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◯ 4 女の子のお風呂タイムです

「ふぁーっ……生き返りますわー……?」

「…………」


 一通り身体カラダをいいように弄ばれ、意気消沈のままに湯船に沈んでいた。

 ぶくぶくと泡を浮かばせながら一人モヤモヤとして気持ちにやり場に困る。


「アカリ様……? 湯加減はいかがです……?」

「悪くない……」

「よかったっ」


 エミリアは無邪気に笑っているが一応僕は男だ。

 こんな状況で、こんなカラダで、こんな風に風呂に入っているけどれっきとした男だ……!!

 ーーなのになんで僕が気を使わなきゃいけないんだよ……!!!


「どうかされまして?」

「いえ……」


 大きすぎる胸はお湯に浮かぶって聞いたことがあるけど本当だった。

 いや、目のやり場に困る。タオルでも巻いてくれればまた違うかもしれないけどーー……、や、それはそれで強調されて困るか。……兎にも角にもジロジロ見るわけにもいかず、かと言って好奇心から見てしまおうとするのも抑えられず僕は、


「ぶっ」


 お湯に浸かった。

 顔から、頭まで、全身すべてをお湯に沈め、

 ……沈め、

 ……沈め……?


「ぶはっ!!!?」


 死ぬわ!!!!


「……あ」


 飛び上がり、頭を押し付けていた『それ』の正体を見つめて今度は固まった。

 あらまぁ、なんてエシリヤさんが小さくこぼすのが聞こえつつも僕は動けずにいた。


「……ゆ……ゆーり……」

「…………」


 表情筋が引きつるとはこのことを言うのだろう。

 対照的に表情筋を一切使わず無表情でこちらを見つめる結梨は冷めた目をしていて、刻一刻と流れ続ける時間は永遠のように感じられた。


「……あ……あの……? ゆ……ゆーり……さん……?」


 怒ってる。たぶん物凄く怒ってる。

 脱衣所に置き去りにしたから? いや、中庭に置き去りにしたからか……!?

 いつからいなくなったかも定かじゃない。完全にアルベルトさんとの一件以降、意識の外側に置き去りだった。


「…………」


 本気で怒っている相手を前にした時、無言ほど怖いものはない。

 暴力に物を言わせてくるなら自分の身を守るためにあれこれ動くことができる。

 また、言葉で圧倒しようとしてくるのであればとにかく頷いて聞いてやればいい……!

 でも『これは』違う。無言……! 無言の圧力……!! 「いま私が何に対して怒っているのかを自分で考えて謝りなさい」という無茶振りの難題……!! もしも答えを間違おうものなら相手の怒りを理解していないこととなり、怒りに油を注ぐハメになる。


「ぁ、あ……あー……」


 ダラダラと汗が流れるのは暑さのせいじゃない。湯気が体にまとわりついて、流れ落ちているわけでもない。

 ただ純粋に、ただ真剣に結梨の怒りの源泉を辿り、答えを導き出すが為に頭をフル回転させた結果でありーー、故に、決して、


「あかり」

「はいっ……?!」


 静かな、それでいてドスの効いたどうやったらそんな声が出せるんだってくらい重い一言がドシンと頭のてっぺんから貫いて来た。まるで重力魔法……!! グラビティ系の魔法でも発動させてるんじゃないかって錯覚に陥りかける……!!


「何考えてるの?」

「い、いえ……別に……」

「あっそ」

「ゆっ、ユーリぃ……!!!」


 スタスタとお風呂の淵を歩いていく結梨を必死に追いかける。

 ザバザバとお湯が溢れるけれど知ったこっちゃない……! 変にヘソを曲げた結梨は後々厄介なんだ……!!


「あらあら」


 何がそんなに楽しいのかエシリヤさんは観戦モードで、エミリアはわたわたと僕たちを止めようとしては戸惑っていた。


「あっアカリ様っ……! ユーリさまっ……!! そんなっはしたないですよ……!?」

「んなこと言ったってユーリが!!」

「ふんっ」


 流石は猫の敏捷性。捕まえようと腕を伸ばしたところでひょいっと飛び越えて反対側へと逃げられてしまった。

 もともとすばしっこいところはあったけど、体がハマるとすげー威力だなっ……。感心してる場合じゃないけどッ……、


「いい加減にしろって!!」

「何をよ?」

「ぬぁっ!?」


 挙げ句の果てに僕の方が足を滑らせて盛大に水柱を立ち上らせるハメになる。

 正直顔が痛い。


「……おいてったのは謝るからさ……ごめんって……」

「……」


 おとなしく頭を下げてみるけど無言は続く。

 ちらっと様子をうかがってみると白々しい目がこちらを見つめていた。


「なんでだよ!! 謝ったじゃん!!」

「分かってない!! あんた何もわかってない!!」

「何がだよ!!!」

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