◯ 6 魔導少女は近接戦闘の夢をみる その4
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会議とは名ばかりでどうやらアルベルトさんとエシリヤさんが話し会い、それに対しての確認をエミリアに行っただけのようだった。
しきりに昨日のアルベルトさんとの戦いについて聞いてくる衛兵さんの質問を適当にかわしつつ、通された部屋は応接間だった。
とは言っても僕の知る限りではこれを「応接間」と呼ぶにはあまりにも広すぎるし、会議室と呼んでも差し支えない規模だ。大きな円卓を囲むように装飾は最低限に抑えつつも「お高いんでしょう?」とか聴きたくなるような椅子が周りを囲んでいる。
エミリアはその一番端、城下町をみおろせる窓際に腰掛け、アルベルトさんは壁際に、エシリヤさんは妹の側に立ちつつも窓から外を眺めながら僕らを出迎えた。
「街はいかがでしたか?」
「言うほど出歩いてませんよ」
和やかに首をかしげるエシリヤさんに返しつつ部屋に入る。
後ろで案内してくれた衛兵が「まっ、また後で!」と小声で言い、げんなりした。
どうやら元王国騎士団長(王国騎士団騎士団長だっけか?)に一撃を入れた「女の子」の話題は一夜のうちに城中に出回り、ちょっとした有名人になっているらしい。鬱陶しいったらありゃしない。ミーハーなアイドルファンか。
「エミリアの周辺警護は大丈夫なんだろうな……」
「私が付いております故」
「……ああ……はい……」
考えが言葉に出ていた。アルベルトさんの視線が痛い。
「ごめんなさい……私のことなど気にかけて頂いて……」
「いや、気になってるのはこの国の兵士さんの方なんだけど……」
「……姫さま」
「ええ……」
言ってから何やら空気が重くなるのを感じた。……なに、そんなに深刻なの、この王国騎士の練度って。
「言っておきますが、私は反対ですよ」
「もう決めたことです」
「しかし……、」
ごちゃごちゃと何か言い合いを始める二人。多分僕らが街を歩いてる時もこんな感じだったんだろう。
居心地が悪そうに身じろぐエミリアを見ていると何だか可哀想になった。
「……揉めるなら廊下に出てていいかな……?」
そこのエミリアも一緒に。
「アルベルト、貴方の責任でもありますのよ?」
「……ええ」
何だか凄く嫌な予感がした。
結梨が自分勝手に外に出てくれでもすればそれを理由に抜け出せるんだけど、何でか乗り気だ。
完全に話をの先を促してる。
「はぁ……」
「アカリ様」
「なんでしょう……?」
「エミリアと共に神竜の祠へ行ってもらえませんか? 儀式を中断することに視野に入れました。……しかし、先延ばしにしたところで火種は消えませぬ。……どうか、エミリアをーー、……妹を、お護りください」
ぺこりと、優雅に頭を下げ、……その後ろのアルベルトさんも「どうか」とお辞儀した。
「って言われてもなぁ……」
護衛なんてどうすればいいのかわからない。確かに泉では助けに入ったけど、あんなものは脊髄反射で「これから先、ずっと周辺に気を配り続けろ」なんて言われても出来ると思えない。
相手が叫びながら襲いかかってくるってなら対処のしようもあるけど、敵の姿が見えなのだ。暗殺しに来ている相手に、飛び道具はもとより、魔法なんて超常的な力で襲ってくる相手に対抗しろと言われても困る。
「確かにお世話になったし力になれるならなるけど……こういうことってやっぱ専門家にーー、」
断ろうと思い、口に出したところで不安げに見つめる瞳と目があった。
水晶のように透き通ったそれは落ち着いてこそいるものの静かに揺れて、そりゃ、命を狙われてるんだ、仕方ない……。
「……守りきれるとは言えないぞ」
「……はい」
エシリヤさんへの回答ではなく、エミリアへの確認だった。
いま僕は異世界に飛ばされて、「黒の魔導士」とか勘違いされる女の子の体になってはいるけど「知識はただの高校生レベル」だ。本気で殺し合いをしている人たちに勝てると思えない。
「死ぬかもしれないんだぞ」
「わかってます」
「分かってない」
「わかっております! それでもアカリ様を信じているのです」
何を。出会ってまもない相手の何をそこまで信用するんだよ。
「ハァ……」
わかってる、怖がってるのばエミリアじゃない……。
……僕だ。




