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59 ある程度のレベルからソロ不可能になるのはよくあること

 俺と五人のパーティメンバーは、しばらく呆然と虚空を見つめていた。

 一秒前までナビ女――と生徒会長がいたはずの、その場所を。


「いい加減、シャキッとしな!」


 いち早く状況を把握したのは料理番だった。


 俺がハッとして、頑固な鼻づまりが通ったような感覚を味わったとき、みぞおちにキツい一撃が入る。

 声にならないうめき声をもらしつつ見れば、そこにはやや険しい顔つきの巴御前が。

 いきなり腹パンかよ。普通ビンタくらいから始めないか?

 いや、巴御前はきっと、今の不甲斐ない俺を叱ってくれているんだろう。


「すまん」


 今まで起こったこと、そして今からしなければならないこと。頭ではわかっている。

 だから、そう。もう大丈夫だ。


「ヤツを追う。そしてナビ女を奪還する」

「そう来なくちゃね」


 黒帯の明るい声と共に、背中を馬鹿力で叩かれた。

 景気づけにしては強すぎるその威力は、彼女の激励であると同時に、気を引き締めろというツッコミだ。

 俺はそれを、厳粛に受け止める。


「作戦を練ろう」




 図書室で副会長を捕まえ、これまでの経緯を説明した。

 その結果、さらなる混乱を招くことになる。


「たとえば、ですけど。会長と対立していた宮沢さんが屋上に呼び出して殺害した……ということも考えられますよね?」

「動機という意味では、否定はできないな。でも、ナビ女の存在まで消す必要はないだろう?」

「あなたが並木さんを常々うっとうしく感じていたのは、なんとなく感じていました。ついでに……ってことも、なきにしもあらずですね」

「そう言われてしまうと、返す言葉が思いつかないな」

「そこは否定してやるべきなんじゃないかねえ……」


 黒帯のフォローが入ったが、緊迫したムードは少しも揺らがなかった。


「とはいえ実際そうだとして、こちら側はあなたをどうこうできる立場ではありませんから」

「証拠もなしに犯人扱い二度目というのは、さすがにな」

「いえ、そうではなく。あなたの機嫌を損ねたら、私も会長の二の舞いになる恐れがあるという意味です」


 さすがに、いろいろとゴタゴタしすぎた。

 彼女が人間不信に陥ったとして、誰を責められようか。


「あなたの言ったことが真実だと証明されるまで、私はあなたに疑いの目を向けつつ従うことにします」

「ずいぶんハッキリ言うな」


 極めて不本意ながら、俺が恐怖政治を敷いているみたいな構図ができあがってしまった。

 それでも、ユカの嫌疑は取り下げてくれるというのだから、俺としてはこれ以上は望まなかった。

 副会長が生徒会長に繰り上がり、俺たちの終末世界生活は続行だ。


 俺はすぐにプチ子の部屋へパーティメンバーを伴って訪れた。

 窓の外にはノビ夫もいる。

 今後についての緊急会議だ。

 ユカの釈放と、おチビの埋葬という二つの大きなイベントを、俺はあえてパスした。

 これ以上感傷的になっているわけにはいかない。


「――というわけで、生徒会長はナビ女をさらって消えたわけだが、これについてノビ夫とプチ子の意見を聞かせてほしい」


 生徒会長の口ぶりからして、どこかに奴のホームグラウンドがあるのだろう。

 もしかすると、強力な魔物の支援を受けていたということも考えられる。

 だとすれば、その辺りの事情を知らなければならない。


「生徒会長さんの言ったことが真実なら、皆さんが生存しているのは偶然ではないのかもしれませんね」


 と答えたのはプチ子だ。

 彼女の言わんとすることがわからず首を傾げると、ノビ夫が補足してくれる。


「この辺りは、いわば掃き溜め。広大な領地を支配する王から逃れてきた魔物が、ごく僅かな土地を分割支配する場所。王は、この場所に在られたからこそ王たり得た」

「そう。魔界と地球が融合したとたん、力ある王に異物とみなされ、数十万、数百万単位でヒトが焼き払われた……そんな地域がほとんどだとプチ子は思います」


 どうやら俺は、井の中の蛙どころかミジンコ程度の存在だったらしい。

 そんな戦略兵器レベルの火力を持つ王に比べたら、俺の強さなど塵も同然だ。

 調子に乗ってケンカを売った相手のバックに国家権力がついていた――たとえとして妥当かどうかはよくわからないが、そんな構図が脳裏に浮かぶ。

 生徒会長と繋がっている王――便宜上、上司と呼ぶか。そいつが出てきたら、俺などサル山の大将も同然。死んだということにすら気づかない間に殺されるかもしれない。


「生徒会長がチクって上司がしゃしゃり出てきたら最後、俺たちはジ・エンドというわけか」


 苦くそうつぶやくと、プチ子は触覚をそよがせながら小首を傾げて見せた。


「しゃしゃり出てはこないハズですよ」

「どうしてそう言い切れる?」

「王が動けば、魔界の勢力図が変わります。領地の境では激しい戦いが巻き起こり、場合によっては王自身の手駒を大幅に失う恐れがあります。ですから王というものは、よほどのことがない限り領地を出たりはしないのです」

「……おお!」


 眼鏡の奥を輝かせつつ腰を浮かせかけた俺だが、続くノビ夫の言葉に再びイスに沈みこんだ。


「王配下の精鋭が単騎で乗り込んでくるということならば、あるいは」

「そいつも相当強いのだろう?」

「強さという点では、王に比べて格段に落ちるかと。ただ、耐久力についてはある程度以上に達すると頭打ちになりますゆえ」


 それを聞くやいなや、隣の黒帯が俺の手をガシッと力任せにつかんできた。とても痛い。


「そんなら集中砲火浴びせちまえば、うちらの弱小チームでもなんとかなるかもしれないよ!」

「なるほど、集中砲火か……」


 ネトゲでの大規模戦闘の様が脳裏に浮かんだ。

 通常は六人パーティで行動する『BB』だが、エンドコンテンツで強敵と挑む場合には、いくつものパーティが集まって百人に迫る規模の集団となり、作戦行動を行うことがある。

 その際、火力の花型となるのは魔道士のみで構成された魔法部隊だ。五人の魔道士と、一人のバッファーというパーティが複数集結し、一匹のモンスターに集中砲火を浴びせるのだ。

 敵の攻撃を引きつける壁役もいなければ、傷を癒やす回復役もいない、攻撃のみに特化したパーティ構成。

 リーダーの号令一下、同時に放たれた数多の攻撃魔法は、一秒にも満たぬ間に対象モンスターを溶かし尽くした。モンスターはポップ地点から一ミリも動かないまま倒されるから、壁も回復もいらないというわけだ。

 画面越しに見ていても爽快だったな……。


 あれを再現できれば、自分たちよりも強大な魔物に対抗できるのではないか?

 俺は改めて、この作戦会議に臨む面々の顔を順繰りに見回した。

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