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31 最強なはずの俺に降りかかる、貞操の危機

 二階程度の高さから自由落下する俺の下には、オッサン鳥の王が不細工な口を全開にして待ち構えていた。

 念のため自分に空を飛ぶ能力があるかどうか試してみたが……ダメだ、空中では移動できない。

 今度からはジャンプする前によく考えよう。


 正直なところ、このままオッサン鳥の口の中に飛び込み、シャベルで内蔵をミンチにしてやる自信はある。

 だが、こいつにペロリされるくらいなら顔面からアスファルトに着地し、衛生兵の乳で挟まれながら癒やされたほうがマシだ。

 だってコイツの息、めちゃくちゃ臭いんだぞ? モロに真夏のゴミ集積所それだ。

 だから……そうだ、俺って魔法みたいなの使えたじゃないか。

 ここまで一秒で考えた。


 オッサン鳥の王の顔面スレスレで、雷をブッパ。

 乾いた爆発音がして、敵が仰け反る。俺も爆発の勢いを利用して三段目のジャンプ。

 着地しながら、骨に阻まれない柔らかそうな場所を狙おうと決める。

 胸は狙いやすいが、たしか鳥類の胸部は立派な骨があった気がする。

 クリスマスに鶏の丸焼きを切り分けたときのことを思い出してみよう。胸肉もすごかったよな。あれに邪魔されたら致命傷を与えられないかもしれない。


 面倒くさい、こうなったら顔を狙おう。


「うおぉぉぉおおあ!」


 オッサン鳥の王が突然ヤケを起こしたような声で吠えた。

 不穏なものを感じ、着地と同時に再跳躍して大きく距離を取る。

 さっきまで俺がいた場所に、無数の羽が突き立っていた。もちろん、アスファルトにぶっ刺さっているという意味だ。


 ふざけるなよ!

 そういう羽を使う技はな、ハーピーみたいな美女・美少女系モンスターが使うから許されるんだぞ。

 自分のツラと相談してスキルを使え!


 オッサン鳥の王は俺の雷にビビったのか、羽を雨あられと飛ばしてくる。

 おいおい、そんなに節操なく羽を消費したら、体まで丸ハゲになるけどいいのか?

 俺としては、敵がヌードになるまでひたすら回避してやってもよかったんだが、見たくないからな。

 慈悲の心で、さっさと殺ってしまうとしよう。


 驟雨のごとく降り注ぐ羽を右へ左へ避けながら接近すると、バケモノは空へ逃げようとする。

 そうはさせない。

 奴が離陸する直前に脚へ取りつき、巨体にシャベルをザクザク突き立てながらクライミング。


「おおおおい! おおおおおおおい!」


 鳴き声も、心なしか切羽詰まったような雰囲気になってきたな。

 喚け。怯えろ。恐怖に狂え。

 バケモノの首に体を固定し、シャベルを振り上げる。

 ハゲ散らかった頭部に、その鋭利な切先を突き立ててやることも俺にはできた。

 だが、踏みとどまった。

 認めたくはないんだが、俺の親父、毛が薄いんだ……。

 そうすると、色々と思うところがあってな。明日は我が身。そう思うと、なかなか無情にはなれないものだ。

 こうなってはもう抵抗できないオッサン鳥の王の目玉に、予定通りシャベルを埋め込んでいく。


「ぎょおおおおおおい!」


 高度がガクッと下がった。

 もともとほとんど上昇できていなかったため、すぐに胴体着陸し、そのまま道路をスライディング。

 俺はバケモノの眼窩をシャベルの支点にし、ぐるぐるとその奥をかき混ぜる。そのたびに足場でもある巨体がビクンビクン痙攣するので振り落とされそうになって危ない。

 バイクにバンにトラックに、ガンガン押しのけてようやく停止する頃、オッサン鳥の王が文字通り崩壊した。


 レベルは上がっただろうか?

 俺はシャベルを肩に担ぎ、パーティに合流すべく道を戻る。


 派手な爆発音に高笑い。料理番め楽しそうにしやがって……パーティに入れて良かったぞホント!

 吹き上がる炎をバックに、怪鳥音と共に飛び蹴りを繰り出すポニテのシルエット。黒帯、お前キャラだいぶ変わっているぞ。

 その下で、鮮やかな手さばきで優美にモップを振り回す巴御前。返す返すも装備がモップなのが残念でならない。

 三人がかりなら側近クラスは楽勝のようだな。


 そして少し離れたところに、ノビ夫が澄ました顔で――いつもだが――鎌首をもたげている。

 体型が何だかすごく……ツチノコみたいになっているな。側近その二を丸呑みしたのか、そうか。


「あ、隊長ーッ! おケガしてるじゃないですかーッ!」

「ちょっと掠った。治せるか?」

「はいッ! 生けるサルファ剤こと、このワタクシめが、治療させていただきますッ!」


 バリィッ!

 俺のカッターシャツのボタンが引きちぎられ、戦場に舞った。

 ――何が起こったのか理解するのに時間がかかる。

 気づくと俺は、衛生兵にシャツをむしり取られていた。向き合って突っ立ったまま。

 いやお前、ちょっと躊躇なさすぎだろう。

 俺のパーティには普通の奴はいないのか。

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