◯ 10 魔法のように
数日が経った。
街の復興は徐々にだけど進んでいるようだった。
「酷いよな……」
城のベランダからそんな街の様子を眺める。
3日目までは力仕事を手伝いに出ていたけれど、いつのまにかそんな気分も起きなくなっていた。
僕が手を貸さなくともこの国の人たちは前に進もうとしてる。
ーーまた、あのドラゴンたちが攻めてくるかもしれないのに。
「っ……」
やるべきことはわかってる。
だから手伝うのをやめたのかもしれない。
もし、また彼奴らが攻めてきたとき。この街を守るのは僕の役目だ。
あの後、主様は言った。「結界が破られてしまった」と。
黒の魔導士が張ったものらしく、主様はその「魔力源」としてあの地下に留まっていたらしい。
黒いドラゴンによって無理やり破壊された結界は魔法陣ごと砕き、僕も祠に張ってあった「名残り」を見に行ったけれど到底理解できるものじゃなかった。
魔導書の知識だけでは紐解くことはできず、かなりのオリジナルが書きくらえられている。
残された部分から逆算して同じものを作ろうとしてもどうしてもパーツが足りず、街全体を覆う結界としては機能しなかった。
それにそもそも、主様をあそこに押し戻すのは気が引けた。
「……なんだよ、言いたいことあるんなら言えばいいだろ」
僕はベランダの隅でヘソを曲げたままの結梨に目を向ける。
「なんとなくわかるんだから」
あのまま契約は切ったままだ。
「にゃー」
「……へへへ」
ダメだ、なんだか笑えてきちゃう。
その目つきや身のこなしを見てれば黒猫が結梨だってことはすぐわかる。
この国には他に猫はいないらしいから間違えることもない。
でもいざ言葉がわからなくなるとなんだかこの状況がおかしくてたまらない。
「仕方ないだろ。もう、ユーリを危険な目に合わせたくないんだ」
あのとき、僕は正気を失った。
エシリヤさんが結梨の傷を塞いでくれたけど、結梨のことなんて忘れて突っ込んでしまった。
契約で結ばれた片方が死ねば、もう一人も死ぬ。
もし自棄になった僕がやられてたら一命を取り留めてた結梨も道連れだ。
僕は怖かった。
僕のせいで結梨が死ぬのが、怖かった。
「にゃ」
「……はぁ」
プイッと顔を背け、ベランダから飛び降りると屋根を伝って何処かへ行ってしまう。
あの夜からずっとこうだった。
月明かりの中、人の姿に戻った結梨と出くわしたこともあった。
けれど結梨は何も言わず、ただ黙って僕を睨み、……そのままそっぽを向くのだった。
「だったらどうしろってんだよ……」
ぐっと握った拳に力が入った。
魔法が使えるようになった。
黒の魔導士と呼ばれる強大な力だ。
でもそれはあのドラゴンの前には無力だった……、歯が立たなかった。
自爆覚悟で倒したランバルトだってそうだ。危なかった、と思う。
いくら結梨の爺ちゃんに仕込まれたとはいえ、到底敵うような相手じゃなかった。
ーーだったらどうするか……。
「っ……」
僕は崩壊した街から目を背け、踵を返す。
決意が鈍らないうちに行動に移した。
もうこれ以上、何も守れないのは嫌だった。




