26 俺の魔力で携帯ゲーム機を充電するな
俺たちが戻ると、学校では生徒会が振り分けたチームごとに生徒たちが忙しく立ち働いていた。だいぶ組織立って動けるようになってきたらしい。
親父と日曜大工するのが趣味だった奴らが集い、とりあえずの応急処置として、校舎の窓を木材で塞いでいた。全部だと教室が真っ暗になってしまうため、一部は透明なビニールが張ってあるようだ。これで朝起きると体中が砂埃でザラザラ……ということにならないだろう。
そして、いいニュースと悪いニュースがあった。
順を追って説明すると、まず水が尽きた。蛇口を捻っても水が一滴も出なくなったと聞いたときには、さすがの俺も絶望感に打ちひしがれたさ。飲料水は遠征してコンビニなりスーパーなりを当たれば何とかなるとしても、飲用以外の用途は今まで以上に厳しく制限されるだろうからな。ちなみに昨日のシャワーは一人三分以内だった。それすらダメとなると……ほら、色々と不都合が出てきそうじゃないか。
しかし、解決策は予想外の角度からやってきた。
ノビ夫の知り合いの蛇っぽい魔物が、水の魔法を操れるというのだ。
実際にやってみてもらうと、貯水槽を余裕でいっぱいにできる水を放出射可能だった。化学部の連中の水質調査によれば、魔法の水は純水とのこと。一日程度で消滅するらしいが、シャワーや掃除などの飲用以外なら問題はないということで、水問題がめでたく解決したのだ。
それからそう、例の天変地異以降初めて、別の探索班が俺たち以外の生存者を発見した。
アパートの四階に一人で住んでいたという婆さんだ。
もっとドカッと生存者が集まってくると思って体育館を開けておいた生徒会だったが、あのだだっ広い空間に婆さん一人をポツンと放置するのもあんまりなので、一階の空き教室を使ってもらうことに。
いつも一人でいることの多いおチビ――クラスで一人だけ生き残った一年生の女子な――が懐いていた。俺も見ていてホッコリした。
――とまあ、帰ってきてからも何だかんだあり、次にどこを手伝うかと考えていたときだ。
「宮沢はいるか?」
3-Dの教室に、微かなオタク臭を漂わせた男子生徒三人がやってきた。一人は窓ガラスの餌食になったのか、顔じゅう包帯でぐるぐる巻きになっている。
その包帯男が声の主だった。
「ここにいる。どうした?」
「僕たちは科学部なんだが、一緒に来てもらえないかな。もしかすると、かなり有意義な結果がもたらされるかもしれないんだ」
これが通常の学校生活でなら、俺は恐らく応じなかっただろう。『BB』をプレイする時間を削りたくないからな。リアルの人間関係にはまったく興味がなかったんだ。
だが、今は状況が状況だ。
去っていく奴や命を落とす者がいて、俺たちの仲間は少なくなる一方。協力しなければならない。
俺はうなずき、奴らに同行した。
科学部に連れてこられたのは、用務員室の前だった。
包帯男は近くにある人が二人くらい入れそうな金属の箱を指さして言った。
「あれが何だか、君わかる?」
「知らん」
にべもなく答える俺に、包帯男は気を悪くしたふうもなく続けた。
「あれは、蓄電池だ。この学校は万が一のとき避難所にもなるから、国から補助金が出て、太陽電池から蓄電して電気を供給するシステムの構築を進めていたんだよ。体育館にも同じものがある」
「ただ、皮肉にも実装が間に合わなかった。太陽電池の取り付けがまだだったんだ」
「でも、こいつは生きている。電気さえ確保できれば、我々は文明の光を取り戻せる」
ほう。見事に三人が分担して説明してくれた。台本でも作ったのか?
感心している俺に、今度はチープな感じのする金属板が差し出された。蓄電池から延びた電線みたいなものに溶接されているみたいだが、手作り感が満載だった。蓄電池が真新しくて近代的なので、なおさらそう見えるのかもしれない。
「太陽電池はないが、どのみちこう外が暗くては役に立たなかっただろう。でも、この金属板で充電ができる」
「さあ、やってみてくれ」
そういうことか。
俺は返事代わりにニヤリと笑って見せた。
金属板を両手のひらで挟み、意識を集中。
痺れが来た。
特に放出しようと意識しなくても、力が金属板に吸い込まれていくような感覚がある。
「おい、どれくらいの力加減でやればいいんだ?」
「待て、ゆっくり。もう三〇パーセント貯まってる。加減てできるものなのか?」
「できる。今はけっこう絞ってる」
「じゃあ、そのままの力加減で。九〇パーセントを過ぎたら、さらに弱くだ」
「わかった」
ずいぶんと都合の良い力を授かったもんだ。
それに科学部の連中ももしかすると、科学技術や知識のスキルが向上したんじゃなかろうか。
自分が何者なのか、何ができるのか――それを意識して行動することが、こうなってしまった世界では重要なのかもしれない。
フル充電には、十分もかからなかった。
「部長、手動で蓄電池から電力を供給するよう切り替えた」
「了解。ではブレーカーを戻してみる」
部員だったらしい一人の声に、包帯男が応える。
一秒後、俺の耳にもカチリという小気味良い音が届いた。その途端――
「やった! エジソン万歳!」
「すごい! 電気がついた!」
「ああー、蛍光灯のぬくもりってスバラシイー!」
歓喜する科学部。
確かに、校舎そのものがまるで息を吹き返したかのような気がした。
遠くからも喜びはしゃぐ声が聞こえてくる。
そしてこの瞬間、俺の校内での役割は充電係に決定した。