める。

 ちょっと痛い。


「お兄様、陛下の御前なのですから、ちゃんとなさって」

「ラフィからほうこくを受けたときはびっくりして死んじゃうかとおもったんだよ?! ケガはない? すこし血のにおいがするけど、大丈夫?? まったく馬鹿王子は何してたの???」

「お兄様、ミカエル殿下はちゃんとわたくしを助けてくださいましたし、そもそも陛下の御前でそのような事を仰ってはいけませんわ」


 いくら見た目が子供とはいえ、不敬極まりないアンリお兄様の態度に、陛下が怒りだすのではないかと気が気ではない。


「あ、そうだ! ボクげんばのちょうさけっかのほうこくに来たんだった!」


 そう言うと、やっとのことで陛下の方へと向き直る。


「げんばにのこされた魔力痕は、えっと……6年まえの夏宮のときとおなじだったよ。まほうぞくせいはやみとつちに近かったけど、じゅつのこうせいが違ってた。たぶんだけど、あれはいにしえのていこくじだいのまどうたいけいに近しいものだと思うよ」


 敬意もへったくれもない口調だが、幸いにして国王陛下は気になさる様子もなく、報告内容を吟味なさっておられた。


「ふむ……旧帝国時代の魔導師は死に絶えたといずれの史書にも、ルキフェリスの手記にも記されていたが……生き延びて魔導を伝えた者がいるということか……」

「帝国時代の魔導書も革命期の大戦で殆ど燃え尽きていますしねぇ」

「げんだいでものこっている魔導書をいくつかよんだけど、うちの上のほうの魔導師あつめて、10にんがかりでいちにちいっかいはつどうさせるのがせいいっぱいだと思うよ」

「そんなに難しいんですか?」

「まずつかう魔力の量がぜんぜんたりない。そのうえいくつものぞくせいを同時に、すっごくこまかいこうせいで練りあげて、はつどうさせる。ふつうの人間にはむり」


 アンリお兄様は舌足らずな口調のまま、オーギュストの質問に身振り手振りも加えながら応える。


「帝国の魔導師は現代の魔導師たちより魔力量も、魔法の技量も桁外れに高かった、ということですねぇ。でもそうすると、仮面の魔導師は帝国の魔導師の直系的な存在ということでしょうか……」

「もしくは、ボクみたいな先祖返りかもね」

「お兄様!」


 流石に不謹慎だと思い窘めたが、アンリお兄様は気にした様子もなく、テーブルに置かれたお菓子へと手を伸ばし始めた。


「かのうせいのもんだいだよ、マリアちゃん。むかしボクをさらった神官は、先祖がえりを嫌忌して殺そうとしていたけど、同じような子供がいて、きょういく次第でつよい武器になりうるって考えるやからもいるかもしれないってことだよ」

「ですけれど……」

「ボクはマリアちゃんやお父さまにまもられて、今のいばしょももらえて、だからこうして王国のためにはたらいてるけどさ、そうじゃない子も世界にはいる。そういう子が、もてあました力を使うことでみとめられるばしょを与えられたら、そいつのために何でもしちゃおうってなるかもしれないよ」


 お兄様の言うことも一理ある。

 あの仮面の魔導師が何者かの命令で動いていたのは本人の言動からしても間違いはなさそうだし、あの強大な魔力は確かにお兄様のような特殊な生まれの者である証左なのかもしれない。


「古代の魔導師の魔法を受け継ぎ、聖女を守り、呪われているかもしれない王子を排除する、……それだけなら我がクリステル王国の敵とは言い難いんですがねぇ」

「やり口が気に喰わん。6年前とて、一歩間違えば大惨事となっていたのだぞ。今宵のこともそうだ。あれほどまで惨たらしく切り刻む必要がどこにある。悪人の命とはいえ冒涜するにも程がある」


 ノワール公爵の言葉に、憤懣やるかたないといった様子で吐き捨てたのはマーニュ将軍だ。

 企みを持って王立軍に身を潜めていた裏切り者とはいえ、自身の部下だったものもあの中にいたのかもしれない。

 そうでなくとも、マーニュ将軍は敵味方問わず、無益な血を流させることを好まないと評判の人徳者だ。


「いずれにせよ、あの仮面の魔導師の力が脅威であるのは確かだ。正体がはっきりしない以上、味方などと楽観視はできぬ」


 国王陛下が暗紅色の瞳をミカエル殿下へと据える。


「あの者が聖女を守るために動くのであれば、こたびの遠征でも必ずや何かしらの動きを見せるであろう。そなたをエドアルドと共に聖女を守る近衛騎士団の部隊を取りまとめる指揮官に任ずる。聖女の身辺を守り、同時に神殿側に不穏な動きがないか、監督せよ」

「御意。必ずや、任を果たして見せます」


 ミカエル殿下とエドアルドがその場に跪き、宣誓する。


「お父様、わたくしは……」

「マリアベル、ルーベンス侯爵の法案が否決されるまではお前も休学し、ロートレック領へ一次帰省してはどうだ? エヴァやルネも会いたがっている」


 お父様の提案には心揺れるものがある。

 ロートレック領は魔獣発生地域からは離れている為、浮足立つ王都にいるよりは安全だろう。

 何よりお兄様がいる。

 会いたい、と思う。けれど……。


「お父様、わたくしは学園に残ります。例えルーベンス侯爵の法案が可決され、ぼらんてぃあなる奉仕部隊が結成されようとも」

「しかしそれでは……」

「今学園に残っているのは帰郷の手段を断たれた北部の出身者や、一度休学してしまえば復学が困難な家庭の子女です。そして何よりも全員がこの国の民です。ミカエル殿下やお父様が守ろうとなさっている民を、わたくしが見捨てて自分だけ逃げるなど、嫌ですわ」

「まったく……頑固者め。誰に似たのやら」

「あら、わたくし、気性はお父様そっくりだとお母様から承っておりますわ」


 顔はお母様そっくりと言われますけれど、と笑って見せると、お父様は諦めたように深々と溜息を零された。



 こうして華やかな晩餐会の裏で起きた惨劇は、国王陛下の命により秘密裏に処理された。

 ハルス公は別の名目で捕らえられ、ノワール宰相の直属の尋問部隊による取り調べを受けたが、獄中で自ら命を絶った。

 聖女が狙われたという事案は伏せられたまま、聖女を守る近衛騎士団の増員が決定され、その流れを受けて前線の兵力の不足を理由にルーベンス侯爵の法案が議会で可決されたのは、晩餐会から2週間後のことだった。

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