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◯ 5 幼馴染と過ごす一夜 その2

「結局さ、僕らの体が変化したのか魂が飛ばされたのかはさておき。全部の元凶って間違いなくあの魔道書じゃん?」

「つまりアンタが悪いと」

「何でそうなるんだよ」


 魔道書に書かれていた魔法陣は全て試したけどどれも発動しなかった。

 だけど、あの表紙カバーの裏に書かれていた魔法陣に関しては「別物」だった。

 魔導士(魔法使い?)ではない僕が描いた魔法陣は発動しないのが当たり前だったとして、あの魔法陣を描いたのが本業の方だとしたら「それが発動した」のは必然とも言える。


「自動車は作れなくてもエンジンは掛けられるでしょ? そういう感じ」

「ふーん……」


 だとしても、それがあのときまでずっと発動せずに残されていたというのも信じられないんだけど。

 基本的に魔法陣っていうのは「一度使えば消えるもの」らしいから。ガソリンが燃えて気化するみたいに。


「じゃあそれをもう一回書きなさいよ。『今はあんたが』黒の魔導士なんでしょ?」

「……それはそうなんだけど……」


 問題はそこだ。

 実際、僕は魔導士さまって呼ばれるものになってるらしくて「幾つかの魔法を使うことができた」んだけど……。


「……覚えてないんだよね、あの魔法陣」

「……はぁ!!?」

「当たり前だろ!? あの一瞬で全部覚えられるわけないじゃん!!」


 飛ばされた時に魔道書はどっかに消えちゃったし……あの森のどっかにあるのかもしれないけど、あるとしたら泉の底……? でも仮に見つけたとしても「一度使われた魔法陣は消えている」から参考にはならないわけで……。


「……そんな目で見ないでよ……一応記憶を元に書いてみるからさ……」

「……ええ……」


 頷いてはくれたけど明らかに期待されてない。

 仕方ないもんな、学力テスト。下から数えた方が早いし……、いつも結梨に泣き付いて(シゴかれて)ギリギリ赤点間逃れていたようなもんだし……。


「……えーと……確か……こんな感じ……?」


 広い場所を選んで床に指で曲線を描く。

 なんとか記憶をたぐろうとするけれど浮かんでくるのはその後の衝撃的な「転移」と水にドボン!なわけで。


「うーん……」


 エミリアが水浴びをしている姿やアルベルトさんの強烈な一撃がこみ上げてきてはそれを邪魔する。


「だーっ!!! やっぱり色々ありすぎだよ今日は!!!」


 結果、唸りながら書き上げたものは「何かそれっぽいけどそうじゃない何か」だった。


「……なんか違う気がする」

「うん……わかってる……」


 結梨にすらバレてしまうレベルだ。

 魔法陣の仕組みというか、成り立ちみたいなものはなんとなく知識として分かってるんだけどやっぱりアレは特殊すぎた。料理のレシピ本に突然原子爆弾の作り方が載っているようなもんだ。無茶振りも良いとこだと思う。


「でもこの世界で魔法が使えたってことはあの本はこの世界の物なんだよ。実際、エミリアも魔法を使って見せたし……、だったら何処かに元の世界に戻る手がかりもあると思う」

「……そうね……、……ただ問題として『黒の魔導士』って『伝承になってるレベル』なんでしょう? ……残ってると思う? そんな大昔のもの」

「た……たぶんっ……」

「はぁ……」


 もう諦めたのか投げやりなのか結梨はスタスタと魔法陣から離れて行ってしまう。


「何処行くんだよー」

「そこで唸っていても仕方ないでしょ? なら明日に備えてもう寝ましょう?」

「それもそっか」


 生憎、体はともかく精神的には結構疲れていた。

 当たり前だ、飛ばされたのが現実世界の放課後。で、森から街に移動して何やかんやあって……。


「……下手したら徹夜してることになるんじゃないか……?」


 どおりで頭も回らないわけだ。

 眠ることが必要なのは体じゃなくて脳だって言われてるぐらいだし、1日にあったことを眠ることで整理する必要はあるだろう。


「……」

「?」


 とベットに向かおうとして窓際で固まっている結梨に気がついた。


「なに、どうかした?」

「……ベット。1つしかないけどどうする……?」

「どうするってそりゃぁ……、」

「もし燈さえよければーー、」

「ーーーー、」


 結梨が尻尾をペタペタと振りながらこちらを振り返った。

 そして、それと同時に雲に隠れていた月が姿を現し「一糸纏わぬ猫山結梨の後ろ姿」を浮かび上がらせるーー、


「……はっ……?」

「へっ……?!」


 僕の視線に気がついたのかそれとも自分の視線が高くなったことで気がついたのか、自分が素っ裸で立っていることに気がつき次の瞬間、


「きゃぁあああああああああああ!!!!!」



 「人間の結梨」は悲鳴をあげた。



「どっ、どうかしましたか!!?」



 悲鳴を聞きつけたらしいエシリヤさんとエミリア、そしてアルベルトが駆け付けた時、



「あ……あはは……し、尻尾を踏んじゃったんです……」

「……はぁ……?」



 僕は部屋の隅にひっくり返り、「猫の姿に戻った結梨は」布団の中で小さくなってシクシク泣いていた。

 ……本当に、ロクでもない1日だった……。

 そのまま意識を失うように僕は眠りに落ちた。



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