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◯ 1 僕が少女になった魔法 その3

「……そ、それであの……貴女様はお着替えにならなくてよろしいんですか……?」


 ブラウスにふんわりと広がったロングスカート、清楚だけど何処か気品を感じさせる服装を身にまとい少女は尋ねてきた。

 少女とは言ってもたぶん僕とそう年は変わらない。14~15ぐらい。妹と同じぐらいだ。


「そのままでは風邪をひいてしまうと思うのですが……」

「あー……うん……そうだね……」


 確かに僕も上から下までびしょ濡れだ。そこまで寒くはないけどこのままでいたら本当に風邪をひいちゃいそうだ。

 それに自分の体とはいえ、カッターシャツ越しに膨らんだ胸が見えるのはちょっと落ち着かない。

 欲情するにはちょっと子供っぽすぎる体だけど……。


「……なに」


 じっと足元から睨み付けてくる視線を感じた。


「別に。……あんたってそーいう趣味あったのね」

「違うよ!?」


 確かにまじまじ自分の体見てたけど! なんならあちこちどうなってるのか調べたいけど……!

 でも見た感じ妹よりも幼い感じの体つきだし、たぶん13歳とかそれぐらいの……正直まだ子供だ。小さい頃、よく愚図る妹をお風呂に入れてたのをなんとなく思い出す。だから着替えることに関して気恥ずかしさとかは覚えたりしないんだけどーー……、


「着替えがなぁ……」


 ジャージ入れてたカバンは飛ばされてないみたいだし、流石に葉っぱを体に巻く訳にはいかないし……。


「あちらのお召し物は貴女様のものなのでは……」

「え……?」


 視線を追うと少し離れた先に見慣れた制服が落ちていた。


「……あー……」


 なるほど。なんとなく察しがついてひょいひょいと拾いに行ってみる。


「よいしょっと」


 予想通り見覚えのあるうちの学校の制服だった。ちゃんと一式あるようでブラウスにスカート、ブレザーに内側を探ると薄いピンク色の


「死ね!!」


 思いっきり引っかかれて意識が飛んでしまったのでちょっとピンク色がなんだったのかは思い出せないけど、どうやら結梨の着ていたものは一通り揃っているらしい。

 サイズはちょっと大きいかもしれないけど結梨は細い方だから多分問題なく着れそうな気も……、でも……、


「……これを僕が着ちゃってもいいの……?」


 流石に人の制服を着るのは抵抗があった。

 念のため結梨に確認を取ると視線こそ合わせてくれなかったけど渋々うなづいてくれる。


「……緊急事態だし……私は着れないから仕方がないんじゃない……?」

「そっか……」


 ごくりと喉が鳴った。別に変な意味ではなく、なんかドキッとして。


「下着見たら殺す」

「わかってるよ……」


 それらしきものは手探りで取り出し、脱いだカッターシャツの中に隠した。これ以上引っ掻かれたくない。

 で、四苦八苦しながら着たのは良いんだけど……。


「……なんか変な感じするねこれ……」


 女の子の体になってるとはいえ感覚的には女装なわけで。

 ……すごく、スースーする。


「……うぅうっ……!」

「ちょっと、何震えてんのよ気持ち悪い」

「寒かったんだよ! しょうがないだろ!」


 ブレザーを着ると胸周りが締め付けられて窮屈だったので腰に巻いておく。

 結梨って本当に細いんだなぁって感心する。胸が小さいとか言ったらぶっ殺されそうなので。


「うし」


 自分の服は適当に持て余して岩に広げて干しておくことにした。

 日がよく当たるしそのうち乾くだろう。


「変わったお召し物をお持ちなんですね……?」

「あ、ああ……まぁね……?」


 ぼんやりとこちらを見ていた少女もやってきて横に並ぶ。気分はキャンプで洗濯日和。

 ……だけど、そんな呑気な状況でもないんだよなぁ……。

 どうやら本格的に異世界に来てしまったようだ。地球上の何処か辺境の地ーー、という可能性もなくはないが『それで女の子になったり』『猫になったり』するとは思えない。

 だとすれば何かが原因で異世界に飛ばされた。転移した。インストールされた……?

 女の子と猫に?

 ……まだ夢だって言ってくれた方がマシだ。

 その場合、僕が女の子になりたかったっていう潜在欲求と向き合うハメにはなるけど。


「ええっと……君……名前は?」

「エミリアと申します。貴女様は……?」

「アカリだ……。…………たぶん」

「たぶん?」

「いや、こっちの話」


 この体が自分のものだという確証はないしなぁ……。

 自分の魂がこの体に乗り移ったとか、そういう可能性だってある。

 その場合だと僕の本物の体がどうなっているかが気になるところだけど確認しようもないし……。


「……? なに、どうかした?」

「いえっ……」


 もじもじと顔を見つめ、何かを聴きたそうにしているのは確かなんだけど人見知りなのかなかなか言い出せずにいるようだ。

 なんなら不審者はこっちなんだから詰問攻めにしてもらっても仕方がないんだけど……。


「あ、あのっアカリ様……! 先ほどそちらの黒の神獣様とお話しされているように見えましたが……」

「……?」


 神獣と言う言葉に首を傾げ、視線を追って結梨に辿り着く。

 黒の神獣……、猫が?


「ええと……まぁ……うん……?」

「まぁっ! もしやお二人は言葉が通じていらっしゃるのですか?」

「……?」

「……?」


 手を打ち、目を輝かせるエミリアに俺と結梨は顔を見合わせ首を傾げる。

 通じるもなにも結梨は普通に声を口に出して話してたし、テレパシーみたいなものではなかったはずだけど……。


「普通に通じてるよな、なぁ、ユーリ」

「ユーリじゃない、ゆ・う・り」

「まぁまぁっまぁっ!」


 いつもの調子で言い合うとエミリアが目を輝かせて迫ってきた。


「本当に通じていらっしゃるんですね!! すごいです!」

「え……そういうもんじゃないの……? 猫とか動物が普通に喋る世界観なんじゃ……」

「猫というものがどういうものなのかはわかりませんが、動物が言葉を解するわけないじゃないですか。ドラゴンでさえ人間の言葉は話せませんよ?」

「……ドラゴンはいるのか」

「はいっ」


 なんだかその部分だけは自分のことのように嬉しそうに笑って見せる。

 ていうかドラゴンがいるってますますファンタジーじゃないか……。


「我が国に受け継がれる伝承によると黒の獣を従えし漆黒の魔導士はその獣と言葉を交わし、この国を救ったそうです」

「……へぇ……」

「あなた様はもしや伝説の!」

「いや違うから。多分それ、俺じゃないから……」


 放っておいたらとんでもない勘違いに発展しそうだった。

 残念ながらそんな大それものじゃないし、変に勘違いされて面倒ごとに巻き込まれるのはちょっと避けたい。

 右も左も分からない世界での危険な出来事は死につながる。せっかく異世界に来たというのに即座に死亡なんて全然笑えないし死にたくなかった。

 結梨も興味はないのか呆れてるのか岩に乗って欠伸を繰り返すばかりだ。


「こいつの言葉はわかるけどその伝説のなんとかってのとは関係ないから……」

「そうなんですか……、……残念です……」


 目に見えて落ち込ませてしまってなんだか申し訳ない。でも嘘を本当とは言えないし……。


「しかし……そうだとしたら『どうして』竜宮の泉に……? ここは神聖な場所で普通の方は立ち入れないようになっているはずですが……」


 ーーあ、やっぱそうなるか。

 なんとなく話の流れで誤魔化せないかと思ってたけどどうにも無理そうだった。

 尋ねた言葉の中に僅かばかりの警戒心がちら見えする。

 そりゃそうだ、誰だって裸で水浴びしているところに人が飛び込んできたら警戒する。

 なにやら勘違いをキッカケに人を呼ばずにいてもらえてるけどこのままじゃやばい。

 ……さて、どうしたもんか……。現地の人らしいから情報は引き出しておきたいし、なんなら街まで同行したかった。自慢じゃないけど魔導書を読み込んだ知識はあってサバイバル術は一切ないし、こんな大自然の中で置き去りにされたら間違い無く餓死してしまう。だからここが僕らの生命線ーー!

 ーー必死に考えを巡らせ、自分なりに一つの言い訳に思い至る。


「……実は……、記憶がないんだ……」

「おい!!」


 思いっきり結梨には突っ込まれてしまったがそこは純粋な少女・エミリアちゃん。


「まぁっ! それは大変です!」


 完璧に信じ込んでくれた。


「気がついたらこの泉の中に落ちててさ……さっぱりなんだ」


 嘘をつくことに罪悪感がないわけじゃないけど切り抜ける為だ、仕方がない……。

 それにまんざら嘘ってわけでもない。事実この世界に関する知識は一切ないわけだし、記憶喪失と大差ないだろう。


「記憶がなくなったというお話は伺ったことがありますが、お会いするのは初めてなのです……。どう致しましょうっ……? 心細くはありませんか……?」


 とはいえ本当に信じ込んでくれてる姿を見ると笑顔を引きつる。

 後でちゃんと謝ろう……。


「できればここら辺のことを少し説明してもらえると助かるんだけど……。もしかすると何かがキッカケで記憶が戻るかもしれないし」

「そうですね、ではーー、」

「エミリアー? ちゃんと清め終わりましたか?」

「……!?」


 森の中から声がしたかと思えば同じような服装をした女の子が出てきた。

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