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41 >もしかして:誘拐

 謎のテレパシーっぽい声が後ろのほうから聞こえた気がしたので、俺はとりあえず振り返ってみる。

 等間隔に立ち並ぶ兵馬俑――そのうちの一つが動きを見せた。


 中央の一匹が、列を離れて俺たちのほうへと進み出てきた。

 俺たち六人が固唾を呑んで見守る前で立ち止まると、そいつは両手で自分の頭部を固定すると、そのまま上にぐいと持ち上げた。


「へぁっ!」


 料理番がウルトラマンみたいな悲鳴を上げて顔を背けた。セガールマニアで爆弾狂のウルトラマンって、お前キャラがゴチャゴチャしすぎだ。

 そういう俺も、セルフ首引っこ抜きなどというグロ展開は大変迷惑なので、思わず顔が引きつってしまう。


 ただありがたいことに、俺たちは首チョンパの目撃者にはならずに済んだ。

 触覚と複眼を備えた甲虫の頭部の下というか内側には、特徴的な逆三角形で純白の頭部に真っ黒な複眼、フワフワした触覚のついたカマキリのような顔があった。

 明らかに人間ではなく、どこからどう見ても虫なのだが……なんだかちょっとかわいい、ように思えなくもない。


(私達はこの種族そのもの、名を――)

「名乗らんでいい。お前はプチ子だ」


 テレパシーに被せるように、俺は一方的に宣言した。

 彼女の声がするたびに、目の前の白い虫の顎がカチカチと音を立てていた。

 モールス信号じゃあるまいし、声ではなくまさに発せられる音を俺が発音できるはずがないからな。


(わかりました。まずは地上の王に謝罪と弁明をさせていただきたく存じます)

「聞くだけ聞いてやるが、プチ子、お前はこの虫どもの王ということで間違いないか?」

(プチ子は、私達の王でございます。が、私達自身であるとも言えます。私達は、みなで一つ、その一つが王なのです)


 聞くほどにわからん。

 交渉するのも面倒になってきたとき、黒帯がフォローに入ってくれた。


「つまりプチ子さんたちは、群体って考えていいんだろうか?」

(そのとおりです。私達は)言いながらプチ子は、背後に並び立つ甲虫人間たちを前脚で示した。(プチ子の眼であり、手足であり、武器でもあるのです)

「……だってさ」


 なるほど、これまでの王たちとは少し毛色が違うということはわかった。

 しかし、だとすると……問題が出てくる。

 このプチ子をサクッと倒して俺が王権を主張したとしても、甲虫人間や蟻人間、大ダンゴムシどもが配下に下るということはないんじゃないかろうか?


「プチ子、答えろ。お前が死ぬとどうなるんだ? この虫ども一族郎党が全滅するのか?」

(王の予備が目覚めて引き継ぎますが……地上の王よ、プチ子はすでに命を差し出している。それはプチ子が総力を集結させても、地上の王に対抗し得ないことがわかっているから)

「そんなことはわかっている。こちらはお前に配下を何人かやられ、気が立っているんだ。わかるだろ?」


 相手が下手に出ているのをいいことに、俺は可能な限りゲスいセリフに表情を組み合わせた。

 こいつらの縄張りがどこまで広がっているのか知らないが、支配権を獲らないことには、地上のどこにいても安眠できない。

 それと、パーティメンバーな。俺が本気を出せば自分だけは死なずに済むだろうが、みんなを守れるかというと多分無理だと思う。

 だから、数で制圧できるとしても実行に移すのは悪手だぞと、釘を刺し続けなければならなかった。


(プチ子たちが塚を求めて地上に上がった際は、大変ご迷惑をおかけいたしました)

「本当にな。どう落とし前をつけてくれるんだ?」


 気分はもう、悪役だ。

 通常ならこういう言動は死亡フラグで、その後正義の味方にフルボッコにされるのがお約束だが……俺、大丈夫かな?


(プチ子の縄張りは、現在も拡大中。ここを自由に使っていただいて構いません)

「こんな日の差さない地下道のフリーパスをもらったところでなあ……。参考までに、どれくらい広いんだ?」

(この世界は、地下の横穴が多い。その続く限りはすでに)


 確かにそうか。

 下水道だけじゃなく、地面の下には水道管やらガス管やらが通っているし、地下鉄が縦横無尽に走っている。

 ということはつまり――家の最寄り駅には地下鉄が走っている。これを利用すれば、地上ルートで他の王の縄張りを横断するリスクを犯さず妹の元へと帰れる!


「いいだろう」


 俺は有頂天になって即決した。

 それから振り返ってナビ女に、こいつが王で本当に間違いないかどうかを確認した。群体とはいえ、替え玉だったら意味が無いからな。

 オッサン鳥の王と会敵したことのあるナビ女は、プチ子がそいつと同格であると断定した。


「じゃあプチ子、お前は人質として一緒に来い」

(えっ)


 テレパシーでも、「えっ」とか言うんだな。

 まあ、何とでも言い給えよ。俺は明日、家に帰る!


「プチ子は種族全体が一匹みたいなものだろう? だったらアタマがどこにいても指揮系統に問題はないはずだ。なーに、悪いようにはしないさ。それとも……」俺は可能な限りの悪人面を作り、物騒な笑みを浮かべて見せた。「聞き分けの良いプチ子が現れるまで、リセットし続けてもいいんだが」

(仰るとおりです。プチ子の身の安全を保証していただけるなら、共に参りましょう)


 いざとなればスペアがいるからか、虫どもの王プチ子は、異様なほどあっさりと要求を飲んだ。

 そういうことならこちらも、客分として丁重に扱ってやるべきだろう。でも、生徒会の連中には結構うるさいことを言われるだろうな。

 戻ってからの諸々について、ああでもないこうでもないと考えながら、俺たちは学校へと帰還した。

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