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49 ネトゲじゃないからボス敵で堂々とパワーレベリングをしても叩かれない

 内骨格型不定形生物というのは、液体筋肉で骨を自在に操り攻撃してくる生物……かどうかはかなり怪しいが、そういう存在だと思って間違いないだろう。

 骨を縦方向につなげて、今の高さは校舎よりもあるんじゃなかろうか。まるでクレーンみたいだ。

 長く伸びたアームみたいなところに、唐突に目玉が出現して俺たちを見下ろしている。

 目が合った。

 前触れもなく、液体筋肉で連結された内骨格が、俺たちのいる地点に振り下ろされる。


「来るぞ、避けろ」


 黒帯と巴御前が左右に散会するのを視界の端にとらえつつ、俺はその場に踏みとどまる。

 振り上げたシャベルに、トラックの荷台くらいありそうな赤黒い塊が叩きつけられた。

 重いいいいぃぃぃ!

 俺の足がすねの辺りまで、コンクリートを突き破って沈みこんだ。さすがにこのままじゃ身動きが取れない。

 歯を食いしばりながら後ろを見れば……やっぱり、ナビ女と衛生兵は逃げ遅れているな。

 料理番は意外と距離を取れている。考えてみれば、彼女は範囲攻撃で結構な数のバケモノを倒しているし、もしかするとメンバーの中で一番レベル的なものが高いのかもしれない。


 だとすれば。


「料理番、弾幕だ」

「ふふん、任せな」


 ドヤ顔で俺の横を駆け抜けていく料理番。

 だが待ってほしい、お前、手ぶらじゃないか。

 お手製タマゴ爆弾なしでどう戦うつもりだ?


 料理番が腰に手をやると、そこにはカリスマ美容師が装備していそうなサイドポーチが。

 取り出したのは……俺の眼鏡がいつの間にか伊達眼鏡にすり替えられていたのでなければ、七味唐辛子の小ビンだ。

 慣れた手つきでフタを開け、内容物を右手に握りこみ、さらにバケモノへと距離を詰める。

 そして彼女の手から放たれた七種のスパイスは、空中で各々が火球へと姿を変え、読んで字のごとくの弾幕となって内骨格型不定形生物へと襲いかかった。

 もはや攻撃魔法に入念な事前準備は必要なく、スパイスという触媒のみで成し得るまでになったか料理番よ!

 このままいけば、いつか何も使わずに魔法をブッパできるようになるかもな。


 ひとつひとつはテニスボール大とはいえ、二百は下らないだろう数の火球がぶつけられ、さしものデカブツもたじろいだ。

 シャベルを押さえつける力が緩んだ隙に、俺はアームの下から抜けだした。

 見れば、サイドを駆け抜けていった黒帯と巴御前のコンビがバケモノの本体というか、胴体部分に取りついて大暴れしている。

 よし、いいぞ。

 パワーレベリングのチャンスだ!


 料理番のレベルはいい感じに上がっているので、物理前衛の黒帯か巴御前のどちらかにトドメを刺させ、一気に王クラスの戦力になってもらおう。

 それには、俺が間違って倒してしまわないよう力をセーブしながら、物理攻撃で倒せるまでダメージを与えなければならない。

 スパッと倒してしまうより面倒ではあるが、パーティの戦力も上げておかなければ、今後の計画にも差し障りが出る。


 バケモノが苛立たしげにアームを振り回した。

 得物としては、三節棍よりさらに節の多い、多節鞭の類が近いのかもしれない。


 ごぉん!


 コンテナサイズの多節鞭が校舎にぶち当たり、轟音と振動と降り注ぐ瓦礫がヤバい。

 見上げれば、もうもうと粉塵の舞う向こうで校舎の四階の角がごっそりなくなっていた。

 威力は申し分ないということか。当たるわけにはいかないな。


「宮沢、こいつ目が弱点っぽいわよ!」

「そうか、わかった」


 ナビ女、そんな技能まで習得していたか。

 地味に役立つスキルの宝庫ということは、今後も連れ歩かなければならないわけで……少し気が重い。


 次に振り下ろされた多節鞭は前もって回避し、ちょっと気持ち悪いがよじ登ってみる。

 予想していたよりもヌルヌルはしていないが、熱い。そして硬い。

 さっき見かけた目玉を探し、シャベルをストック代わりにして登山を開始する。

 内骨格型不定形生物は当然、振り落とそうとムチャクチャに多節鞭を振り回しだす。

 俺はその都度飛び降りて潰されないようにしたが、これは悪手だったか。

 周囲への被害が大きすぎる。このまま続けると、学校の半分がなくなってしまいそうだ。


 このバケモノのヘイト上昇条件はよくわからないが、今のところは俺をターゲットにしている。

 少し移動してもらおうか。

 俺はバケモノを挑発するような――つまり、自分がされたらイラつくであろう攻撃を繰り返しながら、校舎と反対の方向に進んでみる。

 二通りの捉え方ができる「人の嫌がることを進んでやる」という精神だ。

 狙い通り、奴は重々しいゴリゴリ音を轟かせながら校舎と逆方向に進み始めた。


 そして、黒帯と巴御前にすれ違いざま作戦を指示するのも忘れない。


「一個ずつでいい、こいつの骨を粉砕してくれ」

「合点承知!」


 言うが早いか、黒帯の跳び膝蹴りが近場の骨に叩きこまれ、酷い音がした。

 巴御前は一点集中攻撃に切り替え、モップを目にも留まらぬ速さで正確に繰り出す。

 ごめんな、巴御前。これ終わったら警察署か消防署に行って、さすまたかなんかもらってこよう。


 さて、いくら鈍い内骨格型不定形生物といえども、このへんになってくるとさすがに本体へのダメージを気にし始めた様子。

 俺への執拗な攻撃を止めて、まとわりつく二人にターゲットを切り替えようか迷っているようだ。

 おいおい、俺を無視するとか無礼なことしてくれるなよ?

 ナメたマネをしてくれるなら、この伝説のシャベルで目ン玉ほじくり出すぞ?

 舌打ちしながら、俺は次にどうやってバケモノのターゲットを奪い返すか考える。

 ま、手軽に注意を引くっていったら、アレしかないよな。

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