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短編集

私とあなたの時間が重なる時

作者: 月宮 柊

タイトル詐欺かもしれないです(笑)


今の時代ネットを使えばワンクリックで大抵の欲しいものが手に入る、何て便利なのだろう。私はスマートフォンの画面を見ながら思う。

私はとある本がどうしても読みたかった。しかし、その本はもう絶版になっている少し古い本だったため近くの古本屋に行って探しても見つからずネットに頼るしか方法がなかった。中古品だが状態の良いものが多く、その上安い、どこまで客に優しいのか。


「これでよしっと……」


注文確定ボタンをクリックしてスマートフォンの電源を切る、探しているものが見つかって満足した。

届くのが待ち遠しい、早く読みたい、私の欲は止まるところを知らなかった。



数日経って学校から家に帰ると私の勉強机に小さな箱が置いてあった。注文の品が届いたらしい。

私は鞄を下ろすと制服も脱がずに箱から本を取り出す。まあまあ綺麗な状態の本を早速開く。


「ん?何これ?」


何か紙のようなものが本に張り付いていた。


「……刑務所?」


その紙には間違いなく刑務所の名前と人の名字が印刷されていた。ありふれた名字、聞いたことのない刑務所の名前。

何だか少し怖かった。刑務所と書かれているだけで脅迫状でも殺害予告でもないただの紙なのに何故だか怖かった。

でも、何だかそれにも何かの縁を感じている自分もいた。


「神奈川県、か」


私の住んでいるところとは離れた場所が記されていた。

この人はいったいどんな人なのだろう。女性なのか男性なのか。若者かお年寄りか。

この人は何の罪を犯したのだろう。

この本を読んで何を感じたのだろう。

どうしてこの本を読もうと思ったのだろう。

疑問は尽きない。会ったことも顔すら見たこともない人をこんなに気になったのは初めてだった。


「……変なの」


私は本からその紙を取り外した。軽くのり付けされていたのだろう、剥がすときに表紙の紙が少しだけ持っていかれた。

その紙は捨てようとしたけど何だかもったいない気もして机の引き出しに仕舞っておく。

多分、一生会うこともないし、話すこともない、きっとその人は私のことを知ることもない、私もその人のことを知ることもない。

ただ、この本を読んだことだけは私だけが知っている。



この本を読んでいるときだけは私とその人の時間は重なるのだ。








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― 新着の感想 ―
[一言] ああっ何かいい話ですね!
2015/11/16 19:31 退会済み
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