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◯ 8 紅き龍と黒き念い その4


 この世界の建築技術がどれほど進んでいるのかはよくわからない。

 中世ヨーロッパ風って言えばなんとなくそんな感じもするけど、魔法という技術が確立されている以上、僕の知ってる建築物とは強度とか仕組みが違うんじゃないかと思う。

 そもそも建物を見て「バロック建築だな」とか「むむむ、これは竪穴式住居……!」なんて言える知識はなく。所詮歴史の教科書で見知った知識しかないわけで、レンガの家がどれほど強いのか脆いのか。はたまた木造だからどう優れているのかとかわからないんだけど、山の上から見た街は「火の海」だった。


「ーー嘘だろ……」


 地下から地上に急いで戻り、月明かりも無い真っ暗な世界の中、足元で一つの街が燃えていた。

 いや、正しくは「火に飲み込まれていた」。

 遠すぎてはっきりとは見えない。でも地下に潜る前に見た街並みは燃え盛るの炎の下に隠れてしまっている。


「平気です。見てください……まだ防壁が遮っています」

「ーーーー?」


 よくよく見ればちらちらと瞬く「ドーム」みたいなものが街全体を覆っていた。

 どうやら炎はその上で燃え盛っているように見える。


「……あれぐらいの炎であれば持ちます……でも問題はーー、」

「……中、か……」


 しかしそのドームの内側からも確実に火は登っており、城下町が燃えているのは確かなようだ。


「それにーー、」


 言ってエミリアが指をさしたのは街の上空。

 燃え盛る炎の中で大きく火を吐く存在が大きな翼を羽ばたかせていた。


「ドラゴンっ……ーー、」


 地下で会った「主様」よりも小柄に見えるがそれでも近づけば大型のトラックより遥かに大きいだろう。

 燃え盛る炎の中に目を走らせるとそんな影が他にも2体ーー、いや3、4体はいるように見える。

 エシリヤさんの言う通り快く思っていない存在ドラゴンというのは確実に存在するらしい。いつか防壁が破れることを知っているのかなんども口から炎を吐き、街を押しつぶそうとしている。


 ……中の気温、やばいことになってんじゃないか……?


 さながらオーブンか釜だろう。外に出れば直接炎に焼かれることになるだろうしーー、「ちっくしょ……」思わず走り出していた。


「ちょっ、バカ!!」


 肩に乗っていた結梨が爪を立ててしがみつく。けれどいてもたってもいられなかった。

 この世界にきて日は浅い。

 あの街の人たちと交流があったわけじゃない――。

 でも確かにあそこには人々が暮らしていて、生活があった。

 僕らの世界とは違っていても人が生きていたーー。

 それが目の前で焼き払われようとしていて、おとなしくしているなんてできないッ……。


「飛翔せよ漆黒の翼ッ……!! 我に示せッ堕天の暗き月……!! 召喚エキューズヘルズに落ちた天上フォール番犬ケルベロス!!」


 叫び、腕をはらって魔法陣を描き出すとそれは背中に一つの翼を授ける。

 天上の黒き獣の翼。

 黒く染まった真紅の翼は天使のそれと相違なく、地を蹴っていた足がふわりと宙に舞う。


「うっわっ!!? ちょっ……エエェエええ!!!?」


 結梨が悲鳴をあげる。


「……ぁ、」


 ズルりとその小さな体が肩を離れた。


「あかりィいいいいいいいい!!!?」


 悲鳴とも怒号ともとれる叫び声をあげて幼馴染が跳んで行った。というか、置き去りになって落ちていった。


「やっば……」


 急いで戻る。

 翼の制御は思いの外うまくいっていて、いうことを聞いてくれる。

 まるで地面を走るのと変わらないぐらい機敏に反応し、小さくなっていた結梨の姿が次の瞬間には目の前に迫っていた。


「ゆーっふげッ……!!」


 で、思いっきり顔面でぶつかった。

 柔らかい猫のお腹が視界を覆い、「ふぎゃぁああアアアアアア」混乱状態の結梨が頭にしがみついて爪を立てる。


「いだだだだだだだだ!!!!」


 なんとか姿勢を立て直し、空中に舞い上がるとボタボタ血を流しながらも結梨を引っぺがす。


「痛いよ!!!」

「痛いどころじゃ済まなくなるところだったわよ!!!」


 空中で浮遊ホバーリングしながら睨み合う。そういえば結梨って高所恐怖症……。


「……ごめん」

「……ふんっ……!!」


 思いっきりご機嫌斜めでこのまま首根っこ掴んでるのも危ないからマントのフード部分に収まってもらう。


「とりあえず首でもなんでもいいから掴んで落ちないように気をつけて……? 僕も気をつけるから……」

「もうやだ……」


 どうやらフードの中で小さく丸まったらしい。こんなことならエミリアに預けてきた方がーー、


「アカリ様っ……!」


 言ってるうちにエミリアがやってきた。


 クー様にぶら下がって。

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