◯ 7 登ったら降りなきゃいけないんです
黙々を山を登ること数時間、何度かの休憩を挟みつつも岩山を登った先にそれはあった。
岩肌から生えた二本の巨大な樹。そしてその間に大きな祠があり、石の扉は固く閉ざされていた。
「すごいなこりゃ……」
ここまで張り詰めてきた気が一瞬で緩んだ。
とても人が作ったとは思えないほどの大きさだった。
扉だけでも数メートルを超え、祠も軽く神殿レベルだ。
世界史の教科書とかで見たギリシャのなんとか神殿、みたいな大きな柱があって、両脇を「生きた樹」がその役割を果たしている。
神殿を建ててから樹が育ったのではなく、最初から「神殿に樹が組み込まれている」……いや、「樹が神殿になった」……?
奇妙なその祠を眺めているとエミリアがおかしそうに笑った。
「伝承の始まりの地であり、終わりの地と聞いております」
まるで観光地を案内するかのような気軽さだ。
「いや……なんつーか……びっくりしてる」
「私も最初連れて来て頂いた時は同じでした……、クーちゃんともここで出会ったんだよね?」
「クゥッ」との鳴き声は軽やかでエミリアはそのときのことを思い出しているらしかった。
「……ほんと……懐かしいです……」
何か思うところがあるのか寂しげに目を伏せ、それをクー様が慰めるかのように頬づりする。
……いいコンビなんだな。
見ていてホッとするっていうか優しい気持ちになれる。
じんわりとこみ上げてきた感情に呼応するかのように、ぐっと気を改めて引き締めた。
こんな二人だからこそ、ちゃんと守りたい。
そう初めて自然に思うことができた。
「エミリア、この扉はどうやって開けるんだ?」
触ってみると表面は雨風にさらされてザラザラしている。
押したところで開くとも思えないし、周りにはそれらしい仕掛けも見当たらない。
神聖な場所だから「祈りを捧げる」とか「相応しい者が立つと扉が開く」とか、そういう魔法が施されているのかと期待していたらエミリアは腕まくりして微笑んだ。
「力づくですっ☆」
「…………」
すごく嫌な予感がしつつも僕を押しのけて前に出る彼女をぼんやり見守る。
クー様も僕の頭に飛び乗ると鼻息を荒くし始めてるし、結梨に至ってはあくびをこぼした。
……おいおい。
いまいち気が抜ける状態で(っていうか僕は猫とドラゴンの止まり木になってるわけだけど、ナニコレこの状態)エミリアのことを見ていると思いっきり両腕を突き出し、腰を落として
「ふにゅっ……!!!」
押した。
「ふぬぅー……!!!」
めいいっぱい押した。
「ぬぬぬぬぬーっ……!!!」
超押してる。
いや、マジで本気で、めいいっぱい、力の限り押してる。
全身で体重を乗せて、腕で、肩で、背中でーー、あの手この手で力の入れる場所を変えてひたすら「うりゃーっ!!!」押してる。
「…………」
どうしよう、助けた方がいいのかな……。
あくまで僕は護衛でこの竜宮の巫女に関する儀式はエミリアのものだ。下手に手助けするのはルール違反なのかもしれないし、「はぁっはぁっはぁっ……」「……」目があった。「ふふっ!」「…………」思いっきり親指を立て「グーッサイン」を出してきた。この世界でも通用するんだ……コレ。
僕もつられて自分の親指を立て、まじまじと眺める。
「…………」
「にゃーっ!!!!」
……にゃーて、……いま「にゃーっ」て掛け声だしたけど結梨の真似でいいのかな。突っ込んだほうがいいのかな、いまの。
「クゥーッ!!」とクー様が呼応して応援し、また結梨は欠伸をした。




