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◯ 11 竜に仕える者達よ

 昨晩見た夢の中で僕は魔法使いだった。


 様々な魔法を使い、火を生み出し、水を操って人々から感謝される。

 1匹の黒猫と一緒に旅をして世界を見て回り、ドラゴンや妖精なんかと他愛のない会話を繰り広げる。

 僕の思い描いていた「ファンタジー」っていうのはそういう世界で、血なまぐさい話とは無縁だった。


 だけど少し考えれば当然の結果なんだ。


 力は争いを呼ぶ。意図していなくとも、本人が望んでいなかったとしてもそこに力がある限り利用しようとするものは現れ、また、それに抗う為に力は振るわれる。

 魔法なんて当たり前のように特別な力を持っていれば、本人がどれだけ平穏を望んだとしても向こう側から巻き込みに来るのかもしれない。


 なんて、今更考えるのは遅すぎるのかもしれないけどーー。


「……すっごいなぁ、これ……」


 今僕は、先人の魔法使いたちに習い箒に腰掛けて空を飛んでいた。

 実際に宙に浮くためにこんなものは必要じゃないんだけど、なんとなく目の前にあったから拝借させてもらってる。


「なんか落ち着かないしさ」


 腰をすえる。とでも言うんだろうか。

 腰掛けるものがあるのと無いのとでは落ち着き様も変わってくるというものだ。足が地についていないのであれば尚更かもしれない。

 ふわふわと空から街を見下ろし、あちこちで上がる「花火みたいなもの」に舌をまく。

 まるでお祭りだった。


 ドラゴンたちの襲撃から約1週間、復旧の行き届かない部分を覆い隠すようにして街の装いは塗り替えられ、城壁の中はどんちゃん騒ぎの大賑わいだった。

 あるものは店頭に出店を並べ、あるものは余興だと芸を披露する。

 そこには数日前の絶望的な状況を思うものはおらず、ただ今日という日を心からお祝いしているように見えた。


「…………」


 それでも、傷は深く刻まれている。

 国を襲ったドラゴンたちの噂は広く知れ渡っているらしく、この国の人「以外の人間は」とっくに出て行ってしまったらしい。

 あれほど多く見られた行商人の姿は見えず、観光客も数えるほどしかない。

 いまこの国を盛り上げているのは紛れもなく「この国の人々」だった。

 静かに聳える白き城を見つめる。

 いまあそこではエミリアが巫女を襲名するために最後の準備をしてる。エシリヤさんも亡き国王に代わり、その任を果たそうとしているはずだ。アルベルトさんは警護を厳重に固め、どんなことがあっても二度とエミリアを攫わせまいと考えてるんだろう。

 そして他の人たちも。

 この国を守るために、エミリアを守るために城の警護を固め、壊れてしまった国を囲む「城壁」でも目を光られている。

 いつ、何処から攻撃を受けても平気なように。


「迎撃魔法、パワーらがオブザ庇護ゼウス


 幾つ目かの魔法陣を「空に展開させ」、そのまま宙に固定する。

 主様がその身の自由を犠牲にして貼っていた防壁魔法は今はもう破られてしまって存在しない。

 空を駆けるドラゴンたちに襲われればひとたまりもないんだ、人の国というものは。


 ……だけど、どうにかしたいと思う。それはこの数日間変わらず抱き続けた。できることはしたつもりだった。それでも全く足りてないことしか分からなかった。

 あのドラゴンたちを食い止めることが出来るとは思えない。

 1匹2匹でも手を焼いているのに相手は空を覆うほどの数だ。黒の魔導士の力を持っているとはいえ、僕にそんな事が出来るとは思えなかった。


 でも、逃げなかった。逃げたいと思わなかった。

 自分でもバカだと思うけど、バカだと思えるぐらいには落ち着いてる。


「うしっ……」


 最後の魔法陣を張り終え、改めて上空から街を見下ろすと凄い景色だった。

 かつて憧れた魔法使いとは少しちがう形になってしまったけど、こんな景色を見れたのは良かったと思う。

 人々の歓声が飛び交い、笑い声が何処からともなく聞こえて来る。


 戦うんだ、ドラゴン達相手にーー。


 ぎゅっと箒を握る手に力が入る。

 バカみたいな夢物語ファンタジーだけど、いまの僕にとっては現実だ。

 エミリアとクー様を守り抜き、この国をドラゴン達から救う。

 例え、この命を引き換えにしても……。


 込み上げてきた熱を静かに飲み込むと城の方でひときわ大きな歓声が上がった。

 どうやらエミリアが姿を見せ、最後の儀式が始まったらしい。

 国の中をクー様と二人で歩き、国民にその真偽を問う。

 一人でも反対するものが現れれば儀式は中断され、巫女の襲名には至らないらしい。

 反対するものなど、今のこの国にはいないのだろう。

 白いベールを纏い、純白のドレスをベースにした巫女装束でエミリアが足を進めるとその分歓声は大きくなり、その傍をクー様が羽ばたきながらついていく。

 竜を従える巫女。

 それを体現するかの様な神秘的な姿だった。

 そして、それは起こった。


「……っ?」


 城壁ごと国全体を囲み混んでしまう程の大きな魔法陣が、当然、眼下に展開される。

 赤く、まるで血を流れる川のように張り巡らされたその光の線は徐々にその光を増しーー、


「えっ、エミリア!!」


 僕が彼女の元に舞い降りる前に、発動したのだった。 


随分と間が空いてしまっていますが、いい加減決着をつけさせないといけないとは思っているので、夏の間に物語を転がそうと思います。

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