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◯ 7 登ったら降りなきゃいけないんです その4

「国内にいるドラゴンは数えるばかりしかおりませんが、この世界にはある一定数の数が存在しています。……正確な数はわかりかねますが、それこそ人間を滅ぼすには十分な数が」

「滅ぼすって物騒な……」


 半分冗談で言ったつもりだったけどエミリアは曖昧に微笑んで誤魔化しただけだった。

 どうやらわりとマジな話みたいだ……。


「それが……なんでエミリアを狙うんだ?」

「竜宮の巫女とはかつて一体のドラゴンを従えたこの国の国王の伝説から継承されてきたものです。本来は国王がその任についていたのですが、そもそもドラゴンと人は相容れぬ存在。……言葉も通じなければ文化も違います。彼らには彼らの世界があり、私たちは互いに干渉はしません」

「でもクー様は一緒に暮らしてるよな?」

「クゥッ」とひと鳴き。とてもじゃないが「相容れぬ存在」とは思えない。


 それに「滅ぼすには十分な数」がいるのに「相容れぬ存在」を容認しているのも謎だ。

 不可侵条約があるわけでもあるまいに。……いや、あるのかな、この場合……?


「クーちゃんは特別なので。ーー人里に生まれて、人に育てられましたから」

「クゥッ」

「……?」


 捨て犬を拾った、みたいな言い方だなほんと。

 負い目を感じている様子もあるみたいだし、事情は複雑のようだ。ーーもっとも、僕としてはあまり踏み込みたくはないんだけどーー、


「そのクー様を目の敵にしてるとかそんな感じ? ドラゴンの身でありながら人間に力を貸すとは何事だーみたいな」

「ええ、まぁ……? そんなところです」

「ふーん……」


 気乗りしない話題であるのはわかるが、妙に歯切れの悪い容姿に話も弾まない。

 ーー何かを隠してる……? ような気もするし、考えすぎなような……??

 結梨の様子をチラ見してみたけど黙って歩いているだけで特に変わった様子はない。

 こういうことに関しては僕よりも結梨の方が向いてると思うんだけどなぁ……。

 当の本人は傍観を決め込んで話しかけようとしなかった。もちろん、猫の言葉が通じる訳がないんだけど、そこはほら、僕という通訳フィルターを通したって良いワケで。


「ねぇ、ユーリ。神獣様として何か一言」

「会話を放棄しないで黒の魔導士サマ? あと、ユ・ウ・リ」


 この世界では結梨より「ユーリ」の方が合ってると思うのになんとも勿体ない。


「ユーリ様はほんとうにお優しいのですね」

「ハァ!?」


 言葉は通じていないはずだがクー様と心通わせるエミリアには結梨の言葉も多少わかるものがあるのかもしれない。

 素っ頓狂な声を上げた結梨に微笑んで言葉を続けた。


「神獣様方は皆様気難しい方ばかりだと聞いておりますので……人の身である私たちに力を貸してくださるだなんて……、失礼ながら信じることができません」

「はぁ……?」


 神獣様方、ってことは結梨みたいなのが他にもいるのか? ……猫とか犬が?


「でも街中歩いてても何も言われなかったけど?」

「黒の神獣様が街中を歩いているだなんて誰も思いませんもの」


 有名人が街中に溶け込みすぎてて誰も気づかない、みたいな感じだろうか。


「はー……そういうもんですかー……」


 神獣といえど所詮は結梨なので実感もわかない。


「なによ」

「いやなにも……?」


 お互い厄介なものにされてしまったもんだと少しは同情する。

 逆の立場だったらどうだろう。……女の子になるよりも猫の方がマシだったかもしれないな。


「僕からしたらクー様の方が稀少に思えるんだけどな」

「クゥ?」


 だってドラゴンだし。


「まぁ……。……クーちゃんが狙われているのは確かなんですが……それだけでは彼らも手を出してきません。ドラゴンといえど、人と戦争になればただでは済みませんから」

「ホゥ……」


 性能で勝るドラゴンに対し、数で応戦する人間達、ってことかな。

 実際、アルベルトさんみたいなのが人の側にもいるみたいだし、人間離れしてたけどさ、アレは。

 連続で打ち出された拳をなんとなく思い出してしまった。

 柄にもなく熱くなって応戦したけどあの戦闘力は人間の物とは思えない。

 少なくとも僕の世界では「異常」な運動速度だった。魔法が存在する世界だからなんらかのチート、ズルはしていたのかもしれないけど魔法は通常人が使えるものじゃないとしたらーー、……いや、化け物じみてから身体強化ぐらい使っててもおかしくないか。つか使ってないと人間の底力すげー。

 とか思いながらなんとなくあの人は自力な気がする。

 執事長の皮を被った脳筋戦士だし。


「恐らく今回彼らが動き出したのは……やはり原因は私なのでしょう」

「竜宮の巫女?」

「ええ……、誇り高い彼らはドラゴンを使役する巫女のことを快く思っておりませんでしたから」

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