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42 消去法で選んだ物事はロクな結果にならない

 プチ子の処遇については、パーティメンバーとも相談しながら、以下の形で生徒会に提出することにした。

 基本は三階の一室――ドアが前後ともに無事な部屋は二階以下にはなかった――に軟禁。室内にも見張りを置くが基本的には窓からノビ夫が監視する。

 そうそうあってもらっては困るが、もしもまた敵襲などの事態に見舞われた場合は、ノビ夫と共に行動する。


 今日もひたすら忙しそうな生徒会の集う図書室に足を踏み入れたときには、最悪の場合「仲間を殺した敵の親玉を公開処刑に!」という展開になるかとさえ危ぶんだが、アッサリとOKが出た。

 下からの提案やら要望やらに忙殺されて、俺たちはもう勝手にしてくれくらいの勢いだ。ありがたいのでそうさせてもらうが。


 その直後、プチ子の存在は大歓迎されることになった。


「頭数が減ったから、校庭の農地化がなかなか進まない」

「そろそろ地下の片づけをしたいが、結構な勢いで水没していて無理ゲー」


 そんな要望というよりむしろ、苦情に近い訴えが生徒会に持ち込まれていたときのこと。

 まばたきすることもない真っ黒な眼でやり取りを見守っていたプチ子が、もしよければと控えめに進言したのだ。


(プチ子たちの兵力も充分とは言いがたいですが、多少でしたら手勢をお貸しすることができます)


 かくして、図書室中の人間の視線が、純白のカマキリ女王に注がれることとなる。

 すぐに一ダースの蟻人間がマンホールからやってきて、校庭と地下に分かれて作業を手伝い始めた。

 これで学校の件はひとまず、めでたしめでたしとなる。


 問題は、俺のことだ。

 屋上に地図帳と定規を持ち出し、広げて見る。

 現在地の中野から家のある勝どきまでは、直線距離で十キロちょいといったところ。

 地上ルートなら当たり前だが地図帳にも道が記載されているため、実際の距離や所要時間も何となく想像できる。


 俺は今回、プチ子の地下道を使って帰宅するつもりでいる。

 プチ子たちは地下に通っているあらゆるトンネルをぶち抜いて、現在も領土拡大中なのだとか。

 電車で言うと、最終的に地下鉄の大江戸線か有楽町線の通路に出たいが……。


 自慢ではないが、ネトゲで方向感覚は鍛えられているし、地図を読むのも得意なほうだ。

 パーティのリーダーが道に迷ってはぐれるなんて、回線引っこ抜きたくなるほど恥ずかしいことだからな。

 むしろメンバー内に迷子が出たら「みんなはここで待っていてください」と言い残し、颯爽と迎えに行くのがオートリーダースキル持ちのあるべき姿だ。だからそこらへんのプレイヤースキルは死ぬ気で鍛えた。


 だが実際問題、今の地下世界の地図はこの世のどこにも存在しない――ナビ女の頭の中を除いて。


「ナビ女か……」


 口に出してみると、苦い味がしてくる気がする。

 あの面倒くさい女に事情を説明し、同行してくれるよう頼む。

 ナビ女は恐らく断らないと思うが、理由は当然訪ねてくるだろうし、何よりそうなった場合、俺が疲れる。

 ……これは最終手段だ。


 考えなければならないことは、もう一つある。

 俺が――正確な所要時間はわからないが、まあ一日二日ここを離れる件について、みんなにどう説明するか。

 みんなここから動けないから学校にいるだけで、手段があるならすぐにでも家族の元へ帰りたいだろう。

 手段があると公表したらどうなるか……せっかくまとまっていた集団が、ものの見事に木っ端微塵になるんじゃないか。

 でもよくよく考えてみると、みんな家に帰るべきなのか……?


 ダメだ。一人で考えていると、わけがわからなくなってくる。

 そうかといって、俺に腹を割って話せる相手がいるはずもなく。


 俺は地図から顔を上げ、ついでに重い腰も上げた。

 とてもとても気が重い決断を、実行に移さなければならない。


 俺は二階に降りて、目的の人物を呼んでもらうよう当番に頼んだ。

 ちなみに女子階である二階と、男子階である三階は、基本的に異性は立ち入らない。各階がそれぞれの家のような扱いなので、中で着替えをしていたり全裸で廊下ダッシュしていたりする可能性があるためだ。


 一分も経たないうちに、指名した人物が現れた。


「な、なによ。急に呼びたしたりして……」


 大至急などと言ったつもりはないが、揺れる赤茶のポニーテールと弾む息で、ここまで駆けてきたのがわかる。

 言わずもがな、ナビ女だ。

 大変面倒くさいが、相談者をパーティメンバーから消去法で選出した結果、こうなってしまった。非常に遺憾である。


「ちょっと話がある。屋上まで付き合ってくれ」

「えっ……そ、そんなの困る……」


 急に酒でもかっ食らったかと思うほど真っ赤になって、ナビ女はモジモジし始めた。

 待て待て待て。


「そういうアレじゃない」

「そういうアレ……って、何よ! この変態!」


 うわーめんどくせー。

 何かもうどうでも良くなってきて、無言で背を向けて歩き出したら、ナビ女は黙ってついてきた。

 結果オーライだが、同時に激しく後悔している自分もいる。

 ナビ女と一対一で込み入った話をしなければならないなんて、ほとんど拷問に近いもんな……。

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