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30 戦場には、敵そっちのけで見るべきものもある

「な、なんか大きいの、来るっ!」


 ナビ女が黒々とした空を指差し、聞きようによっては微妙にエロく聞こえなくもないことを叫んだ。

 空の彼方から、おんおんと轟いてくる音がある。


「ぅおおおおおい! ぅおおおおおおい!」


 あれは……というかあれも、オッサンの声だ。

 ただこれまでのとは違いドスが効きまくっていて、オッサンの中の世紀末覇者かと思うほど迫力がある。

 当然、鼓膜にかかる圧がすごい。

 さっきの料理番のハリウッド式攻撃魔法でさんざん酷使された鼓膜にこれ以上無理をさせたくないので、俺はそっと耳を塞いだ。


 極力まばたきを控えて空を睨んでいると、あるときポツリと白い点が現れ、急速に大きくなっていった。

 それはすぐに、視界の大部分を占有するほどの大きさになった。車道の横に立っているビルの三階くらいのデカさだ。

 それに伴い、強い風が巻き起こった。硫黄の臭いがこれでもかとばかりに鼻腔へ押し入り、気分が悪いったらない。巻き上げられた小石やらコンクリート片に頬をビシビシ叩かれる。


「やだー!やーめーてー! スカートが脱げちゃうー!」


 ナビ女……。

 お前はどういうスカートの履き方をしているんだ。

 心の中でそうツッコミつつも、一応振り返って確かめてみる。いや、ホラ、本当に脱げていたら大変だからな。


 まあ実際には脱げているわけもなく、女子たちは各々、自らの意志に逆らって奔放に弄ばれるスカートの対処に追われていた。

 衛生兵は、前だけ押さえていて、後ろがノーガードだ。つまり、超翻っている。多分、後ろにいる料理番にはパンチラどころかパンツもろ出しになっているのではないか。

 その料理番はというと、スカートの左右を両手でぎゅっとつかんで頬をふくらませている。小柄な体格ということもあり、そうしているとちょっとかわいく見える。性格は怖いけどな。

 黒帯は潔く、スカートが風に翻弄されるに任せている。バッサバッサと豪快な音を立ててなびくスカートだが、めくれ上がることはない。不思議だ。

 巴御前よ……お前のスカートは一体どうなっている? 一人だけそよ風の中に突っ立っているみたいななびき方をしているが……。


 俺が一人でスカートの詳細レポートをしている間に、オッサン鳥の覇者みたいな奴が四車線の道路を飛行場代わりにして着陸してきた。

 すげえ、こいつ……ハゲてやがる。

 前座のオッサン鳥に比べてサル要素が薄まり、オッサン要素が激しく濃縮されている。俺の腕くらいのホクロ毛があるし。筋肉の付き方も鳥類には見えず、極めてマッシブ。ドムっぽい。こんなのが空を飛ぶなんて何か間違っている気がするので、例のごとく不思議な力が働いているんだろうな。


「こいつは俺の獲物だ」


 シャベルを突きつけ、パーティメンバーに釘を差しておいた。

 料理番ばかりに美味しい思いをさせるわけにはいかないからな。


「まだ二匹いるっ!」


 おお。

 珍しくナビ女が仕事をしてくれた。

 考えてみればそうだよな。俺のところの先王には、ノビ夫という側近がいた。サイズ的にこの縄張りの王であろうこいつに側近がいてもおかしくない。


「ノビ夫、一匹やれるか」

「仰せのままに」

「黒帯、巴御前、料理番はもう一匹を頼む。ヤバそうなら早めに言ってくれ、援護する」

「よっしゃ!」

「任せときな」

「ナビ女は余計なことするな。衛生兵は応援よろしく」

「余計って何よ? 私がいつそんなこと――」

「はい隊長ッ! おケガなどされませんよう、お気をつけてッ! ご武運をッ!」


 おっぱい。


 俺は爛れたアスファルトを蹴って、オッサン鳥の王へ一気に距離を詰めた。


「おいぃぃぃい!」


 オッサン鳥は俺の攻撃を警戒し、大きな翼を広げて後方へと飛び退り、間合いを取った。こういう動き、モンハンで見たことある。

 フン、腰抜けが。大きなナリして、どえらいビビりようじゃないか。

 心配すんな、あまり苦しまないよう殺してやるから。

 再度加速して、着地予想地点に先回り。

 うお! こいつの尻尾、ネズミみたいじゃないか。気持ち悪っ。


 そのキモ尻尾が、世にも恐ろしい唸りを上げでしなり、襲いかかってきた。

 ムチの先端は音速を超えるとテレビで見たことがある。当然、俺には見切れなかった。

 全力で回避してみたが、尻尾の先端が肩をかすめて大きな衝撃、ついで熱さと痺れるような痛みが追いかけてくる。


「……いってぇ」


 一瞬身動きが取れなくなるものの、耐えられないほどではない。痛みへの耐性もある程度備わっているのだろう。

 それよりも服のダメージのほうがデカい。

 そうか、何も考えずに学生服を着ていたが、これを期に違う服でも調達してみるか。

 とか何とか考えつつ、街路灯を蹴って大ジャンプ。

 これまた予想以上に高く飛べて「うぉっ」と声が出てしまい、ちょっと照れる。目の前にはオッサン鳥の王しかいないけどな。


 降下地点にうまいこと敵さんの翼が。

 これ幸いと、大上段に振りかぶったシャベルを全力で振り下ろした。


「おおぉぉぉぉい!」


 もっと豪快に血しぶきが上がるかと思ったんだが、奴の翼の骨に阻まれた。さすがに王ともなると、守備力的なものが雑魚とは違うらしい。

 そんなことよりも、俺はどこに着地したらいいんだ?

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