25 スカートでハイキック、それがお前のジャスティス
空からの強襲者に、俺は戦慄する。
テレビで見た、渋谷のスクランブル交差点で中継を続行不能にせしめた謎の飛行物体が脳裏をよぎったからだ。あの映像はもはや、俺のトラウマと言ってもいい。
目を凝らせば、俺の記憶にあるような悪夢のたまご型ではないとわかる。一対の常識的な翼が生えているが、鳥にしては攻撃時の体勢がどことなく不自然だ。
まあひとまず、よかった……。
だが、そいつは巴御前に背後から襲いかかろうとしている。彼女自身はナビ女の警告で気づいているのだろうが、まだ体勢を立て直せていない。
近くにはノビ夫が控えているから大丈夫だと思うが、俺も一応左手に力を蓄えて遠隔攻撃の準備をしておく。
しかし、俺は次の瞬間、我が目を疑うことになる。
黒帯が急降下中のバケモノに気づき、反応した。
まず、巴御前とバケモノの間に割って入る。
両手の包丁を構え――るのかと思ったらかなぐり捨てた。ちょ……。
黒帯の体が沈む。
降下してきたバケモノに、対空ハイキックが炸裂!
うおおお! バケモノの首がもげたあああ!
忘れていた。黒帯は空手部だったじゃないか。
パーティに合流した俺は、どういう顔をして黒帯の活躍を称賛すればいいのかわからず、無言でサムズアップしてみせた。
黒帯は俺が言わんとすることを察してくれたようで、笑顔のガッツポーズで応えてくれる。
うむ、いいな。この、パーティの通じ合ってる感。
勝利後恒例となった、衛生兵のバインバインダンスも見られて、俺は満足だ。
だって、普通見たことないだろ? 高速で上下移動する乳の残像なんて。
「今日のところは引き上げよう」
「おや、せっかくノってきたところなのに残念だね」
「縄張りの中はともかく、外に出ようとするならそれなりの準備をしてからのほうがよさそうだ。こう次々にバケモノが現れてはキリがない」
「よ、よかったー。早く帰ろ帰ろ」
俺の撤収宣言に、黒帯は暴れたりなそうだったが、ナビ女は一も二もなくうなずいた。
今回の戦闘でも、レベルアップのファンファーレこそ聞こえなかったが、多少の成長ができているはず。これをもう少し効率的に……その、パワーレベリングしてみるか。
新エリアの開拓は充分なレベル上げをしてからというのは、どのRPGでもお約束だもんな。
それでもって、調子に乗って遠くの街でセーブしてしまい、周囲の敵のレベルが高すぎて正規ルートに戻れないからのキャラデリというコンボもある。曲がりなりにも現実である以上、このパターンは避けたい。
俺たちは再びノビ夫に騎乗し、学校へ戻ることにした。
「B組にトランプ持ってる奴がいるんだよ。だから昨日はずっと七並べやってたね」
「いいですね、カードゲームッ! やはり最強なのは、電気がなくても遊べるアナログゲームでありますッ!」
「私も今度、行ってみてもいいかな?」
「もっちろんだよ! 今夜もやろうって話してたから、茜もおいで」
帰りの道中、後ろでは主に黒帯と衛生兵が雑談で盛り上がっていた。
行きはノビ夫を怖がってそれどころではなかったナビ女も、慣れたのか話に加わっている。
巴御前の声が聞こえないのはデフォとして、問題は料理番だな……。
お仲間と思っていた黒帯が能力を開花させたので、取り残されたような疎外感を覚えているのだろうと察しがつく。
ネトゲでリーダーやっていても、結構あるんだ。
出発前は饒舌だったのに、同じパーティに自分より有能な奴がいるとわかったとたんに無言になる奴が。
自分が目立てなくてぶんむくれているわけだな。
料理番の性格からしてそういうわけではないと思うが、パーティの中で自分だけ戦力にならないというのはもどかしいはずだ。
離脱を宣言されないように、何か手を打つべきだろう。
本当に、リーダーは気苦労が多いぜ……。
今思えば、黒帯は空手部だけに、最初から体術系の戦闘技能を持っていたのだろう。
だが下手に包丁を装備してしまっていたため、それが手枷となり攻撃力が大幅ダウンしていた。
ステゴロ職が異様に弱いから変だと思い、試しに武器を外してみたら強すぎてフイタ……というゲームがかつてあったらしい。
黒帯はこのパターンだったが、料理番は何だろうか。
母の名を冠する伝説の名作RPGよろしく、フライパンでも装備させてみるか。
たとえ戦力になどならなくても、ちょっと生意気で得意げな笑顔で恩着せがましく美味い物を振る舞ってくれるだけで、俺はありがたいんだけどな。