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07 ただ、時間だけが過ぎてゆく……

「この状況でよくそんなこと言えるわね。ダメよ抜け駆けなんて」


 ああ……ナビ女はアレか、面倒くさい系女子か。できればあまり関わりたくない、クラス委員とか生徒会役員に率先してなりたがるタイプだ。


「抜け駆けじゃない。こうなった以上、教師が避難誘導してくれるはずがないことくらい、わかるだろ?」

「でも」

「各自が自分の頭で考えて行動するターンだ。俺はいち早く自分のパーティを作ったが、他の奴も勝手に組んで脱出するなり校内探検をするなりすればいい」


 だから抜け駆けなんかじゃない。俺の言っていることは間違っているだろうか?


「でも、みんなそれができないから困ってるんだよ。それを放っておいて自分だけ助かって、それでいいの?」

「自分だけ助かるかなんて、俺だってわからない。学校から一歩出たとたんにバケモノに襲われてジ・エンド。校内残留が正解ルートでした……ということもあり得る」

「だったら――」

「だが俺は、このままここに居座ることのほうが危険だと判断した。だから脱出計画したんだ。他の奴らもそれぞれ判断して、残るなり脱出するなりすればいいだろ。自分だけ助かろうなんて、思っていない」


 俺は思ったことをそのまま口にした。

 するとナビ女、あろうことか目をうるませやがったのだ。

 なるほど、そう来るか。


「できる人はいいよ。でも、みんながみんなそうじゃないの! みんなわけがわからなくて、痛くて、不安で、どうしたらいいかわからないんだよ!」

「茜、落ち着きなって。今そんなに消耗してどうすんの」


 黒帯が落ち着かせようとするが、ナビ女が今にも涙がこぼれ落ちそうな目を俺から離すことはなかった。

 どアホウ、と言いたいところを寸前で飲み込む代わりに、大きなため息をつく。

 ワンクッション必要だった。言葉の暴力を振るわないためには。


「俺に何がわかるって言うんだ? 最初の揺れが何だったのか、廊下で女生徒を轢き殺したのは何だったのか、今の爆発が何で、都心を徘徊しているデカブツが何なのか、まるでわからんぞ? 幸いケガはたいしたことないが、俺だって不安だ。早く帰りたい。妹が無事なのか不安で気が狂いそうだ。どうするのが正解なのか、わかる奴がいるなら教えてほしい。でもそんな奴はいないだろ? だから決めるんだよ、自分で」


 都合が悪くなるとすぐ涙に訴えようとするのは、卑怯というより悪辣だ。

 涙を錦の御旗にして要求を通そうとするなんて、テロリストと変わらねえよ。

 ついでに、軽々しく「みんな」という単語を使って、自分の意見が世の中の総意ですみたいな顔をするのも気に入らない。

 とりあえず、正論かどうかは置いていおいて、思ったことをつらつらと語り終えると、ナビ女は何も言い返してこなくなった。


 ふと我に返って見回せば、生死の境をさまよっていてそれどころではない極少数を除き、クラスのほぼ全員が俺とナビ女の――なんだ、口論じゃないし、ディベート? を無言で見守っている。

 おいおい、恥ずかしいじゃないか……。でも、こっちのゴタゴタに気を取られて一時的にでもケガの痛みを忘れられているなら、まあ無駄ではなかったのだろう。


「わかった……じゃあ……」


 パーティの離脱宣言か?

 さもありなん。たまにいるんだ。狩場やボス前についてから作戦に口出ししてきて、「そういうことならちょっと自分じゃお役に立てそうもないんで、抜けますね」といって離脱していく奴が。

 ポリシーがあるのは構わん。打ち合わせに意見を出してくれるのも大歓迎だ。ただ、土壇場で抜けられると残りのメンバーとしては補充もままならず、時間を無駄にしただけで解散するほかない。


 ナビ役をもう一人、募らなければダメか。

 そう思ったとき、ナビ女が再度口を開いた。


「――ください」

「……なんだって?」


 爆音で鼓膜が無茶させられたせいか、よく聞こえなかった。

 だがもしかして俺、何かお願いされている?


「なんとかしてください。私たちが心置きなく脱出できるように、目の届く範囲――ここだけでいいから、なんとかして!」

「おい――」

「確かに、それはいいかもです隊長ッ!」


 いい加減にしてくれ、と言いかけたとき、衛生兵が乳をユッサユッサさせながらカットインしてきた。


「動かせない負傷者もいるので、ここを拠点にできればイチバンですッ! 近くの病院から先生呼んだりもできるし、それがすぐにはムリだとしても、保健室まで行ければもう少しマシな手当ができるハズですッ! 家庭科室が使えれば、お湯も使えますしッ!」


 簡単に言ってくれるぜ。

 お前だって見ただろう、衛生兵よ。廊下にみっちみちにつまったあのバケモノを。ホウキとモップが最強装備のこの状況で、あれにどう立ち向かえと言うんだ? 装備レベルが足りなすぎだろうが。


「宮沢、おれからも頼む」


 ぬう。

 誰だかわからんが、クラスの男子生徒まで俺を拝みだしたぞ。

 いや、それはいいから自分の腕の止血をしろよ。


「この事態が起きたとき、真っ先に手を講じて動こうとしたのはおまえだよな。爆発のとき、机で身を守れって言ってくれたのもおまえだ。あれがなかったら、たぶんクラスはもっと酷いことになってた」

「そうだよ! みんな頭が真っ白になって身動き取れなかったとき、おまえだけはやるべきことを判断して動けたんだ。とにかくこの学校だけでも安全地帯だと思えるようにしてくれよ。指示を出してくれれば、なんだってするから。そうだろみんな?」


 別の男子生徒の呼びかけに、思ったより多く賛同の声が返ってきた。

 マジか……俺たちが皆殺しになる前に、あの電車みたいなバケモノを倒す作戦を立てろとか。

 これがゲームなら、急用を思い出してログアウトするシチュエーションだぞ?


 俺はうんともすんとも言わなかったが、オールレンジから期待の眼差しが突き刺さるのを感じた。

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