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◯ 3 少女に腹パンする紳士

◯ 3


「すごいな、人がこんなに……」


 城門から中に入り、中央に見える城へと向かう途中、街の中は人々で溢れていた。

 大きな通りには出店が並び、中央を人と馬車が行き交う。

 様々な年代の人々が入り乱れ、買い物だったりおしゃべりに夢中になっていた。


「どこからか巫女様の噂を聞きつけて集まってきたようですね」

「……全然秘密にできてねーじゃん」


 小声で突っ込んだつもりが聞こえてしまったらしく、ランバルトお決まりの睨みが飛んできた。

 女の子相手に容赦がないなぁ……。


「あかり、あかり」

「……?」


 それまで頭の上で静かにしていた結梨がぴょんぴょんと足を伸ばし露天の一つを指差す。


「クレープが売ってる。食べたい」

「エェ……」


 確かにそれはクレープだった。薄く生地を伸ばしてクリームや果物を挟んだあの……。ていうか、この世界にもあったのかよクレープ。いきなり現れた見慣れた食べ物に少し困惑。いや、パンとかがあるならあってもおかしくないとは思うんだけどさ。


「猫は食べれないだろ……多分」

「ムゥ……」


 大の甘いもの好きである結梨は名残惜しそうに視線を残したまま肩を落とす。


「あんた一人で食べたら許さないから」

「食べないよ……」


 キョロキョロと他にも見覚えのあるものはないかと探してみると案外野菜や果物に関しては世界が変わっても同じものばかりらしい。りんごや葡萄、トマトやキャベツ。流石にラーメンとかは無さそうだけどパンやお米は売っているようだった。


「ねぇねぇエミリア。魔導書とかも売ってたりするの?」


 向こうの世界でいう「参考書」や「技術書」がこっちの世界でいう「魔法」に値するなら売っててもおかしくない……っていうか、結梨がクレープに惹かれたように、もしこの世界で魔導書があるのなら読んでみたいっていうか手に取ってみたいっていうか……。

 ぶつくさと考えているとエミリアは「おかしなことをおっしゃるんですね」と困ったように笑って見せた。


「魔導書が売っていたとしても普通の方には読めないでしょうし……そもそも読めたとしても『発動する事は』できないと思いますよ……?」

「……?」

「私たち人間には『魔力が』ありませんから」

「…………」


 それ以上聞いても分からない気がして曖昧に頷き、後に続く。

 もしかすると魔法って……この世界においてもかなり異質なものなのか……?

 結梨に意見を求めようと思ったけど知らぬ存ぜぬのそぶりで役にも立たない。

 ランバルトに聞こうものなら全力で馬鹿にされそうだし、エシリヤさんに至っては鼻歌を歌ってる。どうにも聞きづらい雰囲気だった。

 ーーふぅーむ……。地道に調べてみるかなぁ……。と、今後やらなきゃいけないことがどんどん増えてくることを面倒に思っていたら、


「っと……」


 広場を横切ろうとした時、ボールで遊んでいた子供とぶつかりそうになった。


「ごめんな坊主」


 何気なく受け止め、少年は振り返るとーー、


「あ!! ホワードさま!」


 エミリアを指差し、声を上げた。


「……? ホワード?」


 何のことか分からず指の先を追ってい行くとどうやらクーちゃんのことらしい。


「クゥッ」


 呼ばれたことに応えたのか小さく声をあげたクーちゃんに周りの子供達が気付き、


「本当だエミリアさまにエシリヤさまだ!」


 と声をあげ集まり始めた。すると大人たちも二人に気がついたのか遠慮がちに近づいてきては頭を下げ始める。


「此れは此れは姫さま……、この度は竜宮の巫女の大命、おめでとうございます」


 商人風の男が初々しく馬に近づくとランバルトが険しい顔でそれを遮り「無礼であるぞ」と一蹴する。


「これ、そのようなこと申してはいけませんよ?」

「しかしーー、」


 言い終わる前にエシリヤさんは馬から降り、ランバルトの制止を無視して男性に会釈し「妹に代わって御礼申し上げます」と微笑み返した。その姿はまさしくお姫さまそのもので優雅でいて繊細だった。

 やがて「エシリヤ姫さまだ」「エミリアさまもいらっしゃる!」とざわめきは広がり、広場は騒然となってしまう。


「……どうすんだよこれ……」


 身動きが取れなくなり、一人一人に挨拶して回るエシリヤさんとそれに連れられて挨拶をするエミリアを眺めつつ、隣に立つランバルトを見るとこれまで見たことの無いような険しい表情で奥歯を噛み締めていた。


「この私にどうしろというのだ……!」

「そりゃそうだよな……」


 何かもうどうしようもねーよ、これ。

 とはいえその場空気は別に不快ではなかった。

 人々は心から二人を慕っているようだったし、和気藹々と、まるで大きな家族が久しぶりに帰ってきた娘たちを迎え入れているような不思議な感覚さえ覚える。


「お二人のご両親……、王と王妃さまはお二人が幼い頃に亡くなられてな」


 どうやらそのことが顔に出ていたらしい、渋々とランバルトが教えてくれる。


「だから国の者たちに育てられたようなものなんだ」

「……へぇ……」


 明るく振舞ってはいるけどそれなりに事情はあるらしい。

 そりゃ命を狙われるような子に事情がなけりゃ世も末だけどな……。

 そうして一人一人に挨拶して回った結果、城に着く頃には日が暮れ始めてしまっていた。

 泉のあった森から街に辿り着くまでも相当歩いたつもりだったけど、街に入ってからのほうが相当疲れた気がする。

 人混みをかき分けて歩くのもそうだけど、やはり制服姿ってのは珍しいらしく、何やら好奇な目で見られるのはきつかった。……何よりも、中身が男とはいえ「外見は美少女」なわけで。文化は違えど「制服の良さ」は全世界共通なのか、男どもの嫌らしい視線を感じたのが何よりきつかった。

 こんな視線にさらされながら生きてるって同年代の女子たちはメンタルがつえーなぁ……。

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