◯ 7 登ったら降りなきゃいけないんです その2
「……エミリア、ちょい、エミリア」
お邪魔をしちゃ悪いかなと思いつつも肩をツンツン。
めいいっぱい力を込めていたからか「はっ、はいっ……?」と反応のテンポは少し遅れた。
指で扉をさして僕をさして、ちょいと交代。
結梨とクー様が肩と頭から降りて、ういっういっと肩を鳴らす。
ーーせーっの。
「ぬぉーーーー!!!」
ぐぐぐぐぐっとさっきのエミリアよろしく全身全霊で押す。思いっきり肩を入れて「グゥーッ」と押し込む。
押して押して、「うぬぬぬぬぬ」女の子らしからぬ声を上げ、自分でもどうかってぐらい本気で押し続ける。
「ウァーッ!!!」
頭の血管がブチ切れそうだった。
何のために押しているのか、何のための苦行なのか。何のための扉なのか。
そもそも扉って何なんだ、開けるためにあるのか閉じるためにあるのか。閉じるためでいいならもうそれは壁でよくね? 壁でいいなら扉じゃなくてよくね? だったら扉は開けるためにあるんだ、開くためにあるんだッ、目の前の扉は、僕に、扉を開けようとする人に「開けられる」ためにあるんだッ……!!!
「くはっー……」
開かない、全然びくともしなかった。
隣を見るとエミリアが困惑した顔でこちらを見ている。
「ははは……」
なんか変わってもらって開けられないって凄いダサいよね……。
硬い瓶の蓋を「開けてあげるよ」って妹から取ったら全然空かなくて、お母さんがやったら一発だったっていうーー、
「……身体強化魔法・物理で殴る!」
右手を中心に出現した魔法陣が腕から体を登り、全身を包み込むと「ふぉー……」身体中の「気」が高まるのを感じた。
身体強化魔法。一時的に大気のエネルギーを体内へと取り込むことで大幅に運動能力を向上させるものだ。
基本的には自然のエネルギーを運動エネルギーに変換しているだけなので、体への負担も少なく、軽いリスクで、
「フォーーーー!!!!」
十分な力を得られるはずだった……。
「ーーーーダメだぁ……」
バタン、と扉を背に倒れ込む。
よーし、とエミリアが選手交代だと言わんばかりに扉に向かうがどう考えても無駄な行為にしか見えない。
「あー……」
逆さまに神殿(いや祠だっけ?)を見上げるとやっぱり相当のでかさだ。そしてこの扉も。
押してどうにかなるレベルじゃないきがする。
やはり魔術的な何かがーー……って探してみるけどそれらしい形跡は何もないわけで……。
「どーしようユーリ……?」
ダメ元で結梨に聞いてみる。冷静に外から見てると何かわかったかもしれない。
割と期待していたんだけど帰ってきたのはため息だった。
「ばっかじゃないの、開くわけないじゃないこんなの」
「ですよねー……」
身体強化かけた黒の魔導士のスペックで開かないならどんな人を連れてきても開けることは出来ない気がする。
そもそも儀式の過程で「力づく」ってのもどうなんだ。絶対間違ってるだろコレ。
「エミリアー……なんか聞いてないのか……?」
「んー……おばあさまはひょいって開けていたような気がしますし……お姉様からはなにも……」
困ったな、こんなところで行き止まりか……?
手で叩いてみるとゴンゴン、と全く向こう側が見えない音がした。多分相当分厚い。
魔法で吹っ飛ばしてしまったら楽なんだけど、そんな事をしたら祠自体が倒壊しかねないし、そもそも神聖なものを「ぶっ壊して通る」とか完全に悪側の行動じゃないですか……。
今時の悪党でも扉を開けてもらうの影で待つよ? ダイナマイトで吹き飛ばさないよ、多分……。
「……どーすっかなぁ……」
すでに日は傾いてきていて、太陽は夕日と言っても良いぐらいだ。
このままここで野宿したとして解決策が見つかるとも思えないし、クー様に頼んで開け方を聞いてきてもらう……?
伝書鳩ではなく伝書ドラゴン。
「…………つかすごいな……」
神竜の祠に気を取られていたけど見渡してみれば絶景だった。
かなり高い山を登ったらしく景色が足元に広がっている。
遥か彼方にエミリアたちの城が見えて、位置的には「裏山」なんだとわかる。
裏山ってレベルじゃないけど。
他にも山脈は連なっていて、そのうちの一つの登ったらしい。
山頂は空気が少ないというけれど「…………?」どうなんだ。この体だから平気なのかそれともこの世界の常識が違うのか。
今の所息苦しくはなく、多少冷えるかなー……? ぐらいだ。
辺りを見回す。
身を隠すようなところは相変わらずなく、誰かが付けてきているとしたら気付かないわけがない。
「んー……」
いまは「見られている」という感覚は消え、クー様もリラックスしているようだから気のせいだったのかもしれない。
……というのは流石に楽観的かもな。
なんらかの魔法・魔術的なものでの透視、把握かも知れない。
念のために何かトラップでも仕掛けようかと思っているとエミリアの悲鳴が聞こえた。
「……!!?」
突然のことで跳ね上がり、「どうした!?」と慌てて祠に戻ると扉が開いていた。
「こうすればよかったんですね! 流石ユーリさまですっ」
嬉しそうに扉の前で微笑み、クー様とハイタッチしあっている。
扉の向こう側には結梨すでに入っていて蔑んだ目でこちらを見ていた。
「……ばーか」
「ぁ……はい……すみません……」
なんでも力技で解決するってのはいけない傾向だ。
力を手に入れたからこそ、そのことを肝に免じておこうと思う。
ーーそうして僕らは「引き戸だった扉」をくぐり、祠の中へと入っていった。




