◯ 6 魔導少女は近接戦闘の夢をみる その14
神竜の祠を尋ねるのは月に力の満ちる晩でなくてはならない——。
そうエシリヤさんは言っていた。この巫女の儀式において重要なことらしい。
身を清め、祠に祀られている杖を取り、そして祭壇で洗礼を受けるーー。
そうして竜宮の巫女は誕生し、正式にその名を認められるのだという。
「確かに月の光って確かに魔力的な意味合いは強いもんな。術が強まったり弱まったりーー、」
と、唐突に浮かんだのは結梨の後ろ姿で、
「ファおっ!?」
流石に今回のは避けた。思いっきり避けた。完全に殺気を感じた。
「怖いっすよユーリさん……」
「次余計なこと考えたら殺す」
「……」
猫って野生化したら割と強いんじゃね……?
ゴゴゴッていうドス黒いオーラを発してる姿を見てそんなことを思う。
というか、「黒の神獣」とか呼ばれるぐらいだから結梨自身何か特別な力があってもいい気がするけど……。
「人に変身するのが力だったらどうしよう……」
「……殺されたいの」
「いぇ……」
人型になっても結梨は強いんだけどさ、多分……。
「……そういえば足の調子はどうなの」
「へ?」
ドタバタで完全に忘れてたけど結梨は足が悪い。主に左足が。
日常生活を送る上では支障はないけど走ったり運動したりすると激痛が走る。そしてそれは「残る」。
全国出場を決めた帰りに遭った交通事故以降、リハビリやいろんな医療を試したらしいけど完治するには至らなかった。
「山登りなんてして平気?」
「……そう思うならアンタが代わりに歩きなさいよ」
「わっ」
ひょいっと肩に乗られ、まるでマフラーみたいに首に体を巻きつける。
「……平気よ。……なんともない」
「そっか」
素直なのか捻くれてるのか。
まぁ、昔からだから慣れっこだけどもう少しストレートに感情出してくれた方が分かり易いのに。なんてグチグチ考えてたら、そんな様子を見てかクー様もエミリアの肩でクスクス笑っていた。目があって僕は曖昧に笑い返す。
ドラゴンと意思疎通ができてるのかわからないけど、向こうは向こうで勝手に友情を感じてくれているらしい。「お前も大変だな」って言われた気がした。
うーん……まぁ、結梨よりも種族の違うクー様と通じ合ってるのも如何なものかと思うけど……。
「ちょい待った」
「何よ、……重いとか言ったらひっ掻くわよ」
「いや、そうじゃなくて……」
ふとざらりとした感覚が肌を掠めた気がする。
足を止め振り返るが当然のごとく誰もいない。
僕と同じものをクー様も感じたのかお互い目を周囲に配るが物陰に誰かが隠れている様子もなく、クー様が翼を羽ばたき、高く飛翔すると旋回し始めた。
緊張が走る。
今もまだ何か嫌な感じは引きずっていた。
ザラザラ、ザラザラと誰かに見られているようなーー……。
「……燈?」
「…………」
結梨とエミリアは何も感じないらしく僕の様子を伺うばかりだ。
でも確かに「誰かに見られてる」、……気がする。それはクー様も同じようで降りてくると腑に落ちない様子で首を傾げた。
なんだ……?
ザラザラと首筋を削られるような……すごく嫌な感じだ。無視できないくせにその正体が掴めない。
「……先を急ごう……、警戒は怠らずに」
「……はい」
エミリアと二人足場の悪い山道を黙々と登り始める。
もうそこには陽気さの欠片もなくなっていた。




