◯ 4 女の子のお風呂タイムです その3
「……その国民総出で大切にしてるエミリアが狙われたってのは一大事じゃないんですか? お風呂になんて入ってる場合じゃないんじゃ」
「そうですわね。確かにそうかもしれませんわねぇ……?」
「……?」
昼間のことを思い出したのか当の本人は暗い顔を見せたが、その姉であるエミリアさんはどこか余裕すら浮かべていた。
まるで「慣れっこだ」とでも言いたげだ。
鼻歌でも歌いそうなほどに軽く、真剣な顔をしている僕の方がおかしいとでもいいたげに首を傾げて告げる。
「浮き足立って慌てたところで事態は変わりませんもの。神域とはいえ、事態が事態ですから恐らくアルベルトが兵を調査に向かわせていると思いますわ? ……ふふっ、あれでいて元騎士団長なのですからご安心くださいな」
「はぁ……?」
任せろというのなら任せるし深入りする筋合いはないんだけど、そういうものなんだろうか。
それ相応に警備は厳重だろうから流石に城の中まで踏み込んでくるとは思えないし、そこまで心配する必要もない……のか……? まぁ……今の所、変な覗きは現れてないしな。
「……なんだよ」
「別に」
視線を感じて聞いてみたけど帰ってきたのは冷たい返答だけだった。
相変わらず有利のご機嫌は斜めらしい。風呂につかって気持ちもとき解されてくれればいいのに。
「そうですわね……。アカリ様はいざという時にお力になって頂ければ心強いですわ? 何と言っても、あの『憤怒の騎士』に一泡吹かせたのですから」
「ふんぬ……?」
なんとなく浮かんだのはエシリヤさんのお付きの兵士、……なんだっけあいつ。
「ランバルトじゃなくてアルベルトの方ね」
「あ、それそれ」
流石結梨、痒いところに手が届くっ!
「…………」
その考えすらも読まれているのか冷たい目で返される。
なんだかこっちにきてからより一層態度が悪くなってる気がするぞ……? 見た目が猫だからかな……。
「私たちが落ち着いていられるのも、アカリ様がいらっしゃるからなんですよ?」
「期待されても困るけどな……」
この世界に詳しくもなければ情勢すら把握できてない。
多少戦えるようだけどそれでも一介の男子校生だぞ。正直、ああいった危ないことが次起きたとして「僕が必ず守ります」とは言えない。それこそアルベルトさんに任せるしかないだろうし……。
「……そんな不安そうなお顔をなさらないでください。大丈夫、記憶が戻るまではどうぞご滞在くださいな」
「ええ……どうも……?」
なにやら勘違いされてしまっているけど元からそれが始まりだったりするわけで。
もくもくと立ち込める湯気をぼんやり見上げながら、なんとなくこの先起きるかもしれない「何か」を僕は不安に思わずにいられなかった。
……黒の魔導士って一体なんなんだよ……。
回転しない頭に少しのぼせたのを自覚した。




