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29 「アタシはただの家庭科部部長(コック)さ」と彼女は言った

 このたびは、投稿ミス申し訳ありませんでした。

 感想にてお知らせくださった皆様、本当にありがとうございます!

 せっかく続きを読みに来ていただいた皆様には、ご迷惑をおかけいたしました。

 修正いたしましたので、お手数ですが改めてご覧いただけますと幸いです。

「オイ、オイ」


 上からオッサンの声がした。

 見上げると、さっきのサルっぽいヒトっぽい鳥が俺を見てニヤッと笑って、それから鳴いた。「オイ」


 俺はほとんどノーモーションで左手を振るい、雷をオッサン鳥に投げつけた。さすがにコントロールが拙く、窓枠に当たっただけだった。


「オイ、オイ、オイ」


 近くにいたもう一匹? もう一羽も加わって、黄色い歯を見せて鳴きだす。

 頭きた。

 今度はしっかり集中し、よく狙おう。今までよりも距離があるし、角度も違う。

 よし――当たれ!


 バレーボール大の電気の塊をオッサン鳥に再び放つ。

 今度は速度も狙いも申し分なし。


 慌てて窓から飛び立とうとした顔面に電気の塊が当たると、派手な爆発音がした。ち、もう一匹は先に逃げたか。


「やった!」


 うれしそうに声を上げたのは、俺じゃなくてナビ女。

 その笑顔が、痙攣したオッサン鳥から火が出てビル内部に燃え広がり始めると引きつりだした。


「オイ、オイ、オイ」


 逃げたほうが、俺たちの頭上を旋回しながら鳴く。


「宮沢、私にはあれが、仲間を呼んでるように見えるんだよ」

「奇遇だな、俺もだ」

「策はある……んだよね?」


 俺は黒帯を見て、何か言おうと思ったんだが結局何も思いつかず、嘘をついても仕方がないので本当のことを言った。


「ないな」


 潔く認めると、珍しく黒帯がため息をついた。

 おっ。初めて聞いたかも。

 でもそんな黒帯を、俺は心強く思う。


 振り向けば、ナビ女を筆頭に衛生兵も料理番も、恐怖に顔をひきつらせていた。巴御前は……相変わらずの「無」だったが。

 そのナビ女が。


「ねえ……何か来てる。いっぱい、私たち……囲まれてるわ!」


 その声は、悲鳴の中でも金切り声に近い。

 確かに、マーブル模様の空に無数の小さなものが蠢いている。

 奴らは徐々に高度を下げ、あるものはビルの窓や看板に、またあるものは街路樹に、放置された車の上に降り立ち、黄色い目で俺たちを見つめて口々に言うのだ。


「オイ、オイ、オイ」

「オイ、オイ」

「オイ、オイ、オイ、オイ」


 これは相当広範囲の攻撃が必要だな。

 俺一人だったら最大火力でぶっ放せばいいだけなんだが……パーティメンバーを巻き込みかねない攻撃はできない。

 ウダウダと考えている間にも、オッサン鳥どもは包囲網を狭めてくる。

 ノビ夫にメンバーの緊急避難を命じよう、そう思ったときだ。


「おどき」


 俺にドンとぶち当たり、わざわざ押しのけるようにして前に出てきたのは、小さな体に似合わないふてぶてしい笑みを浮かべた料理番。

 ……え、こいつ?


「あれだけ密集してくれると、アタシもやりがいがあるってもんだ。それに、いいじゃないか、あの白い羽毛。最ッ高に……燃えやすそうじゃないか」

「どうした料理番、下がってていいぞ。ここは俺が何とかする」

「ナメるんじゃないよ、オンブにダッコのご身分なんて御免だね。アタシだって戦えるんだ」

「お前が何らかの力を持っているのは間違いない。ただ、こういうのは向き不向きがある。だからそう、ヤケを起こすな」

「うるさいよ! 見てな。アタシがあいつらをまとめてローストしてやるんだから」


 俺が止めるのも聞かず、さらに距離を詰めてくるオッサン鳥の前へ踊り出る料理番。

 背負った戦利品回収用のボストンバッグから何やら取り出し、威勢よく啖呵を切った。


「いいかい、料理は、化学なんだよ!」


 叫びざまに、タマゴ大のものを手近なオッサン鳥に投げつけた。

 声の迫力とは裏腹に、球の勢いは今ひとつだ。速さよりも、確実に相手に届くことを目的としたピッチング。

 料理番の放った物体は大きな弧を描き、オッサン鳥のだいぶ手前に落下した。

 その途端。


 ドォン!


 視界がまばゆいオレンジ色に染まり、鼓膜がぶち抜かれるんじゃないかという巨大な爆発音が轟いた。

 次に、高温の熱風が叩きつけられる。目なんかとても開けていられない。息なんかしたら呼吸器がやられそうな予感しかない。


「オイ、オイ、オイ」

「オイ」

「オイ、オイ」


 オッサン鳥たちが一斉に上空へ避難しようとするが、


「させないよ!」


 あとはもう、ムチャクチャだった。

 料理番がボストンバッグから出しては投げ、出しては投げするたびに、ドッカンドッカンと爆発が起こり、オッサン鳥を吹き飛ばした。ついでに、ハリウッド映画みたいに車も景気良くぶっ飛ぶ。

 空へ逃げた奴らは、巨大な火柱に飲まれ、黒焦げになって墜落した。


 料理番は、笑っていた。屈託のない笑顔だ。俺が見た限りでは一番の。声を上げて笑っている。

 その表情と声だけなら、太陽きらめく南の島の浜辺でビーチバレーをしていると言っても違和感はないだろう。


 逃したオッサン鳥も少なくはなかっただろうが、あの数のバケモノどもをたった一人で撃退してのけたのは、間違いなくこの料理番だ。


「今のは、何だ?」

「『沈黙』シリーズ、アンタ知らないの? キッチンにあるものはね、ちょいと工夫してやりゃ爆弾になるんだよ」

「いや、そのシリーズは知ってるが……。それにしちゃ威力がおかしくないか?」

「そーね、アタシもそれは思った。でもいいでしょ、ショボいよりは」


 いくら無人のゴーストタウンだからといって、やりたい放題すぎる。

 一帯のビルも車も大炎上し、煙と灰が渦巻く中心に、俺たち六人と大蛇一匹のみが佇んでいるんだ。


 これはその後、料理番から直接聞いたんだが、調理実習室にあるオイルや調味料、洗剤、それから理科準備室から調達した薬品で、ちょっとした爆発物を作ったのだそうだ。

 火炎瓶に爆発力をプラスした程度の威力を想定していたらしいが、実際はとんでもない――文字通り火力を叩きだした。

 この現象は俺が思うに、爆発物を媒体として能力補正がかかり、火属性の魔法として発現した結果ではないだろうか。


 ひたすら煙にむせるナビ女。

 料理番の肩をバシバシ叩きながら褒め称える黒帯。

 乳を振り乱して喜ぶ衛生兵。

 無表情の口元だけを微かにほころばせている巴御前。

 彼女たちの中心で高笑いしている料理番は、パーティの主砲(ヌーカー)という立ち位置を確立した。

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