◯ 6 魔導少女は近接戦闘の夢をみる
「でっ……ででで……きっついなぁこれ……」
「床でなんか寝るからじゃない」
「……」
目が覚めたら床の上に転がっていた。
誰かがベットに運んでくれたらしいのだけど、どうにも「誰かに」蹴落とされたらしい。
「ねぇ、ユーリ、ユーリってさぁ……」
「何よ」
「……いえ、なんでもありません」
誰のせいでそうなったかといえばどちらも悪くない話なのでなんとも言えない。黙って相変わらず猫の姿のままの結梨の後ろを付いて歩く。
なんとなくその後ろ姿に昨日のアレが重なって首を横に振って追い払う。
そんなことを考えているのがバレたら引っ掻かれかねない。
「……」
鋭い目で睨まれ、既にバレていることに視線をそらす。
「一応……反省はしてるわよ」
「……そりゃどーも……」
フォローしようにも言葉が見当たらないので適当に濁す。
お互い踏み込まないほうがいいだろう。
部屋の魔法陣はメイドさんか誰かが消してくれたのか、ひっくり返った時に散らかした家具なども元に戻されていた。
あとはもう2人の問題なんだ。忘れよう、うん。忘れてしまおう。
「しっかしまぁ……相変わらずすんごい人混みだね」
朝食を済ませるとエシリヤさんやエミリアは昨日の一件について話があるとかで部屋に篭ってしまったので僕らは城下町に降りてきていた。昼頃には遣いを寄越すとか言ってたからそれまではぶらぶらしてみるつもりだった。
昨日はあんまり見て回れなかったし。
念のため身分を隠した方がいいと言われフード付きのローブを被ってはいるけど服は相変わらず結梨の制服だ。
いろんな国から人が集まってきているのか、さほど見られることもないけどそれでも珍しい服装なのか時折突き刺さる視線がむずがゆい。
女の子達は常にこの視線に晒されているのかと思うと、邪険に扱われるのも仕方がないかとも思えた。
舐め回すような視線は案外気がつくものだ。
「ねぇ、クレープ屋さんどこか覚えてる?」
「いやいや、食べる気ですか」
僕の悩みをよそに結梨は私欲に走っていた。ぷんすか機嫌を損ねられるよりかは全然いいけどいいのか。猫だぞ。
なんとなく大通りを歩いてれば見つけられそうな気もするけどさ……。
「……ほら、昨日みたいに元に戻れば食べられるじゃない」
「え、街中で?」
「……!!!」
「いっ……?!」
全身の毛を逆立てた猫を見たのは初めてだった。
流石は黒の神獣と呼ばれるだけある。全身の細胞が危険だと叫んでいる。
ーーって言うか完全に地雷を踏み抜いた。忘れると言いながら脳裏に刻まれた有利の後ろ姿はいまもこうしてくっきりとーー、
「なに?!」
「お……覚えてない……覚えてないからっ……! 昨日色々ありすぎて頭の中パンパンだったから……!!」
「……本当に?」
「本当に……」
「嘘じゃない?」
「嘘じゃない……」
「……」
「…………」
「……ふんっ……」
キッと睨んで前に向き直った結梨は尻尾を揺らす。
機嫌の悪さはいつも通りだけど、猫になってからやっぱりその棘が鋭い気がする……。見た目の問題って大きいと思う。
「元に戻る……かぁ……」
ぼんやりと月明かりに浮かぶ結梨の
「なによ」
「……なんでもありませんっ」
こいつはエスパーかっ……!
「もう最悪っ……」
「んぁっ?」
機嫌を取れということなのか、それとも歩き疲れたのかひょいっと腕に前足を引っかけて僕の体を登ると肩に飛び乗ってくる。頭に体を預け、まるで肘掛け代わりだ。それで落ち着いたのか小言もなくなったから僕ものんびり足を進めた。
「……ごめん」
「……別に気にしてないからいいわよ。……気にしてるけど」
どっちだよ、とは突っ込まない。
言い分ももっともだし。




