表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/59

06 こんなことなら刑事ドラマや密着警察24時をよく見ておけばよかった

 ああもう……こいつぶっ殺していいかな?

 俺にはその力があるし。

 大事な大事な妹を貶めるようなこと言う奴、なにも生かしておいてやらなくてもいいよな。

 この世は力がすべてになったんだ。生殺与奪の権利は俺にある。

 俺が否と言うなら、残念だが生を諦めなければならない。


 棒立ちのまま左手に雷の力を集め――ようとして、寸前で思いとどまる。

 待て待て待て。

 何だ今の。

 俺はそんな考え方をするようにマイマザーに育てられていないぞ。

 もしかしてアレか、コレが力に呑まれるとか、そういうことなのか。


 俺は、よくいる魔王的存在が世界を破壊に導こうとする気持ちが、少しだけわかったような気がした。


 そして、それを丁寧に梱包して胸の内のさらに内側にしまい込み、ゆっくりと生徒会長に目を合わせた。


「心配しなくても、俺の妹がそんなことするはずがない。俺が犯人を見つけてやるさ」

「宮沢さんも犯人じゃない。そう思っていいのかな?」

「俺に気に入らないことがあるなら、学校ごと潰してる」

「……それもそうですね」


 こうして俺は、生徒会長とは別行動で捜査に乗り出すことになった。

 まずは真っ直ぐにナビ女のところへと向かう。

 認めたくないが、こういう状況では彼女の力が役立ちそうだと考えたからだ。


 俺のパーティ五人衆は、仲良く同じ教室で寝起きしているようだ。

 生徒会に駆り出されている衛生兵以外の全員が集合していた。


「宮沢……」

「本当に、何と言ったらいいか。あのおチビちゃんと、仲よかったもんなあ」


 ナビ女と黒帯が、気遣わしげに言って口をつぐんだ。

 巴御前と料理番も、目で「自分たちは味方だ」と訴えかけてくれているようで心強い。

 とはいえ、今の俺にとって一番の慰めは、犯人逮捕だ。

 俺は挨拶もそこそこに、本題を切り出した。


「ナビ女、お前には敵がどういうふうに見えているんだ? 今校舎の中に事件の犯人がいるとして、それを知覚できるか?」


 真正面から真剣に問いかけると、ナビ女は一瞬だけ目を泳がせて赤くなったが、一つうなずいてから落ち着いて応じてくれた。


「集中すると、建物の中ならその階の間取り図みたいなのが見えるの。外だと、ちょっと素っ気ないグーグルマップみたいな感じね。ちょっとずつ見える範囲が広がっているみたい。その中に、敵というか、魔物が赤い点で表示されるわ」

「なるほど」

「魔物以外は表示されないからわからないわね。この中の誰かに用があっても、探しまわらないといけないわけ。だから、犯人が校内にいても、わからないと思うわ」

「魔物が侵入したらわかるんだな?」

「そりゃもう。今でも三階に行けば、プチ子の赤い点だけは見えるわよ」


 そういえばあいつ、魔物だったな。


「たとえば、三階にプチ子以外に赤い点があったり、別の階にあったりということは?」

「そんなことがあったら一大事でしょ! すぐご注進に行くわよ」

「じゃあもし、自分が魔物であることを隠す能力を持つ魔物が侵入したとしたら?」

「え? え? なに、引っ掛け問題? ええと……わからないと思うわよ?」


 つまり……ナビ女の能力が今回の件にあまり役に立たないということがわかった。

 そして、実は結構あてにしていた俺は、いきなり壁にぶち当たった。

 俺に探偵技能的な能力さえあれば……。ないものねだりでクヨクヨしながら、鑑識係を任命された衛生兵のところへ向かってみる。


「何かわかったか?」


 理科室の机で何やら書き物をしている衛生兵に声をかけると、彼女はバッタみたいに立ち上がって敬礼を寄越した。


「ハイッ! いくつか不自然な点が見当たりましたッ!」

「聞こう」


 俺は、衛生兵の隣の椅子に腰を下ろした。

 教壇には、シーツに包まれた人型――おチビの遺体が安置されている。


「まず、凶器からは指紋が検出されませんでしたッ!」

「ま、想定の範囲内だな」

「凶器は肋骨の間から、心臓を探るように突き入れられていますッ! その後、凶器を左右にこじったような形跡がありましたッ!」

「傷口を広げて失血死を狙ったんだろうな」

「恐らく即死ではなかったと思いますが……」


 そこまで言って、衛生兵は口をつぐんだ。

 証拠が導く事実の中に、納得しきれていないことがあるようだ。


「何だ?」

「抵抗した形跡がないんですッ! 通常であれば、絶命するまでの間、死に物狂いで抵抗するはずッ! その際ッ、爪に何らかの痕跡があるか、逆に手足の自由を奪われた跡が残るのでは……」

「うん、爪はきれいだし、手足に痣もないな」

「ということは、おチビちゃんは仰向けのまま胸部を刺され、命がなくなるまで無抵抗でジッとしていたということにッ!」


 言われてみれば不自然か。

 たとえば、周りの生徒を人質にして「動いたらこいつを殺す」と脅されたとか?

 ――いや、自分がまさに殺されようとしているとき、理性的に犯人の言うことを聞けるかどうかは怪しい。

 それじゃあもっと単純に、何らかの手段で強制的に眠らされていたか、RPGで言う麻痺みたいな状態にさせられていたとか。

 まだこっちのがあり得そうだな。

 だとすれば、ステータス表を見直せば何かわかるかもしれない。犯人が正直に自分の技能を申告していれば、だが。


 四階の生徒会室に向かおうと腰を上げたとき、騒々しい足音が近づいてきて、理科室の扉が思い切り開け放たれた。

 目をやれば、出入口にいるのは黒帯。

 その表情は、いつになくこわばっていた。


「宮沢、落ち着いて聞くんだよ。妹さんが、地下に幽閉された」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ