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◯ 12 伝承の黒き魔導士 その5


「……いえ、あの……、……全面的に自業自得なところがあるので、はい……ごめんなさい……」


 風呂場での一件から数刻。回らなかった頭が回り出したころには僕はエミリアやアルベルトさん相手に机を挟んで項垂れていて、代わりに事情を説明してくれたエシリヤさんは慎重に言葉を並べた。


「とはいえ、ただの偶然で封印が解かれるなどあり得ない話です。……なんらかの事情があるとみて良いかと」


 どんな事情だ。どんな。

 それよりもあの女の子、外見に寄らず滅茶苦茶強いっぽい。連れ去られた結梨の事は心配だけど、まだこちらの話を聞くつもりはあるということは悪いようには扱われないだろう。……が、人質に取られたのは紛れもない事実だ。

 猫の姿に変えられた幼馴染を。連れていかれた。

 これでは元の世界に戻るどころの話ではない。ましてや僕が原因で解かれてしまったという封印も。


「心当たりはございませんか、アルベルト」


 エミリアに話題を振られた元王国騎士団長は難しそうに眉を寄せ、首を傾げる。


「黒髪の……、黄金の瞳を持つ魔導士の噂など……、……それこそ伝承の黒き魔導士様ぐらいかと」

「んーっ……???」


 僕もなんか見覚えがあるような気がしないでもないんだけど、そう聞かれても相変わらず見当はつかず、この身体の持ち主に聞けば分かるかもってレベルだ。もしかして記憶じゃなくて身体が覚えてたとか、あの子の事を……。


 駄目だ。あーだこーだ練った所で考えが纏まらない。結梨が心配で気が散る。


「とりあえず向こうから接触があるかもしれませんが、それまで僕は僕で噂でも辿ってあの子を探してみようと思います。封印が解かれたっていうなら異常は感知できるかもしれませんし」

「……では、こちらも何か分かればお伝えしましょう」

「助かります」


 結梨なしの一人旅か。ちょっと心細いけど囚われの身である彼奴の事を思えばそれぐらいなんだってない。が、意に反してエミリアが握りこぶしを胸に息巻いて立ち上がる。


「必ずやユーリ様をお助けしましょう」

「あ、……いや、……え?」


 肩で呼応するかのように鳴くクー様は明らかに賛同していて、僕の思い過ごしじゃなければもしかしてこれって。


「我が国に竜在り。……諸外国に向けての外遊、妹の事をよろしくお願いいたしますね」

「……え」


 エシリヤさんが僕の手を取り、包み込む。

 そういえば、お風呂場でそんな約束をしたような気がしないでもない。


「エミリアを、よろしくお願いいたします」


 クーッ、と元気のいい返事は僕ではなくクー様だ。


「頑張りましょうっ」


 やる気満々のエミリア。良くぞ立派になられましたと言わんばかりに目頭を押さえるアルベルト――、つか、あんたそんなキャラじゃないだろう……。


「……そうか、……そういう話でした、よねぇ……?」


 結梨なき今。監視の目はクー様だけで。もしかして他の騎士たちも護衛で同行するのかもしれないけど、恐らくは僕とエミリア二人の旅路がここから始まる可能性だってあって。


「大丈夫かなぁ……」


 色んな意味で心配だった。



 ――そうして、僕らは旅に出る。

 白き竜を携えたお姫様と共に。


 それが黒く塗りつぶされた呪いの旅路だとも知らずに。

 失われた物たいせつなおさななじみを取り戻す為に。

正直に申し上げると、殆ど覚えてない。

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