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◯ 3 少女に腹パンする紳士 その2

「お疲れさま」

「いえ?」


 一通り挨拶を済ませ歩いてきたエシリヤさんに声をかける。すると変わらない笑顔が返ってきた。

 その顔には微塵も疲れなど浮かんでおらず、優しげに微笑んでいる。


「いつもこんな風に?」

「城の外を出歩くことは滅多にありませんが、声をかけられて逃げるほうがおかしな話でしょう?」

「まぁ……確かに……」


 でもあそこまで対応するのも異常じゃないのかな……。

 なんとなく選挙カーで手を振る政治家を思い浮かべて比べるもんじゃないなとかき消す。

 比べるもんでもないだろうーー。


「行くぞ」

「ああ、おう」


 町の人たちに見送られながら(とは言っても、歩く先々で「姫様!」という声には出くわしていちいち足を止めることにはなったが)ランバルトに連れられて城へと向かい始める。

 良い加減面倒に感じてきたところで顔色一つ変えないエシリヤさんに言葉も出ない。

 そう歳も変わらないのに立派なもんだ。

 生まれそだった環境でこうも違いが出るのかと結梨をチラ見したら思いっきり睨まれた。

 多分同じことを考えてたんだろう。ーー比べるな、か。

 比べるほどのものでもないとは思うけどね……。

 お姫様と幼馴染。基礎スペックが違いすぎるだろう。

 幼馴染補正でもなけりゃ勝負にならないーー。


「ん……?」


 ようやく見えてきた城のそばに人影が見えた。

 いわゆる門番って奴かと思ったがどうも違うらしい。


「エシリヤお嬢様、エミリアお嬢様」


 その影はこちらの姿を捉えるなり、スタスタと近づいてきた。


「ご無事で何よりです」

「ただいま、アルベルト?」


 アルベルトと呼ばれた初老の男性は燕尾服を身に纏い、完全に執事さんだ。


「事情は伺っております」


 ういういしくお辞儀をし、僕たちに頭をさげる。


「え、ええっと……」


 どう答えていいのかわらずちらりとランバルトを見ると鼻で笑われた。

 わかった、恐らく何処かのタイミングで城に連絡を入れていたんだ。無駄に有能なのがなんかむかつくな……。


「アカリ様」

「はいっ……?!」


 助けをよこしてくれないランバルトを睨んでいると唐突に名前を呼ばれ、体が跳ねた。


「な……なんでしょうか……?」


 すっと細められた目の奥で鋭い光がこちらを見つめていた。

 思わず飲まれそうになり、結梨が頭から肩に乗り移った所で気持ちを入れ直す。


「先刻は姫様をお助けいただき心から感謝いたします。……話によれば記憶がなく、泊まる場所もないままに手がかりを探しているとかなんとか……」


「ええ……まぁ……はい……?」


 心の中まで差し込んでくるかのような視線に自然と声は硬くなり、挙動もぎこちなくなった。

 完全にカツアゲされかけている中学生だ。

 それを知ってか知らずか、アルベルトさんは深くシワの刻まれた顔で朗らかな笑みを浮かべ、もてあそぶように告げる。


「手合わせ、願えますか?」

「……はい……?」


 ゆっくりお辞儀をするその姿に僕は、


「あ……は……はァ……?」


 ただただ呆然と見つめ返すことしかできなかったーー。


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