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◯ 6 魔導少女は近接戦闘の夢をみる その9

「お茶でも淹れましょうか……?」

「いーや、気にしなくていい。平気だから」

「でも……」


 クー様も気遣ってか僕の側に降り立っては顔色を伺ってくる。

 そんな姿は可愛らしくもあり、……どうしてもエシリヤさんに言われたことを思い出させる。


「ドラゴンたちは妹を亡きものにしようとしています」


 心通わせる者ーー、……この竜の国と呼ばれるクリューデルには昔から「ドラゴンを従える巫女」が継承されていた。

 それは先代の祖母の死を境に途絶えてしまっていたのだが、エミリアがクー様ことホワードと心を通わせるようになってから「竜宮の巫女候補者」になったのだという。

 国内に確認されている「人と暮らすドラゴン」は数体。

 しかし、絶滅を危惧されているだけであってその個体数は少なくはないのだという。


「ドラゴンはすべての生物の上位的存在。神の遣いとも信仰される種族です。知性も高く、誇り高い……。そんな彼らだからこそ、『竜宮の巫女』の存在は耐え難いものなのでしょう」


 そう語るエシリヤさんの表情は硬かった。

 そこまでして、……妹の命をかけてまで継承しなければいけないものかと思ったけどそれはどうやら国の事情が絡んでいるらしく「巫女の存在はこの国の存在理由でもあるのです」だそうだ。

 その辺の事情は詳しく教えてもらえなかった。

 帰ってから追々、落ち着いて説明するとは言われたけど自国の脆い部分を部外者に話すのは気がひけるんだろう。

 お姫様となれば国は我が家も当然だから。

 ……と街中での人々に愛されていた姿が浮かんだ。

 きっと彼女は彼女で妹と国民、どちらも守りたいのだろう。

 なら尚更、力になれるのならなりたいとは思う。……極力、面倒ごとにはなって欲しくはないけど……。平和主義者だから、一応……。


「どう? 少しは落ち着いた?」

「まーね……」


 頭の中を整理すればなんてことない、困っている人がいるから力を貸す。単純な話だ。

 そこに命が関わってくるかどうかだけーー、……そこが重いんだけどなぁ……。


「……ねぇ、ユーリ。僕が余計なお節介したこと根に持ってない?」

「ゆ・う・り。……なによいきなり」

「このまま部外者の僕がでしゃばっていいのかなーって……」


 結梨の時も完全にそうだった。

 あのときの僕は自分の弁えも考えず、踏み込み、そして力任せに解決した。

 そしてそれは遺恨を残すことになった。


「……この国ことはこの国の人に任せた方がいいんじゃないかって思って」

「そ、「そんなことありません!!」……?」


 結梨が何かいいかけたのをエミリアが遮った。

 頬を赤くし、肩を引き上げてエミリアは憤る。


「アカリ様は部外者などではありません!! この国に伝わる伝承の黒の魔導士様に他ならないのですから!」

「え、ええっと……?」


 確かに「この体は」その伝承の黒の魔導士なのかもしれないけど、中身は魔導士でなければ女でもない。ただの男子高校生だ。


「私はっ……アカリ様に巡り会えたこと……!! こうして、共に儀式に向かうことができることをっ……運命だと思っております!」

「…………」


 エミリアにとって「黒の魔導士」とは一体なんなんだろう。

 いや、エシリヤさんの反応も同じだった。

 僕が結梨ーー、……黒猫を連れていることに驚き、そして「黒の魔導士」だと祭り立てた。

 国の成り立ちに関わっているのは「竜宮の巫女」と「黒の魔導士」……だったっけ……。

 そんなに大きな存在なのか……?


「……出来る限りの事はする……でも僕には記憶がなくてーー、」

「関係ありません!」

「っ……?」


 普段の、とは言ってもここ数日で知り合ったばかりだけど。それでも僕の中にある印象とは随分違った様子で噛み付いてくるエミリアに若干押される。

 大きな瞳が僕を捉えてのがさなかった。


「アカリ様は……記憶がなくとも……私の黒の魔導士様です……。……それは変わりません……」


 顔に影が差した。

 そして今になって気付かされる。

 エミリアもきっと不安だったんだ。自分の置かれている状況に。

 エシリヤさんが国のことを思うように、エミリアもこの国のことを大切に思っている。

 だから彼女自身「竜宮の巫女」になることを拒みはしないし、逃げもしない。

 でも……いくら異世界の、王国の姫さまであっても年は僕と変わらない。もしかするともっと幼いかもしれない。

 そんな子供が命を狙われ続ける生活に不安を覚えないわけがないんだーー。


「……お互い様か……」


 どうあったって人は自分以上の存在にはなれない。

 無理したって自分は自分だ、背伸びしようがそう背丈は変わらない。できることは変わらない。

 ……なら、できることを増やすしかない。成長するか、誰かの手を借りるかーー。


「わかったよ。肝が座った。ーー僕は君の魔導士サマだ」

「……!!! はいっ!」


 隣でクー様が嬉しそうに鳴いた。

 結梨はなんだか不服そうに口を尖らせつつも蹴飛ばしてはこなかった。

 たぶんこれでいい、これでーー、



「 ……!? 」



 と青空を仰いだ瞬間、空中で何かが弾かれ、小さく「バチンッ」と音を立てて四散した。

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