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◯ 7 登ったら降りなきゃいけないんです その7

「……心配しすぎだって。大丈夫だよきっと」

「でもーー、」

「ユーリは『この体の持ち主』とか『刻まれた記憶』とか気にしてるけど僕はそう思わない」

「……?」

「たぶんこの体は僕らのものだ。見たことがあるような気がするのは『女の子』と『猫』に変換された時に書き込まれたんだと思う。……体の仕組み弄るぐらいだから記憶を弄るぐらい楽勝じゃないかな……?」

「それはそれで信じられないし怖いんだけど……」

「まぁね」


 既に弄られてるのだとすればもうどうしようもないし、正直そんなことを言ったら「今の自分は本当に自分なのか」ってことになるし、そもそも自我ってなんだ。だから不安に思う気持ちは分かるけど、怯えることはない。


「大丈夫。結梨は結梨だよ。それは僕が知ってる」

「……あかり。……そんな格好で言われても説得力ないけどね」

「あはは……」


 言っておいてなんだけど、僕は僕で相変わらず有利から借りた制服を着ているし、マントと帽子を被って完全に「黒魔道士」だ。我ながら自重しろって感じだけど、実はちょっと楽しい。

 女の子の体になってる事自体は不便だし、気恥ずかしさもあるんだけど、やはり魔法が使える事は自分の中で大きかった。


「小難しい話し立ってしょうがないよ。受け入れよう、異世界ファンタジーなんだから」

「……あんたのそういうトコ、たまになんかムカつく」

「エェ……」

「……けど……、こういう時は助かる……ありがと……」

「どういたしまして……?」


 結梨が素直にアリガトウなんてなにか変なこと考えてるんじゃないかって怖いんだけど……。


「で、どーすんのよ? 開けないの?」


 関心は扉の向こう側に移ったようなのでひとまずホッとする。

 別に深い意味はなかったらしい。


「開けないのかって、ユーリが」

「ゆ・う・り!」

「ああ!」


 結梨の言葉がわからず首を傾げていたエミリアに言葉を通す。

 僕らがどーでもいい話をしている間もエミリアはエミリアで僕らをずっと眺めていて、扉の中に入ろうとはしなかった。

 というかそもそも、こんな扉どうやって開けるんだろう。また引き戸ってわけでもないだろうし、そもそも「引き戸」で開くサイズとも思えない。


「こちらをご覧ください」

「ほう?」


 促されたのは二枚の扉が合わさっている中央部分、ちょうど胸ぐらい高さのところを中心に紋章が描かれていた。


「二体のドラゴン……か?」

「ええっ、そうです」


 この紋章は城の中でも何度か見たことがある。

 クー様をかなり大きくしたーー、のではなく成長させたような姿のドラゴンだと思ったのを覚えてる。

 けど、城のものは「一体のドラゴン」だった。

 ここの紋章に描かれているのは陰と陽を表す太極図たいきょくずのように互いを飲み込まんとするような二対のドラゴンだ。

 片側は禍々しく燃え上り、もう片方は流れる水が如く美しい。


「初代国王の紋章です。2体のドラゴンと契約したそうで……」

「ふーん……」


 連帯責任の契約を二体とねぇ……?

 正直理解に苦しむ。


「んで、どうやって開けるんだ?」

「いえ、簡単なことです。ここにこーして」


 笑顔でエミリアが紋章に手を置くと、


「おおおおお!!?」


 手を置いた所を中心に紋章に光が走り、それは徐々に広がってーー、


「スゲぇ!」


 一瞬で門全体を、門に刻まれた彫刻を、光が染め上げた。


「……すごいな、エミリア!」

「そんなそんなっ……私は何もっ……」


 手をそのままに照れるエミリア。

 先ほどまでぼんやりとしか見えなかった彫刻や紋章がかなり細かく彫られていることが分かり、再び感嘆の声を漏らす。


「……で、どーなんのよココから」

「……へ?」


 結梨に言われてふとエミリアを見つめる。

 扉が開く様子もなければ「汝らに問う……」なんて言葉も聞こえてはこない。


「え……えーと……?」


 なんとなく嫌な予感がした。

 考えてみれば上の祠も引き戸を「力づく」で開けていた。

 どういう仕組みかは分からないが、全身の体重を乗せれば「ズズズーっ」と動く程度に力技だった。

 ……となると、まさかここも……?


「手伝っていただいてよろしいですか?」



 ーーえー……。


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