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47 王母妹友鶏鶏鶏鶏鶏鶏のパーティそろいましたので募集〆ます

 ユカの熱烈な歓迎を受け入れるため、俺は少し腰を落とし、両手を広げて待ち受けた。

 さあ、お兄ちゃんの胸に飛び込んでおいで。


 ユカは全力疾走で俺の手前の約二メートルほどの距離までくると、膝を曲げて体を沈ませた。

 お? 何だ?

 そう思っていると、愛しのシスター突然の跳躍。

 頭頂部を前にして、ライナー気味に突っ込んできた。

 かわいいつむじが迫ってくる。


「ぐほっ……」


 人間砲弾と化したユカの渾身の頭突きがみぞおちに入り、俺はひっくり返った。

 もちろん、妹がケガしないように、ちゃんと腕の中に収めてやりながらな。

 しかしユカよ、見事な攻撃だ。お兄ちゃん、このところ結構ヤバめの奴をガツンガツンしばいていたけれど、マウント取られた相手はお前が初めてだぞ。

 背中に羽背負って現れたときは天使かと思ったが、羽がなくてもやっぱり天使だな!


「来てくれたー! ホントに来てくれたんだね、お兄ちゃん! ユカねー、絶対来てくれるって信じてたけど、こんなに早いと思わなかった。ありがとう!」

「当たり前だろ。これ以上ユカと会うのが先延ばしになったら、お兄ちゃん寂しくて死んじゃうからな」

「お兄ちゃん、強かったねー! ゲームでも超スゴいけど、リアルナイトだからマジでツエーんだね! 悪いやつがソッコーで消えたよ! お兄ちゃんもしかして……覇王?」


 腹の上に馬乗りになってニコニコしているユカだったが、次第にその顔が曇っていく。

 まぶしいとさえ感じた笑顔が無表情になり、やがて負の感情を無理やり押さえつけるかのように歪んだ。


「おい、ユカ。どうした? どこか痛いのか?」


 ユカ、笑ってくれ。お前に泣かれると、お兄ちゃんはどうしたらいいのかわからなくなる。

 俺の胸の上でユカの小さな手が握りこぶしに固められ、ぶるぶると震え始めた。


「さっきのロボットみたいなやつが来てね、赤い光線をピカッてしたらね……ドカーンってなったの。気がついたら学校とか……お家とかなくなってて、みんなも……」

「もう、いいんだ。悲しいことは思い出さなくていいんだよ」

「ユカがトリさんにエサをあげたいって言ったから、お姉さんがね、取りに行ってくれたの。ユカから離れていったの、そのときにね……だからね、もしかしてユカのせいなのかなー?」


 かわいそうに……。

 そんな出来事があったから、ユカは小さな胸を痛めているのか。


「悪いのは、ロボットだ。ユカは何も悪くないし、お姉さんだって悪くない。誰だって、いつも一緒にいるわけにはいかないからな。お風呂やトイレはユカだって一人で行くだろ?」

「ん……行くー」

「今回は、たまたまお母さんが一緒にいて、助けることができた。それだけで充分すごいって、思えないか?」

「それだけで、いいの……?」

「ユカがこの酷い世界で生き抜いてこられたのは、エライ。お母さんも助けられたのは、もっとエライ!」


 ユカの柔らかな黒髪に手を入れて、くしゃくしゃと撫でてやる。

 彼女の大きな目に表面張力で張りついていた涙は、ギリギリのところで流れ出るのを踏みとどまった。

 への字に曲がっていた口が、少しずつ元通りになっていく。


「大和」


 聞き慣れた、とても懐かしい声に、俺は顔を上げた。

 お母さんだ。

 あの日の朝は、ひと言も口を利かずに家を出てゴメン。ハンバーグすごくおいしかったです。また作ってほしいけど、もうひき肉なんて手に入らないよな。

 いろいろな思いがこみ上げてきて、俺までが涙腺と壮絶なバトルを繰り広げる羽目になった。

 まったく、兄妹そろって何やっているんだか。


「ユカから生きてるって聞いてはいたけど、本当に無事だったのね」

「なんとか」


 でもやっぱり、本人を前にして思ったことをそのまま言えるはずもなく。

 努めて冷静に、いつもの俺で通した。

 だからか、マイマザーもハグを強要してきたりはせず、感慨深げに何度かうなずいたにとどまってくれた。


 それよりも聞きたいことがある。


「この鳥たちは何?」

「お母さん、鳥好きでしょう? 毎日かわいがってたら懐いちゃって。さっきもたまたまユカと二人で鶏小屋にいたから、運良く助かったのよ」


 コッコッコッコッ。

 ピヨピヨピヨピヨ。


 鶏が六羽、ヒヨコが九羽。

 卵も取れるだろうし、連れて帰るか。肉もな。

 鶏は訓練された兵隊みたいにマイマザーの後をついてくるから問題なさそうだ。ヒヨコはしばらく布袋かなんかの中で我慢してもらおう。


 そして俺たち四人は、甲冑みたいな魔物に消し飛ばされた多くの人たちの冥福を祈り、プチ子のダンジョンへ潜行した。

 最初は入るのを怖がっていたユカも、ここに住む虫さんたちはお兄ちゃんの友だちだと言い聞かせると、すぐに笑顔に戻った。

 俺はもちろん、ユカと手をつなぎ、彼女の歩調に合わせてゆっくりと歩く。

 行きよりも時間がかかりそうだが、歩き疲れたらおんぶなりだっこなりしてやればいい。

 幸いなことに邪魔者――ナビ女はマイマザーをターゲットにしている。


「あ、宮沢くんのお母様」


 なんて、お前どっから出したんだと言いたくなるようなぶりっ子声で挨拶をして以降、お互いの近況について報告し合っているようだ。

 すごいぞ。初対面のはずなのに、何でそう話が続くんだ? 台本でもあるのか?

 まあ、ナビ女がマイマザーのターゲットを引きつけてくれるのなら、俺は全力で妹の相手ができる。

 よしよし、いいぞナビ女。でもあんまり変なことを話すなよ?

 お前を屋上に呼び出したこととか、ビデオ鑑賞会のことは絶対に言うなよ?

 言いそうな雰囲気になったら即座に話題を変えられるように、俺は二人の会話に耳をそばだてつつユカとの会話を楽しみながら、地下道をゆく。

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