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08 小規模パーティのリーダーが無理矢理複数パーティを指揮してみる

 おい待て、何だこれ……。

 もしかしてアレか? 俺が天才的なアイデアを出して下階に潜んでいるであろう大小様々なバケモノを駆逐し、学校を暫定的なキャンプ地にしなきゃいけない流れか?

 無茶も休み休み言ってくれと俺は言いたい。


「そう言われてもだな……」


 名前も知らないようなクラスの皆さんが「無理言ってゴメンネ」と引き下がってくれるのを期待したが、それこそ無理だった。

 察そうぜ、そういうのは?

 俺はここでは地味眼鏡の宮沢さんであり、固定ファンが大勢いる『BB』のYamatoじゃあないんだ。


 というかみんな、ネトゲくらいやっておけよと。

 ネトゲっつーのは、当たり前だがキャラクターの向こうに自分と同じ人間がいる。そいつらとコミュニケーションを取りながら冒険していくゲームだ。


 だから、現実社会の縮図と言っても別段大げさじゃない。パーティ組んだら話を聞かない奴がいる。ギルドに所属すれば、絶対に一人は気の合わない奴がいる。持ち物を借りパクする奴とかな。

 ギリギリの戦いでうまく仲間と連携して目標を達成できれば、震えるほどうれしい。冒険を続ける内に恋仲になって結婚するのみならず、リアルでも夫婦になる奴もいる。

 そうかと思えば、痴情のもつれで相手がストーカーに豹変し、キャラデリにまで追い込まれるなんてのもよく聞く。バージョンアップ前に一儲けを企み買い占めた素材が実際はゴミ同然になり、ドン底に陥ることもある。およそリアルで起こり得ることは何でも起こるんだ。

 つまり、ネトゲではリアルの予行演習が可能なのだ。しかも、どんなに失敗しようとリアルには一切響かない――プレイヤーの中の人を公言していればまた別だが。


 それともう一つ。

 ネトゲのやり過ぎか知らないが、俺は最近、どうもリアルのほうが非現実的な気がしてならない。何と言うか、一歩引いて自分を見ている感じなのだ。むしろリアルのほうがアバターというか。

 だからクラスがパニックを起こしたときにも冷静でいられたのだと思う。


 まったく勝手なものだ。

 普段はネトゲをしていると言ったとたんに「キモい」「廃人」「オタク」などと蔑むくせに、いざとなったら手のひらを返すとか、もう……。


「それじゃあ、俺の言うことに疑問を挟まず従えるか?」

「も、もちろんだ」


 オーケイ、それなら俺も腹を括ろう。

 というかナビ女やクラスメイツやらが総出で足止めしてくるんで、もうどうあがいても無事に脱出できる気がしない。もう詰みだ、詰み。

 明日の朝日を拝みたいと思ったら、もはや一か八かの賭けに出るしかない。

 成功すれば、ここで明日の朝日を拝めるだろう。失敗すれば、最初の街から一歩も出ることなくジ・エンドだ。もちろんコンティニューはない。


「まず、他の学年やクラスとコンタクトを取ってくれ。ただし、誰も教室から出るな」

「じゃアタシ、部の連絡用ラインで呼びかけてみるわ」

「自分は1-Aの弟とさっきから連絡取り合ってる」

「この階の突き当りの3-Dなんだけどさ、さっきから繋がらないんだよねー。なんかあったのかな?」

「やっぱ先生反応ないわー……」


 各自が連絡網を活かして、それぞれのクラスの無事を確かめ合う。ネットがまだ生きていてくれて、本当によかった。

 俺はそこらに落ちていたノートを開いて表を作り、どの学年のどのクラスとコンタクトが可能なのか、逆に不可能なのか書き込んでいく。

 それから連絡可能なクラスに対しては、点呼をとって生存確認をしてもらった。


 その結果見えてきたのは、一階は残念ながら完全な沈黙。

 二階は校舎両端の二クラスのみ生存者アリ。

 ここ、三階は全クラスとコンタクトが可能という状況だ。

 ここまでは、負傷者及び死者――うかつに教室の外に出てバケモノの餌食になったらしい――の数も把握できた。


 問題は、上の四階だ。家庭科室や音楽室、図書室などが集まっている階で、常時生徒や教師がいるわけではない。

 試験期間なので、恐らく誰もいないと思うが、万が一ということもある。これは確認しなければならないだろう。それも、言い出しっぺである俺自身が。


「次に、机を一箇所に集めて島を作ってくれ。椅子はいらない。他のクラスも同じようにするよう、伝えてくれ」


 連絡が行き渡ると、今となってはひどく懐かしく感じる、掃除の時間みたいな音が、隣のクラスからも聞こえてきた。

 机や椅子をガーガー引きずる、あの音だ。

 ほどなくして、教室の中央には四十ほどの机が形成する大きな島が完成した。

 掃除音が止んで、他のクラスも準備が完了したことを確認。


「ライターかマッチ持ってる奴はいるか? これも、他のクラスに聞いてくれ」

「ハイハイ。はみだしっ子の標準装備あるぜ。用途は聞いてくれるな」


 なるほど、ウチのクラスにははみだしっ子が多いらしい。一つで事足りるんだが、提供者が四人も現れた。


「2-A、火がないそうです」

「同じく、2-Dも」


 生存者の少ない二階の二クラスか。


「持っていそうな奴の……その、遺体からも回収できないのか?」


 今まであえて言わなかったが、いつまでも現実から目を背けてはいられない。

 要するに俺は、死者の懐をまさぐってでも火を手に入れろと言ったのだ。


「2-A、ライター確保」

「2-Dは手に入らないみたいだ。もともとクラスにタバコ吸うようなやつがいなかったらしい」

「そうか……。仕方ない、とりあえず全員、机の上に乗ってくれ。以降は、俺がいいと言うまで誰も降りるな」


 みんな素直に机の上に乗った。ケガの程度が酷いクラスメイトは、別の奴が手を貸して上がらせている。

 最後。テレビの下敷きになっている奴やつに、全員の視線が注がれた。

 衛生兵が近寄っていって脈を取り、首筋を触ったり鼻先を触ったり、あっかんべーをさせたりしてから、厳粛な顔つきで首を横に振った。


「それじゃあ、スプリンクラーを作動させる。コンビニ袋かなんかで電話を守れ。袋のない奴は、誰かの袋に一緒に入れさせてもらえ。ライター係」

「おう!」

「あの火災報知機の下で火をつけろ。他のクラスにも連絡」

「よっしゃ!」


 名も無き――と言うよりも、名前も知らない男子生徒が着火したライターを恭しく捧げ持つ。

 まるで、聖火でも手にしているかに見える。

 それがある距離まで火災報知機に近づいたところで――廊下の非常ベルがけたたましく鳴りだした。

 女子の何人かが顔をひきつらせ、耳を塞ぐ。

 それからほどなくして、教室に人工の雨が降り注いだ。

 俺も含め、全員が濡鼠になる。だが、クラスの誰も文句を言わなかった。


 ただ、文句を言う奴はいた。

 下の階から、屁と金管楽器のハイブリッドみたいな音が轟いてくる。

 バケモノはどうやらご不満のようだ。

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