◯ 3 少女に腹パンする紳士 その4
「……一撃……で、いいんですよね」
「ええ、一撃で」
その一撃で打ちのめされてしまいそうなのは置いといて、一撃入れればいいのならまぐれでもカウンターでもなんでもいいわけで、とにかくさっさと片付けてしまおうと必殺先手必勝、
「あっ! 怪しげなドラゴン!」
「なんですと!?」
適当な空を指差して全力で地面を蹴った。
気を取られている隙に一気に距離を詰め、膝での飛び蹴りをーー、
「ふほっ」
楽しそうに笑いながら躱された。挙げ句「同じ戦法を被せてくるなど洒落ていますねぇ」とか言いながらまた顔面を狙って拳が返ってくる。
「ぐおっ?!」
女の子の顔狙うってそれどーなのよ!?
首を倒してかわしながら着地するとそのまま距離をピタリと詰められ、インファイトに縺れ込む。
「はっ、ほっ、うォっ!?」
次々飛んでくるそれをかわしつつ、千鳥足になりながらよろよろと後退。状況をどうにかしようと距離を離そうとするけれど、ボクサーのようにピタリと体を寄せられてどうにも逃げきれない。
苦し紛れにハイキック入れてみるけれど難なくしゃがんで交わされ「下着はお付けになった方がよろしいかと」と紳士的に忠告までされてしまった。
「洗濯中なんですよ!!!」
っと、そのまま反対の足で踵落とし。
面白いように体は反応してくれるのでまるで格ゲーみたいに動ける。
……それでも、元王国戦士長のアルベルトさんは捉えきれない。
「……騎士団長だっけか……?」
「元王国騎士団騎士団長です」
「うへぁ……」
躱された踵の上に跳躍したアルベルトさんが浮いていた。
その体勢からどうすればそうなるのか大外回りの蹴りが飛んできて後ろに反りながら躱し、後ろに反ってバク転(ーーって初めてできたスゲェ!?)するとすぐ目の前に拳が迫ってきていて思わず両腕を前に出してそれを受ける。
「つッ、デッ、だッ!?」
次々打ち込まれるそれを必死にさばきつつ隙を伺うけど体の捌き方がうますぎて捉えきれない。
結梨のじーさんとやりあってる時にみたいに一方的に打ち込まれ続け、
「意識が散ってますよ」
「はッ……、」
ガードを大きく崩され、次の一撃をどうにか防ごうと腕を前に引き戻した所でアルベルトさんの姿が一瞬沈んだ。
「ぐァっ……??!」
防具もつけていない腹部への衝撃ってのは慣れてない。
突き上げるような一撃を喰らって意識が飛びかける。
体がその勢いに突き抜かれ爪先が宙に浮いて「ッ……!!」必死の所で奥歯を噛み締めて後ろに横滑りしながら体勢を整えた。
「はっ……はっ……はっ……」
幸いにも追撃はなく、元王国騎士団騎士団長は手袋具合を確かめている。
「一撃……入ったけどまだ続けるのか……?」
「貴方様はまだ一撃もお入れになっていないではないですか」
あざ笑うかのような冷静な煽り。クールなフリして完全に面倒くさい武闘家タイプだこの人……!
「んっにゃろぉ……」
こうなったら何が何でも一撃入れて終わらせてやる……! ていうか、一撃入れないと終わらないらしいし、なんなら一撃入れられないとこのまま不審者として私刑続行……。
「……てい!!」
ダメ元で掴んだ土を投げつけて目くらまし。
「いえいえ」
当然ながらパシッと一刀の元に弾かれてしまった。……うーん……。
長物を用意すればワンチャン有るかもしれないけど剣の戦いになれば騎士団長さんの方が実践は上だろうし、このまま徒手空拳でどうにかするしかないだろう。
「エシリヤさーんっ! この人の苦手なものとかってないんですかー!?」
「アルベルトは甘いものが苦手ですよー」
「おほほ、先代国王が甘いもの好きでそれに付き合わされたトラウマがございましてね……」
……あー……、何かわかるなその気持ち……。甘いものが嫌いなわけじゃないけど、甘いものをひたすら食べさせられるとちょっと辛いよねー……。
攻略法を探ろうとした結果、心通じる部分を見つけてしまいどうにもならない。
こうなりゃヤケでーー、
「……突っ込んだところで意味はなさそうだから、」
頭の中でパラパラとページを捲る。うまくいくかはわからないけど、もし「この体が」魔導書に書かれている魔法を使うことができるのだとしたら、
「なぁ、ハンデがあるとはいえ大人と子供だ。素手で元騎士様に勝てるとは思わないからさ、殺さない程度にこっちはこっちの武器を使ってもいいかな」
もしもダメだと言われても使うしかないんだけど。
「ええ構いませんとも。なんなら殺すつもりで掛っておいでなさい。ーー私は、最初から『殺る』つもりですよ?」
「嘘つけ」
「おほほ」
刹那、アルベルトさんの姿が消えた。
ザッ、と斜め後ろの地を蹴る音が聞こえ、反射的に体を倒すと目でその拳を追う。
「乱舞する(ダンシング)ーー、」
頭の中に浮かんでいるのはこれまでなんども夢見てきた魔法陣。
「雷竜の牙!(スネークバイト!)」
突き出された腕に絡みつくようにして一つの小さな魔法陣が収縮し、そこから一対の蛇を模した雷が襲い来る。
「ほうっ」
アルベルトさんは即座に腕を引き抜き、バチバチと音をたてるそれから距離をとる。ーーが、その体を追うように俺は腕を振るい、
「アインッ、ツヴァイ、ドライ、フィーア!」
次々と空中に魔法陣が展開されていき、逃げる体を突くようにして雷撃の蛇(鎖)が打ち出されていく。
「フンス、ゼクス、ズィーベンッ、アッハト!!」
暗がりに落ち込み始めていた景色を雷鳴とともに現れる稲妻が照らし上げ、地を抉る。
「クッソ……」
「ふほほっ」
でも、それでもアルベルトさんの体は捉えきれない。
舞う稲妻を交わすようにステップを踏み、こちらが打ち出して追っているはずなのに距離を詰めてこられるせいで後ろに飛び下がりながら次々と腕を振るわなくてはならなくなる。
「爪!(クロウ!)」
左腕も振るい、一気に雷撃の数を増やす。
辺り一面が魔法陣の発する青白い光によって照らされ、次の瞬間には幾つもの雷撃がそれを切り裂いて召喚された。
「幾千の戦場で幾万の兵に囲まれていたとお思いですかっ」
雷の檻とも言える空間を駆け抜けながら距離を詰めてきた元王国騎士団団長は不敵に笑う。
「ぬるいぬるいっ」
勝利を確信し、右腕を引き下げ、それをがら空きになってしまった俺の腹に向けて撃ち抜く。
「はっ!」
撃ち抜く。
「ッ……」
撃ち抜くッーー!?
咄嗟にガードに下げた腕は間に合わず、ただ、撃ち抜かれた。
僕を、
アルベルトさんの拳が、
体を突き抜かんばかりの勢いで、
僕の体を貫いていた。




