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◯ 6 魔導少女は近接戦闘の夢をみる その13

「……?」


 結梨との話が終わったのを見計らってかエミリアが間に割って入ってきた。


「魔法を使用する魔力源が人の器では少なすぎるんです……、せいぜいマッチに火をつける程度の魔法陣しか描けませんし起動もできません。だからそれを遥かに超える魔法を行使するアカリ様は『伝承の黒の魔導士』だと思うんです……」

「って言われてもなぁ……」


 体は確かにそうなのかもしれないけど、中身はなぁ……。


「あんまり実感ないや」

「記憶を失っていらっしゃるのですから仕方ありません……、きっと大いなる代償なのでしょう」

「……代償」

「はい」


 やばい、なんかエミリアが変なスイッチ入ってる。

 目をキラキラさせて「自分の理想」をぐいぐい押し付けてきてる感がパない。


「アカリ様はきっと何かの使命の途中だったのかもしれません、それとも何者かを封印した反動で自らの記憶も封じていらっしゃる……!」

「や……、それはどうなんだろう……」

「ですよねっ、クーちゃん!」


 心地よい程の「クゥッ!」と言う同意の声。

 うーん……、笑うしかない「ははは……」。

 と一つ思いついて早速治った右手で魔法陣をひとつ描いてみる。


「開け、諧謔かいぎゃくの扉ーー、遥か栄光の彼方ヨジゲンポケット!」


 空中にくるりと描いたそれは形を成すとゆっくりと降下を始め、地面に転がっていた大荷物を飲み込んでしまう。

 ーートプンッ、と逆さまに消えた荷物の後に残るのは僅かな揺らぎで、それもしばらくするとおさまった。


「……なにいまの」


 結梨が気持ち悪いものでも見たかのように睨んでくる。


「空間操作魔法の一種、最初から荷物なんてこうすればよかったんだっ。あーっ、これぞまさに肩の荷が下りたって奴だね!」

 実際のところは全然降りてないけど! あの大荷物を運ばなくていいと思うだけで幾分も気持ちが楽なる。


「……ちゃんと取り出せるんでしょうね」

「試してないけど多分」

「うわー……」


 全然信用されてなかった。

 いや、僕も平気だって確信してるのかって言われるとちょっと微妙だけど。でも魔法にも慣れてきたし、うん、多分平気だ。


「アカリ様……?! まさかそれほどにまで魔法を使って疲労などは……」

「……? わかんないけど……なに、それも魔力源がどーとか「流石です!!」


 言い終わらないうちに手を掴まれエミリアの顔がすぐそばに迫っていた。


「うおっ?!」

「それほどまでの魔力源、一体この体の何処に……?! まだ私ともそう歳も変わらないようですのに……!! はっ……、まさか魔法で年齢を遅らせてーー、いや、もしかすると転生魔法をお使いですか!?」

「いや……流石にそんなのは知らないし歳もあんまり変わらないと思うけど……」

「でしたらどうしてっ……!! やはりこれはいろいろと伺わせていただきたく思うのです!!」

「わー……」


 なんかさ、引っ込み思案だと思ってたら案外オタク知識に豊富で人の話を聞かないってこう言う感じなんだーーってのを目の当たりにする。国の人たちのために危険なことにも身を捧げる、献身的で儚いお姫様……ってイメージは徐々に、っていうかゴリゴリと削られて等身大の。それもけっこーめんどくさいタイプの女の子だとわかってきた。

「し……、城に戻ったらな……」

「はいっ……!!」


 打ち解けたらはっちゃけるタイプなんだろうな……多分……。


「……ん? ユーリ?」


 べしんっ、と尻尾で殴られた。「ふげっ!?」とか我ながら女の子らしさも欠片もない。


「ほら、休んだらさっさと行きましょう。……日が暮れる前に祠までには辿り着かなきゃなんでしょ?」

「ああ……うん……?」


 もう少しゆっくりしていたい気もするけど確かに日は昇りきっていて、先を急がないとまずい。

 申し訳程度に道が出来ているだけの山中。岩肌。

 明かりなんて日が沈めば月ぐらいしかないだろうし、そんな状況で襲われたら面倒この上ない。

 最悪、防壁魔法でも張れば安全なんだろうけど「害虫駆除のバチバチ」を一晩中聞きながらってのは気が休まらないだろう。それにーー、


「今夜じゃないとダメなんだよな……?」

「……はい」

「なら行くかっ……」

「はいっ!」


 気が進まないなりに山を登り始める。ウダウダ言ってても始まらないしね。

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