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◯ 6 魔導少女は近接戦闘の夢をみる その11

 思わず奥歯を噛み締め、「そいつ」を睨みしめた。

 当然だ、隙を見せれば襲われるーー。首筋に噛みつかれなかっただけ運が良かったと思うしかないっ……、


「んにゃろッ……!!」


 噛み付いて離れない狼をそのままに地面に振り下ろし、骨まで牙が届いていたのか衝撃が改めて頭の芯にまで響く。

 悲鳴をあげそうにもなるがそのまま左手を突き出し、


雷竜スネーククロウ!!」


 雷槍らいそうでもって焼き飛ばした。

 目の前で弾ける電流に頭がクラつくがそれ以上に「また感電した」。


「ーーぁッ、だッ……?」


 二日続けての感電。人生において雷に打たれる人がどれだけいるだろう。

 極めて稀な体験をしているとは思うけど嬉しくもなんともない。

 雷槍らいそうの反動で後ろに倒れそうになり、足を下げて踏ん張ろうとしたけど無駄だった。

 そのまま地面に引っ張られるようにして倒れーー、傾いていく景色の中、エミリアと目が合った。


「っ……大天使エンジェリング結界領域バリアフィールド


 まだ言うことを聞かない右手の代わりに左での指先を向け、発動させる。

 エミリアの足元で大きく展開した魔法陣は一度収縮し、彼女の周りを囲うように大きな「光の輪」を生み出す。

 それは大天使の加護とも言える絶対不可侵の領域ーー。

 大天使の守護領域エンジェリング・フィールドとは違い、反撃こそできないが守りに徹するならこっちのほうがいい。


「アカリ様!」

「ぐへぁっ」


 欠点として、味方だろうがなんだろうが、その範囲に近づいたものを「弾き飛ばす」のだけど。


「う……あ……」

「…………」


 こてん、と地面に転がり背中で結梨の冷たい視線を感じた。


「……起こして……」

「……どうやってよ……」


 幸いにも雷竜スネーク乱舞バイトの補足範囲に潜んでいたもので全てだったらしく、追撃はない。

 周囲から立ち込める匂いは感電死した動物たちのものだろう。

 今になって可哀想だなんて気持ちもこみ上げてくるけど仕方ない……やらなきゃやられてた。

 ドクドクと血が流れ出る右腕はジクジク痛んだ。

 本来なら絶叫ものだけどなんとか我慢できる痛みだ。女の子を傷物にしてしまっているのは……もう開き直って許してほしい。元の体の持ち主がいたとしても僕に入れ替わった時点でこうなることは仕方ないだろ……! ていうか入れ替わるなよ!! 黒の魔導士なんだろ!? なに他人の呪文の影響受けてんだ!!


「なに考えてるの?」

「……現実逃避……」


 ビリビリと体が痙攣して動けない。

 余計なことを考えるのは脳神経を若干やられてるのかもしれない。こまった。借り物なのに(2度目。


「あの……アカリ様……? ごめんなさい……」

「いや……いいよ……」


 顔を見るのも恥ずかしいので伏せたままだ。

 まさか自分で発動させた結界に弾き飛ばされるとは思ってもみなかった。

 いや、なんとなく嫌な予感はしたけど……でもほら……安全第一って言うか……エミリアが大事っていうか……。


「とにかく……君が無事でよかったよ……」

「……!」


 ずりずりと頬っぺたを地面に擦り付けながら見上げたら結梨の顔があった。

 正しくは有利の顎があった。

 超ど迫力、地面に転がって黒猫を見上げるとさながら怪獣の様だ。


「えっと……?」


 ヒゲがピクピク動いて見下ろす瞳はなんだか冷たい。

 ーー……もしかして怒っていらっしゃる……?

 え……、なにに……? 腕に噛みつかれたこと……?! だったら狼もどきに言えよ!!


「あだッ……、……あだ……?」


 ぺちん、とおでこを肉球で叩かれた。っていうか今のは叩かれたっていうか抑えられたっていうか……?


「……ユーリ……?」


 ぷいっとそっぽを向いてしまい、視界から消えたかと思えば右腕の傷をざらざらとした感触が撫でた。

 驚いて振り向くと(頬っぺたじょりじょり)結梨が猫の舌で舐めていた。

 さながら、怪我をした主人を心配する飼い猫の様に。


「……」


 回復魔法を打とうとしてくれていたエミリアを左手でせいしてとりあえず感謝を告げる。

 ありがとう、と。結梨も結梨なりに心配してくれてたんだろう。その気持ちは凄く嬉しい。

 背中を押された身としてはちょっと複雑な気もするけど、背中を押した側も心配ぐらいはしていたんだろう。

 だから、ありがとう。ぺろぺろと、傷口を舐めてくれてありがとう。……なんだか生身の(っていうと変だけど)結梨に舐められてるのだと思うと変な気持ちも湧いてくるけど、とにかく今は、


「ごめん……猫の舌って痛いからやめてくんない……?」


 ベシッと尻尾が両目を打った。

 ーー体のしびれが取れていることに気付いたのはその痛みでひとしきりのたうち回ってからだ。


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