◯ 6 魔導少女は近接戦闘の夢をみる その8
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「もーすこしゆっくりいこーよー……、……ねぇーったらぁー……」
「日が暮れる」
「はぁ……」
山を……登っていた。
山というか、殆どがけじゃないかってぐらい険しい岩肌を結梨戦闘にエミリア、クー様、僕の順番でよっこらせどっこらせと登っていた。
「大丈夫ですか……アカリ様……? やはり荷物は私が……」
「いやいや、ボディーガードなんだからこれぐらい僕が持つよ……」
エミリアは儀式の為の正装だそうで白の、まるでシスターみたいな服にマントを巻いている。
両脇にスリットが入っていて歩く分は問題なさそうだけど、「神聖な儀式」なのに鍋やら食糧やらを詰め込んだリュック(と呼ぶにはふくれあがっている)を背負わせるのはプライドが許さなかった。無論、ファンタジー世界に対する憧れからくるプライドだ。
「できる限りのことはさせてもらう……」
というか正直楽勝だと思ってた。運動神経は向こうの世界にいた頃の比じゃないし、体力も無尽蔵に湧き上がってくるもんだと。
しかし、どれだけ強い体でも限界はあるらしい。
自分の体積の何倍もある荷物を背負っての登山は確実に僕の体力を奪いーー、
「あ〜っ!! もうダメだ……!! 少し休もう……」
膝を折った。
手頃な岩に座り込み首を垂れるとバカみたいに広がった青空が視界いっぱいに広がっていた。
「……異世界だなぁ……」
なんて言ってみたけど、多分どこの世界も山に登れば同じ景色なんだろう。
なんとなく向こうの世界が恋しくなった。特に思い残すこともない気がするけど。
「なにしてんのよ」
猫の運動神経を駆使すれば山登りなんて楽勝らしく、ひょいひょいと降りてきた結梨が向かい側の岩に飛び乗って不機嫌を露わにする。
「休憩」
「まだ先は長いわよ」
「急いだところで仕方ないじゃん」
「休んだところで先には進めないわよ」
「あー……空がキレーだなぁー……」
前に進まなきゃいけないことはわかってる。けど流石に疲れた。
なによりも「いつ襲われるかわからない」という緊張感が無駄に精神を削り取っていた。
「ハァ……」
心配そうにこちらを眺めているエミリアのそばには小さな青色の球体が浮いている。
人魂のように見えるそれは風に吹かれて右に左に揺らぎつつも彼女の元を離れない。
ーー大天使の守護領域。
自動迎撃型の防御魔法で発動している限りは一定の範囲に飛び込んできた「物質」を防いでくれる。
不測の事態に備えて起動しておいたけどそれでも気は休まらなかった。
「思ったより疲れるなぁ……」
「山登りが?」
「違うよ……」
どうしてユーリは結梨でこんなに気楽なんだろうと不思議に思う。
人の命が掛かってんのになんでいつも通りにできるかなぁ……?
大胆不敵というか、怖いもの知らずなのは昔からだけどそういう性格を羨ましくも恨めしい。
少しぐらいそういう所を分けて欲しいもんだ。
「見習いたいとは思えないけど……」
「独り言多いね」
うっせーよ。
ささくれだった気持ちはエミリアにも伝わっているらしく、落ち着きを無くさせてることに申し訳なくは感じる。
でも心とは裏腹に気持ちは棘が刺さる一方だ。




