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◯ 6 魔導少女は近接戦闘の夢をみる その3

 なんというか、バツの悪さといったらとんでもなかった。

 リストラにあった父親を公園で見かけるのってこういう気分なんだろーなーってなんとなく思った。


「え……ええっと……、そっか。任務続きで疲れてるから体を休めよ……的な?」


 そうじゃないことはなんとなくランバルトの顔を見ていれば分かるのだけどストレートに答えるには勇気が足りなかった。

 どうよユーリ……、コミュ症なりに気は使えるんだぜ……?


「当たり前よね。昨日のアレだって燈がいなきゃ大怪我してただろうし、お姫様の護衛っていうなら執事さんで十分じゃない」


 自分の言葉が相手に通じないのをいいことに結梨は言いたい放題だった。

 一方、多分聞こえてないんだろうけどなんとなく態度で察したのか大きな肩はぷるぷる震え、


「……笑うか、貴様……」

「へ……?」

「こんな俺を笑うのかっ……!?」


 大の大人が大通りで涙目になりながら拳を振り上げた。


「笑うのか貴様ッ……!!」

「いや!!? そんなつもりは全然ないよ!?」


 実年齢でも僕より年上のいい男の人が、涙目になるところを初めて見た。

 それも屈強な兵士がだ。多少のことではメンタルは揺らぎそうもないというのは勝手な先入観で、思えばエミリアを助けた僕を露骨に敵対視してたし、男はいつまでたっても少年というぐらいだから仕方がないといえば仕方ないのかもしれないけど……。


 ーーそれにしちゃぁ……情けないだろ……。

 仮にもお姫様の護衛を任されていた人間がこのあり様とは……。


「……いや、元王国騎士団長さんもあんなんだったしな……」

「あんなんとはなんだ! あんなんとは!? アルベルト様を侮辱するのか貴様!!」

「してないしキャラ変わりすぎだろ!? なんなんだよあんたは!!」

「ぐっ……」


 ……ぐっじゃねーよ、ぐっじゃ……。

 まるで子供だ。見た所、二十代も半ばかもしかすると後半に差し掛かるぐらいの年齢なのにまるで年下を相手にしてるみたいだ。まだエミリアの方が聞きわけが良かったぞ……。


「ふんっ……多少魔術が使えるからといって調子にのるなよ……。そこの獣もっ……! 黒の神獣だとエシリヤお嬢様はおっしゃるが俺は認めていないからな!!」


 認めるも何も黒の神獣とは無関係だと思うんだ。多分。仮に結梨とそれが混ざった生き物なんだとしても、だからどうしたって感じだし。

 どっちにせよ突っ掛かられても良い迷惑なんだよなぁ……。

 なんとなく僕の考えてることが伝わっているんだろう、結梨が「どうにかしなさいよ」と睨み付けてくる。

 全然僕らは悪くないのに謝るのは何か癪だし、むしろ火に油を注ぐようなもんだろ。それは。


 ーープライドを傷付けちゃった……ねぇ……?


 なんとなく、結梨の所属していた剣道部のことを思い出す。

 結梨の退部をかけて「結梨の代わりに」決闘をさせられて、……ああ、良いや、なんていうか……めんどくさい。

「好きにしろよ」

 こんな異世界にきてまで人間関係で苦い思いなんて遠慮こうむる。

 そんなものはあっちの世界に置いてこさせてくれ。


「アンタがどう思おうが助けてくれって言われれば助けるだけし、言われなきゃそれはそれで何もしないよ。ーーあくまでも部外者だからな、僕らは」

「…………」


 言葉の意味を値踏みするかのように目をほそめるランバルト。

 何を推し量っているのかは知らないけど特に何も出てこないぞっと。

 本気で面倒なことには関わりたくないって思ってんだから。


「ふん……言われなくとも貴様の力など頼りはしない」

「あっそ」


 変に泣き絡まれるよりかは突っぱねられてた方がマシってもんだ。

 勝手に嫌われる分は全然問題ない。いちいち「構ってくれ」と言われるのが厄介なんだ。

 元から話はなかったんだけど区切りがついたところで踵を返す。生憎「お互い暇なら一緒に回りませんか?」なんて言葉は微塵も浮かんでこなかった。

 そもそも、なんで結梨はこんな奴に構おうとしたんだよ……。

 疑問を投げかけようにも店の屋根先にひょいっと飛び乗り、先を行く後ろ姿はそれを拒んでいた。

 気分屋にもほどがある。仕方なく僕も後に続く。相変わらず散歩の主導権は僕にはなかった。

 ……どっちが飼い主だとかは思わないけどさ。


「おい、魔導士」

「ぁー……?」


 一瞬誰のことを呼んでいるのかわからなかったけど、その「嫌味の込め方」でなんとなく僕のことだと振り返る。他の人に向かってあんなカンにさわる言い方したら王国騎士団の恥だぞ。


「これは『俺たちの問題だ』。……余計なマネはしてくれるなよ」

「……へいへい、わーってるよ」


 だから関わるつもりはないって言ってんだろ。

 しつこい男は嫌われるぞ、いくら色男でも。

 ……嫌われるよね……? たぶん。……ちょっと自信ないかも。


「あかり」

「ん?」


 気分屋の幼馴染が僕を見下ろし、不機嫌そうに首で指差していた。


「お迎えよ」


 人混みの中にこちらを探しているであろう衛兵の姿を見つける。

 どうやらエシリヤさんたちの「会議」が終わったようだ。


「クレープはまた今度だね」

「どうせこの体じゃ食べられないわよ」


 足止めを食った原因に皮肉の一つでも言ってやろうかとランバルトに向き直った時には既にその姿はなかった。

 衛兵が僕らを見つけ笑顔で近づいてくる。


「……あれぐらい人当たりが良かったらなー……」


 それはそれで不気味だったろうに。

 それでももう少しは仲良くなれたんじゃないかと思った。


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